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In re David Fought, Martin Clanton 事件

CAFC No. 19-1127 (November 4, 2019)

−クレームのプリアンブルを本文と区別する移行句について判断したCAFC判決−

CAFCはこの判決で、トラベルトレーラーについての特許出願が貨物トレーラーや 輸送トレーラーをカバーする先行技術によって拒絶されるか否かの問題を扱った。CAFCは、クレームの用語「トラベルトレーラー」は特定の種類のレクリエーション用車両に限定され、従って、先行技術は、対象クレームを拒絶するものではないと判示した。さらに、裁判所は、クレームされた発明が先行技術によって拒絶されるとする特許審判部(「審判部」という)の結論を裏付ける実質的な証拠はないと判示した。従って、裁判所は、審判部の判断を覆して、更なる審理のために事件を差し戻した。

David Fought とMartin Clanton(総称して「原告ら」という)は、米国特許出願第13/507,528号(「V528特許出願」という)に記載された発明者である。2012年7月5日に出願されたV528特許出願は、トラベルトレーラーの構成に関する。かかる明細書は、壁アセンブリによって分離された2つのコンパートメントである居住部分およびガレージ部分を有するトレーラの好ましい実施形態を記載している。この出願は、2つのクレームを含み、各クレームは、クレームの導入部分に「トラベルトレーラー」なる用語を含んでいる。

特許審査官は、AIA施行前の 米国特許法102条(b)に基づいて当該2つのクレームを拒絶した。クレーム1は、米国特許第4,049,311号(「Dietrich」という)に基づいて拒絶された。Dietrichは、「冷蔵トレーラーのような従来のトラックトレーラー」を記載している。クレーム2は、米国特許第2,752,864号(「McDougal」という)に基づいて拒絶された。McDougalは「輸送コンパートメント用の仕切り」について記載している。

審査段階では、原告らは、DietrichとMcDougalのいずれも「トラベルトレーラー」を記載していないため、これらによってそれぞれクレーム1と2が拒絶されないことを主張して審査官の拒絶に応答した。さらに、原告らは、更に「トラベルトレーラー」は「レクリエーション用車両のタイプ」であると主張し、「トラベルトレーラー」および「レクリエーション用車両」の意味を裏付けるための外的証拠である米国特許出願公開第2010/0096873号(「Miller」という)を示した。審査官は、クレーム1及び2のプリアンブルで使用されている用語「トラベルトレーラー」は単なる用途であり、請求項を限定するものではないから、クレームは先行技術によって拒絶されるものである、と判断して、その拒絶を維持した。

原告らは、審判部に審判請求を行った際に、「トラベルトレーラー」がクレームを限定しているため、先行技術による拒絶は回避されるべきである、という立場をサポートするように追加の外的証拠であるWoodallのRV買主ガイド(「Woodallのガイド」という)を引用した。原告らはまた、審査官が当業者の技術水準を扱うことなく米国特許法102条に基づいてクレームを拒絶しており、その判断は誤りであるとも主張した。用語の意味を判断するために、特許請求の範囲は、当業者によって読まれるように、明細書に照らして読まれる。審判部は、2018年8月28日にした審決では、審査官の米国特許法102条に基づく拒絶を維持し、プリアンブルの「トラベルトレーラー」なる用語は、「クレームを限定しない単なる用途の記載」であると述べた。審判部は、「トラベルトレーラー」という用語は、クレーム2の本文には記載されておらず、クレーム1の本文に1回だけ記載されていることに言及した。審判部は、「Dietrichは、議論の余地はあるとしても、トラベルトレーラーを除く請求項1に列挙されている各特徴を記載しており、McDougalは、議論の余地はあるとしても、トラベルトレーラーを除く請求項2に列挙されている各特徴を記載しており、また、トラベルトレーラーという用語は、用途または目的についての記載であるから、請求項1はDietrichによって拒絶され、請求項2はMcDougalによって拒絶される」と述べた(Ex Parte David Fought & Martin Clanton, No. APPEAL 2017-000315, 2018 WL 4458741, at 3 (P.T.A.B. Aug. 28, 2018))。審判部は,審査官が当業者の技術水準を特定する必要があるとする原告らの主張には言及しなかった。

その後、原告らは、審判部の法的結論をあらためて審理し、また事実認定に実質的証拠があるかを審理するCAFCに出訴した。クレーム解釈の問題は法的結論であり、外的証拠を伴う事実判断は実質的証拠について再審理される。プリアンブルの文言による効果は、クレーム解釈の問題として扱われる。

控訴審では、両当事者は、プリアンブルの「トラベルトレーラー」なる用語がクレームを限定しているかどうかについて争った。原告らは、用語「トラベルトレーラー」はクレームを限定するものであるから、クレームは先行技術の引例によって拒絶されるものではないと主張した。原告らの主張は、(1)特許クレームがプリアンブルを含んでいないため、当該クレームは直接的に構造を定義するようになっていること、及び(2)仮に「トラベルトレーラー」がプリアンブルの一部であると解釈されたとしても、それは先行詞としてクレームの本文において引用されていること、の2点を根拠とするものであった。審判部は、「トラベルトレーラー」は、発明の構造的特性を規定する用語というよりは、用途の非限定的な記載であると主張した。

第1の観点について、原告らは、「備える(comprising)」のような移行句は、クレームのプリアンブルと本文との間の移行を意味すると主張した。 クレーム文言の「トラベルトレーラー(a travel trailer)は、...有する(having)」は、 そのような移行句を使用せず、クレームはプリアンブルを有しない。ムーア判事は、「有する」は典型的な移行句と同じ役割を果たしており、従って、請求項はプリアンブルを有する、と判断した。

第2の観点について、原告らは、「トラベルトレーラー」がプリアンブルにあるとしても、「クレーム本体部における限定が、先行詞及び構造的限定のために『トラベルトレーラー』に依存する」ので、「トラベルトレーラー」はクレームを限定するものと解釈されるべきであると主張した。裁判所は、請求項1の本文において、「前記トラベルトレーラー(the travel trailer)」という文言は、先行詞として「トラベルトレーラー(a travel trailer)」であるプリアンブルの記載に依存していると判断して、原告らの主張に同意した。裁判所は、用語がクレーム本体部に現れる用語の先行詞として機能する場合には、しばしばプリアンブルは限定的であることに言及した。

さらに、裁判所は、「トラベルトレーラー」が単なる用途の記述であり、構造的な限定ではないという審判部の結論を棄却した。この点に関し、裁判所は、審判部の事実認定は実質的な証拠によって裏付けられていないと述べた。審判部の事実認定は、(1)Miller及びWoodallのガイドによる、牽引可能性に基づく他のレクリエーション車両からのトラベルトレーラーの区別は、用途を構成し、(2)Millerによって明確化された、レクリエーション車両とトラベルトレーラーが貨物スペースよりもむしろ生活スペースを有することは、用途を構成する、というものであった。裁判所は、外的証拠(すなわちMiller 及びWoodallのガイド)に基づいて、「トラベルトレーラー」は特定のタイプのレクリエーション用車両であり、この用語はクレームの構造的な限定であると結論づけた。裁判所は、「牽引可能性は構造的相違であって用途ではない」ことに言及した。「トラベルトレーラー」は限定であるため、貨物トレーラーと輸送コンパートメントを開示しているDietrichとMcDougalによって拒絶されないことに争いはなくなった。裁判所は、「家を倉庫と混同しないように、トラベルトレーラーをトラックトレーラーと混同するものではない」と述べた。裁判所は事件を差し戻した。

原告らはまた、審判部が当業者の技術水準を明示的に述べていないため、審判部の判断は誤りである旨を主張していた。裁判所は、原告らの主張を認めなかった。クレームは、「明細書に照らして、当業者が解釈するように」解釈される(Phillips v.AWH Corp.、415 F.3d 1303、1316 (Fed.Cir.2005))。裁判所は、審判部及び審査官の何れも、特許権者が当業者の技術水準を争点に置き、かつ、その争点が結果をどのように変えるかを特に説明しない限り、当該当業者の技術水準を明確に述べる必要はないと述べた。ここで、原告らは、当業者の技術水準が結果を変えるような何らかの特異性を提供すること無く、審判部の決定に対する一般的な反論を主張していた。従って、審判部は、当業者のレベルを明確にしないことによって誤った判断を行っていない。

この判決は、クレームのプリアンブルをクレームの本文と区別するための「備える(comprising)」などの特定の用語が必要でないことを強調している点で重要である。むしろ、「有する(having)」または「含む(including)」などの別の用語がその機能を発揮して、クレーム本体部からプリアンブルを分離することができる。さらに、この判決は、クレームの主題を特定するためにクレームのプリアンブルで使用されるラベル(例えば、「トラベルトレーラー」)が、たとえそれらの構造的限定がクレームの本文に明示的に記載されていなくても、当業者がそれらの構造的限定が暗示的であることを理解していれば、クレームに構造的限定を課すことができることを強調している。これは、クレームのスコープを効果的に狭めることができ、プリアンブルの文言を選択する際には注意が払われるべきである。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、クレームのプリアンブルをクレームの本文と区別する移行句について判断した。具体的には、クレームのプリアンブルを本文と区別するための「備える(comprising)」などの特定の用語は必要でなく、「有する(having)」または「含む(including)」などの別の用語がその機能を発揮して、クレーム本体部からプリアンブルを分離することができることを判断した。また、この判決は、クレームの主題を特定するためにクレームのプリアンブルで使用されるラベル(例えば、「トラベルトレーラー」)が、クレームに構造的限定を課す場合があることも判断した。すなわち、プリアンブルに記載された用語により、クレームのスコープを効果的に狭めることができる場合がある。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大出純哉

弁理士 大出純哉
大塚国際特許事務所 弁理士。平成23年弁理士登録。筑波大学大学院・工学研究科・知能機能工学専攻・修士課程修了。ソニー株式会社にて、テレビ受信機等のソフトウェア開発に従事した後、社内弁理士としてグローバルな特許資産の活用業務に従事。有力特許の抽出、製品解析を含む侵害立証、交渉等を通して新規ライセンス獲得に貢献。ソフトウェア、通信ネットワーク、放送技術、画像処理等のIT分野の特許、訴訟を得意とする。週末のボクシングジムでの運動が楽しみの一つ。

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