1. トップページ
  2. 米国連邦控訴裁判所(CAFC)判決
  3. 2019年
  4. Athena Diagnostics 対 Mayo Collaborative Services 事件

Athena Diagnostics 対 Mayo Collaborative Services 事件

CAFC No. 2017-2508 (February 6, 2019)

−病気を診断する方法に係るクレームが特許適格性を有しないとしたCAFC判決−

Athena Diagnostics 対 Mayo Collaborative Services事件において、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、病気を診断する方法をカバーする特許クレームが米国特許法101条における特許適格性を有するかを判断した。CAFCは、自然法則を検出するステップをカバーするクレームは、米国最高裁のAlice/Mayoの2パートテストのもと特許不適格であるため無効である、と結論付けた米国連邦地裁の判決を維持した。この判決の多数意見は、診断方法のクレームにおける弱点を示し、且つクレームが米国特許法101条において特許不適格であることを示す、最近のCAFCの判決に沿ったものである。

Athena Diagnostics社 (Athena社)は、筋特異的チロシンキナーゼ(MuSK)と呼ばれるタンパク質に対する抗体を検出することによって神経障害を診断する方法をカバーする米国特許第7,267,820号(820特許)の排他的ライセンシーである。820特許に記載される発明者らは、アセチルコリン受容体自己抗体を持たない重症筋無力症(MG)患者がMuSKに対する自己抗体を生成することを発見した。820特許は、MuSKエピトープに結合する自己抗体を検出することによってMGを診断する方法を開示するとともにクレームしている。Athena社は、抗体を評価するテストキット(FMUSK)を市場に投入した。

Mayo Collaborative Services, LLC(Mayo社)が820特許を侵害するとされる2つの競合するテストを開発した後、Athena社はMayoの侵害を訴えた。Mayoは、対象クレームが米国特許法101条のもと無効であることを主張して、規則12(b)(6)に基づく訴訟の棄却を求めた。問題となるクレームは、体液中の125Iとして識別されるMuSKとMuSK自己抗体との相互作用であって自然に起こる相互作用に焦点を当てている。米国連邦地裁は、クレーム7〜9の分析に集中し、Alice Corp. 対 CLS Bank International (573 U.S. 208 (2014))事件、及びMayo Collaborative Services 対 Prometheus Laboratories, Inc. (566 U.S. 66 (2012))事件において米国連邦最高裁によって確立された保護対象の適格性に対するテストを適用した。米国連邦地裁は、Alice/Mayoテストに基づいて、クレームは自然法則を対象とするものであると判断した。米国連邦地裁はまた、記載されているステップがその技術分野における標準的な技術を含むにすぎないため、クレームは発明概念を欠くと判断した。以上のような理由から、米国連邦地裁は、米国特許法101条のもと不適格な保護対象をクレームするものとしてクレームが無効であると結論付け、Mayoの請求を認めた。

Athena社はこの判決に対してCAFCに控訴した。CAFCは、その分析において、自然法則は特許を受けることができないが、自然法則を適用することについては特許を受けることができることを強調している。CAFCは、自然法則に関して特許適格性を有する出願のクレームを、容認できないほどに自然法則と結びついたクレームと区別するために、Mayo及びAliceにおける米国最高裁が定める2パートテストを適用すると説明した。この2パートテストは、(1)対象クレームが特許不適格な概念、すなわち、自然法則、抽象的アイデア又は自然現象、を対象とするものであるか、そうであるならば(2)追加的要素がクレームの性質を特許適格な概念、すなわち、ルーティン又は従来的なステップ以上の何か、に変換するかを問う。

Mayo/Aliceテストの第1ステップに基づき、CAFCは、クレーム、とりわけ「体液中の天然のMuSK自己抗体の存在とMGのようなMuSK関連神経疾患との間の相関」は自然法則を対象とするものであると判断した。この相関は、任意の人為的な相互作用とは別個に自然界に存在する。CAFCは、「クレームされた進歩は自然法則の発見に過ぎず、そして追加的な記載ステップは自然法則を対象とする従来的な技術を適用するに過ぎない」と結論付けた。結論付けるにあたって、CAFCは明細書の記載及びクレームの両方を考慮して、とりわけ「明細書では自然法則を観測するためのクレームされた具体的なステップは従来的なものとして記載されている」と述べた。CAFCは、クレームが特許性に対する自然法則の例外の対象であると結論付けたため、判断はMayo/Aliceテストの第2ステップに続く。

Mayo/Aliceテストの第2ステップを適用して、CAFCは、追加的要素がクレームの性質を特許適格な出願に変換するかを判断するために、個別及び順序付けされた組み合わせの両方において各クレームの要素を考慮した。 Athena社は、対象のクレームは人工的な分子を含む革新的な一連のステップである発明概念を提供するものであると主張した。対して、Mayo社は、明細書がその技術分野における標準的な技術としてMuSK抗体を検出するステップを記載しているため、クレームは発明概念を欠いていると主張した。CAFCは最終的に、クレームが特許適格性のない自然法則を特許適格な出願に変換するために十分な発明概念を提供していないと判断した。CAFCは、820特許の明細書に目を向け、明細書は技術が従来的であることを強調している点に注目した。CAFCは、新たに発見された自然法則を観測するために標準的な方法で標準的な技術を実行することは、発明概念を提供しないと説明した。CAFCは、対象クレームが自然法則を検出するための従来的なステップとその自然法則のみを記載しているため、クレームは米国特許法101条に基づき不適格であり、米国連邦地裁の判断は維持される、と判断した。

Newman判事は多数意見に反対した。同判事は、多数意見が820特許の対象クレームを不適格であると判断する場合、その判断はMayo対Alice事件で判断されたテストにおける制約から外れると述べた。Newman判事の反対意見は、適格性はクレームに対する全ての要素と制限を含め全体として考慮して判断されるものであり、その要件は、自然の法則又は抽象的なアイデアを対象とするクレーム内の発明概念を探索するMayo/Aliceプロトコルによって変更されていない、という考えに基づいている。同判事は、対象クレームは診断における複数ステップの方法に対するものであって自然法則に対するものではないと説明し、これまで診断可能でなかった神経学的状態に対して、820特許の発明者が診断の新規な方法を創造するために彼らの発見を適用したものであることを強調した。Newman判事はまた、多数意見では当該特許の適格性を評価するにあたってクレームを全体として考慮していないとも述べた。特に、Newman判事は、多数意見はクレームされた方法が全体として特許適格であるかという問題と、各ステップが従来的な手順を用いているかという問題とを区別していないと主張した。

この事件は、自然現象を観測又は検出することを含む診断方法のクレームを、特許適格性の基準に基づいてどのように分析するかについての手引きを提供する点で重要である。Alice/Mayoテストの第1ステップに基づくCAFCの分析が米国特許商標庁(USPTO)からの最近の手引きと異なる点は注目に値する。第1ステップにおけるCAFCの分析は、クレームに記載された追加的なステップが従来的であるかを考慮した。反対に、USPTOの最新の手引きでは、第1ステップにおける当該分析が特に追加的要素がよく理解され、ルーティンであり、従来的な動作であるかの考慮を除外することを述べている。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、病気を診断する方法をカバーする特許クレームが米国特許法101条における特許適格性を有するかを判断した。CAFCは、自然法則を検出するステップをカバーするクレームは、米国最高裁のAlice/Mayoの2パートテストのもと特許不適格であると判断した。この判決は、自然現象を観測又は検出することを含む診断方法のクレームを、特許適格性の基準に基づいてどのように分析するかについての手引きを提供する。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大出純哉

弁理士 大出純哉
大塚国際特許事務所 弁理士。平成23年弁理士登録。筑波大学大学院・工学研究科・知能機能工学専攻・修士課程修了。ソニー株式会社にて、テレビ受信機等のソフトウェア開発に従事した後、社内弁理士としてグローバルな特許資産の活用業務に従事。有力特許の抽出、製品解析を含む侵害立証、交渉等を通して新規ライセンス獲得に貢献。ソフトウェア、通信ネットワーク、放送技術、画像処理等のIT分野の特許、訴訟を得意とする。週末のボクシングジムでの運動が楽しみの一つ。

  1. トップページ
  2. 米国連邦控訴裁判所(CAFC)判決
  3. 2019年
  4. Athena Diagnostics 対 Mayo Collaborative Services 事件

ページ上部へ