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Koninklijke KPN N.V. 対 Gemalto M2M GMBH 事件

CAFC Nos. 2018-1863, 2018-1864, 2018-1865 (November 15, 2019)

−既存の技術プロセスに対する具体的な改善を記載していれば、
データ処理に関するクレームも特許適格性を有することを再確認したCAFC判決−

CAFCはこの判決で、Konklijke KPN N.V. (「KPN」)が所有する、データ伝送システムにおけるエラーチェック装置に関する特許が、特許法101条に基づいて特許適格性を有するか否かの問題を扱った。CAFCは、Alice Corp.対.CLS Bank International事件で示された枠組みを適用して、問題となっているクレームは「抽象的でない改善」を表しているため、特許適格性を有すると判断した。その際にCAFCは、既存の技術プロセスに対する具体的な改善をクレームが記載している場合には、ソフトウェア特許の特許適格性が認められるという先例を再確認した。

KPNは、米国特許第6,212,662号(「’662特許」)を所有している。‘662特許は、データ伝送システムにおいて「エラーチェックを生成する」ための装置に関する。しかしながら、このような装置は常に信頼できるとは限らない。なぜなら、「特定の周波数を有する干渉信号」のような環境中において持続する特性が、各データブロックにわたって繰り返す特定のエラーの原因となり得るからである。‘662特許の発明者は、この問題を解決しようとして、チェックデータが生成される方法を時折変更する方法を開発した。

KPNは、Gemalto M2M GmbH、Gemalto Inc.、Gemalto IOT LLC、TCL Communication Technology Holdings Limited、TCL Communication, Inc.、TCT Mobile, Inc.、TCT Mobile (US) Inc.、TCT Mobile (US) Holdings, Inc.、及びTelit Wireless Solutions, Inc. (まとめて「Gemalto」とする)を、'662 特許を侵害しているとして、デラウェア地区連邦地裁に訴えた。

Gemaltoは、’662特許の4つのクレーム(クレーム1〜4)の全てが、米国特許法101条の下で特許適格性を有さないと主張して、連邦民事訴訟規則12条(c)に基づく訴答に関する判決(judgment on the pleadings)を申し立てた。地方裁判所は、4つのすべてのクレームについてGemaltoの申し立てを認め、「データの並べ替え及び追加データの生成」のような単なる抽象的なデータ操作を超えるものをクレームは記載していない、と結論付けた。KPNは、従属クレーム2〜4についてのみ、特許不適格との判決に対して上訴した。上訴されたクレームは、「データブロック内のビット位置を交換する」「置換」によって、元のデータを変化させる装置に関する。

CAFCは、米国特許法101条に基づく特許適格性は、根拠となる事実問題を含むかもしれないものの、法律問題であるために、この争点を新たに(de novo)検討した。クレームされた主題が特許適格性を有するか否かを判断するためには、Alice Corp. 対 CLS Bank International 事件で説明された2段階の枠組みが適用される。Alice分析の第1ステップは、「問題となっているクレーム」が、抽象的アイデアのような「特許不適格な概念に向けられているかどうかを判断する」ことである。クレームが特許不適格な概念に向けられている場合には、第2ステップで「クレームされた抽象的アイデアを特許適格性を有する応用に『変換』するのに十分な『発明的概念』をクレームが含んでいるか」が判断される。 CAFCは、Alice分析の第1ステップにおいて、上訴されたクレームは抽象的アイデアに向けられたものではないと結論付けた。したがって、CAFCは分析の第2ステップには進まなかった。

第1ステップにおいてCAFCは、上訴されたクレームは既存の技術プロセス(すなわち、データ伝送における誤りチェック)における抽象的ではない改善に向けられているために、特許適格性を有すると判断した。CAFCはさらに、上訴されたクレームは、元のデータに置換を適用することを要求することによって、チェックデータが生成される方法を変更するための特定の実装例を記載していると説明した。このことは、系統的エラーを検出する従来技術のエラー検出システムの能力を超える改良を提供する。

Gemaltoは、上訴されたクレームは「具体的な応用」を欠いているために特許適格性を有さないと主張した。CAFCは、既存のシステム(例えば、データ伝送誤り検出システム)の一部としてのツール(例えば、誤り検査装置)の機能を改善することに向けられたクレームは、特許適格性を有するために、そのツールが全体のシステムにおいてどのように適用されるか(例えば、どのように誤り検出を行うか)を記載する必要は必ずしもないと説明して、Gemaltoの主張を排斥した。

Gemaltoはさらに、クレームは置換データを新しいチェックデータの生成と結びつけていないため、このような改善はクレームに十分に取り込まれていないと主張した。CAFCは、クレーム1は論理的に「元のデータが、『変化したデータ』として生成装置に供給される前に置換によって変化させられる」ことを要求することによってこのような改善を適切に取り込んでいるとして、この主張も排斥した。

Gemaltoは、たとえクレームがこの改善を取り込んでいたとしても、チェックデータを生成するために置換を使用することの技術的利益に明細書で全く言及していないために、上訴されたクレームは特許適格性を有さないと主張した。CAFCは、明細書は全体として発明の技術的利益を説明しているとして、再度この主張を排斥した。明細書は、通常のチェック機能とは対照的に「変化するチェック機能」はほとんどの場合繰り返すエラーを防止することができ、「変化するチェック機能」を提供する1つの方法が「様々な置換」を用いることである、と述べていた。

最後にGemaltoは、本件のクレームは、以前の判例において特許不適格と判断された抽象的な「データ操作」クレームに類似していると主張した。CAFCは、以前の判例とは異なり、本件のクレームは「主張されている技術的改善を具体的なものとするのに十分に特定された解決策」を記載しているとして、この主張を排斥した。

ソフトウェア発明が特許適格性を有すると判断された先例をCAFCが再確認した点で、この判決は重要である。この判決は、特にデータ処理の分野において、ソフトウェア特許を扱う実務者にとって、特許適格性に関する有益なガイドラインを提供している。本件における認定によれば、技術的改善に向けられている特許クレームは、単に達成されるべき結果を記載するのではなく、改善を提供するための特定の方法又は手段を記載しているのであれば、特許法101条の特許適格性要件を満足する可能性が高い。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、既存の技術プロセスに対する具体的な改善をクレームが記載している場合には、ソフトウェア特許の特許適格性が認められるという先例を再確認した。 この判決は、特にデータ処理の分野において、ソフトウェア特許を扱う実務者にとって、特許適格性に関する有益なガイドラインを提供している。本件における認定によれば、技術的改善に向けられている特許クレームは、単に達成されるべき結果を記載するのではなく、改善を提供するための特定の方法又は手段を記載しているのであれば、特許法101条の特許適格性要件を満足する可能性が高い。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 木下智文

弁理士 木下智文
大塚国際特許事務所 弁理士。平成25年弁理士登録。東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬学専攻・修士課程修了。薬剤師。日本弁理士会国際活動センター米州部副部長、同部研究成果報告セミナー講師。大塚国際特許事務所のシステムアドミニストレータとしても活躍する。医薬、化学、ネットワーク、画像処理の特許、訴訟を得意とする。近年マラソン大会に出場することを趣味としているが、体型のためかクライアントに自慢すると賞賛されずに心配される。

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