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Airbus S.A.S. 対 Firepass Corporation 事件

CAFC, No. 19-1803 (November 8, 2019)

−自明性に関する「類似する先行技術」としての適格性の立証に追加証拠を
利用可能であることを示した判決−

Airbus S.A.S. 対 Firepass Corporation事件において、CAFCは、Firepass Corporation(以下、「Firepass」)が所有する特許の当事者系再審査中にAirbus S.A.S.(以下、「エアバス」)が利用した先行技術文献が、自明性を決定する目的における類似の先行技術としての適格性を有するか否かを扱った。自明性の分析において利用するためには、先行技術はクレームされた発明と類似していなければならない。CAFCは、発明時の当業者の知識及び考え方を立証するためにエアバスによって提出された記録証拠を評価することを特許審判部(以下、「審判部」)が拒絶した点において、審判部の類似技術の分析に誤りがあると判断した。したがって、CAFCは、審判部の決定を取り消し、追加証拠に照らして再審理を行うために事件を差し戻した。

Firepassは、米国特許第6,418,752号(以下、「’752特許」)の特許権者である。’752特許は、「水、泡、又は有毒化学薬品の代わりに呼吸可能な空気を使用して火災を予防及び消火」し、それにより人員又は電子機器に対するリスクを低減する火災予防及び抑制システムを開示する。’752特許は、低酸素雰囲気を使用して、コンピュータルーム及び宇宙船などの閉鎖領域における火災を抑制及び消火することを論じている。‘752特許は、同じ空気圧を維持するように窒素を投入しながら酸素の雰囲気濃度を低下させることによって、火災を抑制することができ、一方で人間は呼吸を継続することができることを説明している。

Firepassは、’752特許の侵害を主張して、ニューヨーク州東部地区連邦地方裁判所にエアバスを提訴した。これに対し、エアバスは、’752特許に対する当事者系再審査の請求を提出した。エアバスは、’752特許が35 U.S.C. §102の下で米国特許第5,799,652号(以下、「Kotliar」)により新規性を欠くと主張した。再審査中に、Firepassは請求項91〜94を追加した。他の理由に関して行われた先行する出訴の後、本事件はCAFCにより差し戻され、審査官は、Kotliar及び他の4つの引用文献に基づいて請求項91〜94を拒絶した。Kotliarは、’752特許と同じ発明者を有し、運動訓練又は治療の目的で閉鎖領域に低酸素空気を供給するための装置を開示している。他の4つの引用文献は次のとおりである。(1)Gustaffson、これは「いわゆる『難燃性雰囲気』である常圧低酸素環境における長期滞在中の人間の能力」に集中した研究である(Christina Gustafsson et al., Effects of Normobaric Hypoxic Confinement on Visual and Motor Performance, 68 AVIATION, SPACE, & ENVTL. MED. 985 (1997))。Gustafssonは、閉鎖空間における火災予防のために酸素レベルを低下させることが論じられてきたと述べている。(2)1167レポート、これは密閉室のための火炎抑制雰囲気に対する医学的危険性を評価した米国海軍のレポートである(D.R. KNIGHT, NAVAL SUBMARINE MED. RESEARCH LAB., REPORT NO. 1167, THE MEDICAL HAZARDS OF FLAME-SUPPRESSANT ATMOSPHERES (1991))。(3)Luria、これは「窒素ベースの難燃性雰囲気」が人間の能力に及ぼす影響を評価したレポートである(D.R. Knight et al., Effect of Nitrogen-Based, Fire-Retardant Atmospheres on Visual and Mental Performance, UNDERWATER AND HYPERBARIC PHYSIOLOGY IX (1987))。Luriaは、火災を軽減するために酸素濃度を低下させることを論じている。(4)米国特許第3,893,514号(以下、「Carhart」)、これは酸素のパーセンテージを低下させることが火災をどのように抑制することができるかを論じている。Carhartは、「火災が抑制される環境内の人間に有害な影響を及ぼすことなく火災を抑制するために、居住可能な雰囲気を含む閉鎖領域に圧力下で窒素を投入するシステム及び方法に関する」。

Firepassは、審査官による請求項91〜94の拒絶について審判部に対する審判請求を行った。Firepassは、Kotliarは’752特許のクレームされた発明に類似した技術ではなく、したがって、Kotliarは自明性を判断する目的において妥当な先行技術ではないと主張した。しかし、エアバスは、「酸素雰囲気の減少により呼吸可能かつ火災抑制の両方が可能であることが、’752特許の主張されている発明より前によく知られており」、したがってKotliarは自明性の分析において考慮されるべきであると主張した。エアバスは、Kotliarは自明性のために考慮される先行技術に含まれるべきであるという自身の主張をサポートするために、Gustafsson、1167レポート、Luria、及びCarhartを利用した。

審判部は、Kotliarは類似技術ではないと判断し、請求項91〜94に関する審査官の拒絶を取り消した。2つの別個のテストが、類似の先行技術の範囲を規定している。「(1)対象とされる課題にかかわらず、当該技術が同一の努力分野からのものであるか否か、及び(2)当該引用文献が発明者の努力分野内にない場合は、当該引用文献が依然として、発明者が関与する特定の課題に合理的に関連しているか否か」(In re Bigio, 381 F.3d 1320, 1325 (Fed. Cir. 2004))。「発明者の努力分野外の引用文献は、その主題が『発明者が課題を検討する際に論理的に発明者の考慮に値したであろう』場合に限り、『合理的に関連』する」(In re Clay, 966 F.2d 656, 659 (Fed. Cir. 1992))。審判部は、Kotliarはこれら2つのテストのいずれにおいても先行技術としての適格性を有さないと結論付けた。

「努力分野」のテストに関して、事実認定者は、クレームされた発明に係る機能、実施形態、及び構造を含む、特許出願に開示された主題を考慮することによって、発明のための適用可能な努力分野を決定する。ある引用文献に関する適用可能な努力分野を決定する際には、その引用文献の開示が第一義的な焦点であるが、事実認定者は、「状況の現実」を考慮して引用文献の開示を検討しなければならない。審判部は、’752特許に関する努力分野は「火災予防/抑制のための装置及び方法」であると判断した。Kotliarについては、審判部は、適用可能な努力分野は「人間の治療、健康、及び身体訓練」であると判断した。これらの判断に基づいて、審判部は、Kotliarが’752特許の努力分野内にあると合理的にいうことはできない結論付けた。

「合理的に関連する」のテストに関して、審判部は、’752特許の「発明者が立ち向かった火災抑制/予防の課題を」、「人間の治療、健康、及び身体訓練に関する」Kotliarに開示された発明に「十分に関連づける明確な合理的根拠はない」と判断した。エアバスは、低酸素環境の健康への影響の研究に関する他の先行技術文献(例えば、Gustafsson)を提示して、火災を抑制するための本発明の時点でこれらの環境がよく知られていたことを示した。そのような知識に基づき、エアバスは、火災抑制技術における当業者であればKotliarを考慮したであろうから、それによりKotliarは妥当な先行技術となり’752特許は自明になると主張した。しかし、エアバスが自身の立場をサポートするために使用した他の4つの引用文献はいずれも、審査官による請求項91〜94の拒絶をサポートするためには使用されていなかったため、審判部は、「呼吸可能な火災抑制環境は当技術分野においてよく知られていた」というエアバスの主張を検討することを拒絶した。

エアバスはCAFCに出訴し、Kotliarが’752特許のクレームされた発明に類似していないという審判部の判断に異議を唱えた。引用文献が類似の先行技術としての適格性を有するか否かは、CAFCが実質的な証拠について再審理する事実問題である。「努力分野」のテストに関して、CAFCは、Kotliarが’752特許と同じ努力分野からのものではないという審判部の結論が実質的な証拠により支持されていると判断した。審判部の結論は、’752特許の開示及びタイトル、並びにKotliarの開示及びタイトルに基づいており、審判部は「火災」という用語がKotliarには全く現れないことに留意していた。CAFCは、この点における審判部の判断は不合理ではないと述べた。

「合理的に関連する」のテストに関して、CAFCは、「発明者が解決しようとしていた課題の解決法を当業者が追求する際に、合理的に当業者が引用文献を考慮してその教示を適用したであろう」場合には、それらの引用文献は合理的に関連していると判断した(In re GPAC Inc., 57 F.3d 1573, 1578 (Fed. Cir. 1995))。しかし、扱われる課題が実質的に異なる場合、引用文献は合理的に関連してはおらず、したがって類似していない。このテストに関する審判部の判断を分析したところ、CAFCは、エアバスが提出した記録証拠の検討を拒否したという点で審判部に誤りがあると判断した。CAFCは、引用文献が合理的に関連するか否かを判定するために審判部は「当業者の知識及び考え方を立証するために当事者によって引用された記録中の如何なる関連証拠についても考慮」すべきである、と述べた。CAFCは、審査官の拒絶に関する審判部の取消を取り消し、類似技術の判断の再検討のために事件を審判部に差し戻した。

この判決は、自明性の分析において慮することができる類似の先行技術の範囲に影響を及ぼすため、重要である。特に、先行技術文献が表面的にはクレームされた発明が扱う課題に合理的に関連していないように見える場合であっても、実際にはその先行技術文献が合理的に関連しており当業者がそれを考慮したであろうことを示すために、追加の引用文献及び証拠に頼ることができる。したがって、先行技術が関連性を有する理由を立証する追加証拠を導入することによって、見かけ上は特許クレームに関連しない先行技術を使用して、そのクレームの特許性又は有効性に異議を唱えることに成功する可能性があり、そのような追加証拠は全て検討されるべきである。

この判決のポイント

自明性の拒絶理由に用いる先行技術は、クレームされた発明に類似する先行技術(analogous prior art)でなくてはならない(MPEP § 2141.01(a))。この判決は、特定の先行技術が「類似する先行技術」であることを立証する目的で、他の引用文献のような追加証拠に頼ってもよいことを示した。したがって、一見するとクレームされた発明に類似しない先行技術であっても、適切な追加証拠を用意すれば、そのような先行技術に基づいて特許を無効にできる可能性がある。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 坂田恭弘

弁理士 坂田恭弘
大塚国際特許事務所 弁理士。平成16年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子工学専攻・修士課程修了。当事務所において13年以上にわたり、様々な技術分野での権利化及び訴訟を担当。特に情報通信(ICT)、移動通信、画像処理などの分野を得意とする。

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