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Kolcraft Enterprises, Inc. 対 Graco Children’s Products, Inc. 事件

CAFC Nos. 2018-1258; 2018-1260 (July 2, 2019)

−発明日を認定するために発明者から独立した証拠を要求した判決−

CAFCはこの判決で、先行技術の日付よりも前に発明が着想されたことを立証するために、発明者の証言だけでは十分ではないことを再確認した。そうではなく、着想した日が前であることを裏付けるために、発明者から独立した証拠が存在しなければならない。

米国意匠特許第D604,970号及び第D616,231号("対象特許")は、Kolcraft Enterprises, Inc.("Kolcraft")によって所有され、それぞれがプレイヤードの露出した脚の装飾意匠をクレームに有する。Damon Troutman及びEdward Bretschgerは、クレームに係る設計の発明者である。対象特許は両方とも、2004年11月5日に出願された米国特許出願に対する優先権を主張する。したがって、米国特許改正法("AIA")の先発明者先願主義のルールは対象特許に適用されず、出願日前の発明の日付を証明することが認められる。

Graco Children’s Products, Inc.("Graco")は、対象特許の当事者系レビュー("IPR")の申請を提出し、クレームに係る意匠が米国意匠特許第D494,393号("Chen")に照らして自明であると主張した。特許審判部("審判部")は、両対象特許について単一のIPRを開始した。Kolcraftは、審判部に対して、Chenの出願日である2004年1月7日よりも前に発明者(Troutman及びBretschger)がクレームに係る意匠を着想し、努力して実施化していたため、Chenは先行技術として適格でないと主張した。Chenの出願日よりも前の着想を証明するために、Kolcraftは、発明者によって提出された宣言書("発明者宣言書")と、IPRの証言録取中に取られた発明者の証言とに依存した。

発明者宣言書は、プレイヤードの写真及びスケッチの集合と、Troutman及びBretschgerが発明したと主張するプレイヤードのプロトタイプを組み立てるための指示とからなる書証A〜Hを含んでいた。発明者宣言書は、書証の創作日と称する記述を含んでいたが、その日付自体は編集されていた。発明者Troutmanの証言録取に先立ち、Kolcraftは発明者宣言書の未編成の写しをGracoに提供し、Troutmanは、未編集の発明者宣言書における書証A〜Hの作成日が、書証を含むコンピュータファイルに関連するメタデータに基づいていたことを証言した。審判部は、この記録に基づいて、Chenが出願される前に対象特許の着想、努力、及び実施化が行われたことをKolcraftが証明できなかったと判断し、Chenに照らして自明であることから対象特許が無効であると判断した。

KolcraftはCAFCに控訴した。控訴に際して、Kolcraftは対象特許がChenに照らして自明であることを争わず、代わりに、発明者が先の発明日の資格を有するため、Chenが先行技術として適格でないとだけ主張した。しかし、CAFCは、KolcraftがChenの出願日よりも前の着想、努力及び実施化を立証できなかったことについて審判部に同意した。この結論に至るまでに、CAFCは、「着想に関する発明者証言は、他の独立した情報によって裏付けられなければならない」と述べた。CAFCは、Apator Miitors ApS 対. Kamstrup A/S事件, 887 F.3d 1293 (CARC 2018年)の判決を引用した。この事件では、すべての裏付け証拠が発明者のみに依存するため、先の着想に関する発明者証言が十分に裏付けられていないと判断された。Apator事件では、着想に関する発明者証言を裏付ける証拠として、発明者から様々な第三者への電子メール、及び作成日を示すと主張される特定の命名規則を使用して命名された図面が含まれていた。発明者は、電子メールが本発明の着想を示す添付ファイルを含んでいると主張したが、ファイルが添付されていることは電子メールのヘッダに示されていなかったし、電子メールの本文も添付ファイルの内容を示していなかった。したがって、CAFCは、ファイルが電子メールに添付されたかどうか、添付ファイルの内容、又は図面の作成日を独立して認識できなかった。

CAFCは、この事件の証拠の裏付けがApator事件のものよりもさらに弱いと判断した。この事件では、着想の唯一の証拠が対象特許の発明者に由来する。発明者宣言書及び証言録取の証言は両方とも発明者証言であり、したがって、単独では、クレームに係る発明の先の着想を立証できない。さらに、CAFCは、書証A〜Hが発明者の証言を裏付けるには不十分であることについて審判部に同意した。書証A〜Hは、日付がなく、作成者の表示も欠いていた。書証の日付が基づくと主張されているメタデータは記録の一部ではなく、これらの日付は発明者によって証拠に提供されたに過ぎなかった。したがって、書証の日付に関する証拠は発明者証言においてのみ見出され、書証は着想に関する独立した証拠を提供しなかった。

本件は、先の着想に関する発明者証言が、発明者証言から完全に独立し、かつ、主張される証拠が作成された日付のような詳細を提供するために発明者証言に依存しない証拠によって裏付けられなければならないことを強調する。文書又は電子メールが、着想の日付を裏付けるために依存されるならば、これらの文書及び/又は電子メールは、発明者証言とは別に、これらの作成日及びこれらの実質的な内容を証明するのに十分な情報を含まなければならない。したがって、訴訟又はIPRのような付与後手続きにおいて発明の先の日付を証明しようとする場合、先の日付を独立して裏付けるための適切な証拠を提出することが重要である。(Kolcraftが書証A〜Hの作成日を示すメタデータを提出していたならば、又はおそらくは作成日に関して証言する文書管理者のような発明者以外の証人からの宣言書を提出していたならば、Chenよりも前の発明日を証明することに成功したかもしれない。)この事件は意匠特許に関するが、この判断は、意匠特許に限定されず、発明者が発明の先の日付を証明しようとするあらゆる状況に適用される。さらに、現在、新しく出願された米国特許出願はAIAの先発明者先願主義のルールに従うものの、AIA以前の特許がまだ多く存在し、これらの特許では、主張された文献の前に発明日を証明することが必要となる。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、発明日を認定するために、発明者に既存する証拠だけでは足らず、発明者から独立した証拠が必要となることを示した。AIA施行後は先発明者先願主義のルールに従って先願が処理されるものの、AIA以前の特許がまだ多く存在する。これらの特許では、出願日よりも前の着想日を証明することが必要となる場合がある。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大戸隆広

弁理士 大戸隆広
大塚国際特許事務所 弁理士。平成21年弁理士登録。東京大学大学院・情報理工学系研究科・数理情報学専攻・修士課程修了。システムエンジニアとしての経験を活かし、通信ネットワーク、情報処理、人工知能などのIT分野を得意とするとともに、半導体装置や自動車等の分野の経験も豊富である。数々の特許訴訟の経験を実務に活用している。

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