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Helsinn Healthcare S.A.
対 Teva Pharmaceuticals USA, Inc.事件

No. 17-1229 (U.S. January 22, 2019)

−守秘義務を伴う販売がAIA後のon-sale barに該当しうることを示した判決−

Helsinn Healthcare 対 Teva Pharmaceuticals事件において、最高裁判所は、発明を秘密に保持する契約上の義務を負う第三者に対して発明を販売したことによって、その発明がリーヒ・スミス米国発明法(AIA)における35 U.S.C. §102(a)に規定される「販売され(on sale)」の状態になるか否かという争点を扱った。AIAの制定前は、発明の詳細が秘密に保たれる態様でなされた販売であっても、Pre-AIA §102(b)の下で特許を無効にする先行技術として認定される可能性があった。最高裁判所はHelsinn事件において、AIAは§102(a)においてon-sale bar(販売による不特許事由)を全体として維持しつつ包括的文言である「又はその他の形で公衆に利用可能であった場合(or otherwise available to the public)」を追加したが、その変更は「販売され(on sale)」の意味を変更するものではないと判断した。それゆえ、発明者が発明を第三者に販売したことは、たとえ第三者が発明を秘密に保持する義務を負っていたとしても、§102(a)の下での先行技術としての要件を満たしうるものである。

Helsinn(Helsinn Healthcare S.A.)は、Aloxi(癌化学療法誘発性悪心嘔吐を治療する医薬品)を製造するスイスの製薬会社である。1998年に、Helsinnは、Aloxiの有効成分であるパロノセトロンの開発を開始した。2000年の初期に、Helsinnは、FDA(アメリカ食品医薬品局)に対してフェーズ3の治験実施計画書を提出し、0.25mg及び0.75mgの用量でのパロノセトロンの研究を提案した。その年の後期に、Helsinnは、米国で医薬品の販売及び配送を行っているミネソタ州の製薬会社であるMGI(MGI Pharma, Inc.)との間で、2つの契約を締結した。これらの契約は、(i)ライセンス契約、及び(ii)供給購入契約を含んでおり、いずれも用量に関する情報を含んでいたが、MGIが契約下で受領したあらゆる専有情報の秘密を保持することを要求していた。Helsinn及びMGIは、これらの契約をジョイントプレスリリースにより発表した。また、MGIは、これらの契約を米国証券取引委員会(SEC)に対してForm 8-K提出により報告した。しかしながら、プレスリリース及びForm 8-K提出はいずれも、契約がカバーする具体的な用量の記述を公開していなかった。

2003年1月30日に、Helsinnは、0.25mg及び0.75mgの用量のパロノセトロンをカバーする仮特許出願を行った。その後10年にわたって、Helsinnは、2003年1月30日付け仮特許出願の優先権を主張する4つの特許出願を行った。2013年5月に出願され米国特許第8,598,219号('219特許)として発行された4番目の特許出願は、AIA後の出願としての要件を満たすものとして最高裁判所により検討されたものである。'219特許は、5ml溶液中の0.25mgの固定用量のパロノセトロンをカバーしていた。

Teva Pharmaceutical Industries, Ltd.,及びTeva Pharmaceuticals USA, Inc. (以下、まとめて「Teva」と呼ぶ)は、ジェネリック医薬品を製造するイスラエルの企業とその米国関連会社である。2011年に、Tevaは、ジェネリックの0.25mgパロノセトロン製品を販売する許可をFDAから得ようとした。その後、Helsinnはニュージャージー州の連邦地方裁判所においてTevaに対する訴訟を提起し、'219特許を含む自己の特許権が侵害されたと主張した。Tevaは抗弁として、2003年1月のHelsinnによる仮特許出願の前の1年よりも前に0.25mgの用量のパロノセトロンが「販売され(on sale)」ていたことを理由に、'219特許が無効であると主張した。地方裁判所は、Tevaの抗弁を棄却し、AIAの可決と§102(a)に対する「又はその他の形で公衆に利用可能であった場合(or otherwise available to the public)」という文言の追加とにより、on-sale barに関する法が変更されたと判断した。

その後、TevaはCAFCに控訴した。CAFCは、地裁判決を覆し、特許された主題は「基準日である2002年1月30日以前の特許を無効にする販売契約の支配下にあり、AIAは本件に関係する状況における『on-sale』の法的意味を変更してはいない」と判断した。CAFCは最初に、特許発明が商業的な販売又は販売の申し出(即ち、HelsinnとMGIとの供給購入契約)の対象であったと判断した。CAFCによれば、この契約は「商業的な販売契約に関する全ての特徴を伴っている」。

次にCAFCは、AIAが「'219特許に関して要件を満たす販売がないこととなるように」§102(a)の意味を変更したか否かに関する争点を扱った。この争点に関して、CAFCは、自身によるAIA以前の裁判例を検討し、AIAの可決前は一定状況下での秘密販売がon-sale barを引き起こすと判断されていたと述べた。次にCAFCは、たとえAIA又はこれに関する議会の「フロアステートメント(立法過程における議員の発言)」がこのような秘密販売に関する裁判例を無効化しようとする意図を示していたとしても、「そのことは本件において何の影響も持たない。というのも、これらの裁判例には、販売又は申し出の存在が公であったか否かが関係していたからである。本件では、販売(HelsinnとMGIとの間の供給購入契約)の存在は、SECに対するMGIの8-K提出において公に発表されていた。」と述べた。それゆえ、CAFCは、「AIA以降は、販売の存在が公であれば」、AIAのon-sale barの範疇に入るのに「販売条項の中で発明の詳細が公開される必要はない」と結論づけた。

最高裁判所は、Helsinnによる裁量上訴を受理した。最高裁判所は、発明者に「一定の年数にわたって発明を実施する排他的権利」を認めることによって「技術及びデザインにおける新規で有用で非自明な進歩の創造及び開示」を促進するという、連邦特許制度の目的を検討することから分析を開始した。最高裁判所は更に、1836年以降に制定された各々の特許法(AIA前に施行されていた特許法を含む)がどのようにon-sale barを含んできたかを論じた。その後、最高裁判所はAIA以前のon-sale barに関する自身の判例を分析し、自身の判例が、特許を無効にする先行技術を構成する条件に関して、販売又は販売の申し出が発明を公衆に利用可能にすることを必要とはしていないことを示唆していると判断した。(例えば、Pfaff 対 Wells Electronics, Inc., 525 U.S. 55, 67 (1998)、及び Consolidated Fruit-Jar Co. 対 Wright, 94 U.S. 92, 94 (1877)を参照。)

「on-sale」の意味に関するAIA以前の確立した裁判例を考慮して、最高裁判所は、議会がAIAにおいて同一の文言を再制定した際に、議会がこのフレーズに関する以前の法解釈を採用したと考えた。続いて最高裁判所は、AIAの文言に対して「又はその他の形で公衆に利用可能であった場合(or otherwise available to the public)」という文言が追加されたことは、再制定された文言「on sale」の意味を変更することを議会が意図していたと結論づけるには不十分な変更であると判断した。従って、最高裁判所は、議会がAIAを制定した際に議会は「on sale」の意味を変更してはいないと判断したので、発明を秘密に保持する義務を負う第三者に対して発明者が発明を販売したことは、§102(a)の下での先行技術としての要件を満たしうるものであると判断した。

この判決は、発明者が第三者に対して発明の販売又は販売の申し出を行うことが、たとえ第三者が発明に関する一定の詳細を秘密に保持する義務を負っていたとしても、§102(a)の下での先行技術としての要件を満たしうるということを意味する。しかしながら、この事件における事実によれば、販売又は販売の申し出は公にされており、この点は裁判所で重視されていた。それゆえ、この判決は、販売の存在が公でない状況において、秘密保持義務を伴う販売がAIAの§102(a)の下でon-sale barを引き起こすか否かに関しては、必ずしも指針を提供するものではない。

この判決のポイント

この判決では、リーヒ・スミス米国発明法(AIA)による改正後のon-sale bar(販売による不特許事由)について、発明者が第三者に対して発明の販売(又はその申し出)を行った場合には、たとえ第三者が発明を秘密に保持する義務を負っていたとしてもon-sale barに該当しうることが明らかになった。なお、この事件では、発明の詳細は秘密に保持されていたが、販売(の申し出)の存在自体は公にされていた。したがって、この判決は、販売(の申し出)の存在自体が公にされていない場合に対しては、必ずしも指針を提供するものではない。

弊所の大塚弁理士と坂田弁理士が執筆した、本最高裁判決の原審であるCAFC判決の解説が、知財管理誌に掲載されました。こちらをご覧ください。

(一般社団法人日本知的財産協会「知財管理」Vol. 67, No. 12, pp. 1911-1920 (2017))

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Venable Fitzpatrick, and co-chair of the firm’s IP Litigation practice. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a “brilliant” and “strategic” lawyer and for his “excellent demeanor in front of judge and jury” (Chambers, 2018). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Venable Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, and is chair of the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 坂田恭弘

弁理士 坂田恭弘
大塚国際特許事務所 弁理士。平成16年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子工学専攻・修士課程修了。当事務所において13年以上にわたり、様々な技術分野での権利化及び訴訟を担当。特に情報通信(ICT)、移動通信、画像処理などの分野を得意とする。

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