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WesternGeco LLC v. Ion Geophysical Corp. 事件

Supreme Court No. 16-1011 (June 22, 2018)

−海外で特許製品が組み立てられるように部品を輸出した場合における海外での使用行為に基づく遺失利益に損害賠償を認めた最高裁判決−

米国最高裁はこの判決で、米国特許法271条(f)(2)の下で特許侵害を証明した特許権者は、米国外で行われた行為に基づく遺失利益について損害賠償を獲得できることを示した。

米国外での部品の組み立てが、仮に米国内で組み立てられていたならば米国特許の侵害といえる場合、米国から部品を供給した者は米国特許法271条(f)(1)(2)の下で米国特許の侵害者となることがある。米国特許法271条(f)(2)の下での侵害となるためには、供給された部品は「実質的な非侵害用途に適している」ものであってはならず、侵害者は、仮に米国内で組み立てられていたならば侵害となるような態様で海外で部品が組み立てられるように意図していなければならない。

WesternGecoは、海底下の石油及びガスを探索するために用いられる海洋探査システムをクレームする4つの特許を所有している。特許されたシステムは、「ストリーマ」(センサで埋め尽くされた長い浮遊ケーブル)の列を備えており、これは間隔を維持し及び船舶の後ろで引っ張られた際にからまることを防ぐように、横方向に動かすことができる。IONは、ストリーマの動きを制御することを補助するDigiFINと呼ばれる製品を製造し、多くのDigiFINを外国企業に販売し、また外国企業はDigiFINを用いた調査を行っていた。WesternGecoは、米国特許法271条(f)(1)(2)によりIONを訴えた。

公判を経て、陪審は米国特許法271条(f)(2)の下でIONがWesternGeco特許を侵害したと判断し、WesternGecoに対する1250万ドルの合理的ロイヤリティ及び9340万ドルの損害賠償の支払いを命じた。合理的ロイヤリティは、IONによる米国からのDigiFINの供給に基づくものであった(すなわち、米国内で起こったとみなされた行動に基づくものであった)。一方で、9340万ドルの損害賠償は、米国外で行われた行動に基づくものであった。より詳細には、WesternGecoは特許された海洋調査システムを販売もライセンスもしてはおらず、石油及びガス会社のための調査を行うために自身がこの技術を用いていたのであった。この損害賠償は、10回の調査契約により外国企業が受けた価値を表すものであって、陪審によれば、IONによる侵害がなければWesternGecoが獲得できるはずのものであった。IONは控訴した。

控訴審においてCAFCは、域外適用を認めない推定、すなわち「特許法は国内のみに適用され外国での活動には及ばない」(Microsoft Corp. v. AT&T Corp., 550 U.S. 437, 454-455 (2007))との推定により、特許法は遺失利益の回復を認めていないと判示した。CAFCは、WesternGecoが米国特許法271条(f)(2)の下での特許侵害について米国からのDigiFINの供給に対する合理的ロイヤリティの形で既に補償を受けており、米国外で外国企業によって交渉及び締結された調査契約についての損害を回復することはできない、と判示した。WesternGecoは遺失利益に関して米国最高裁に上告受理を申し立て、米国最高裁は上告を受理した。

米国最高裁の多数意見は、WesternGecoに米国特許法271条(f)(2)の下での特許侵害についての外国での遺失利益を回復する権限を認めた。

米国最高裁は、域外適用の問題を判断するために米国最高裁によって確立されている2ステップの枠組みを用いた。第1のステップでは域外適用を否定する推定が覆されているかどうかが問われ、第2のステップでは事件が法令の国内適用を受けるかどうかが問われる。本事件において米国最高裁は第1の問いには答えないことを選択し、裁量により第2のステップを用いて本事件について判断することとした。本事件が法令の国内適用を受けるかどうかという争点に関し、米国最高裁は、「裁判所は、法令の「注目点」を特定し、この注目点に関連する行為が米国領域内で行われたかどうかを問うことにより、この判断を行ってきた」と述べた。そして多数意見は、「本事件において、法令の注目点に関連する行為は国内で行われた」と結論づけた。

多数意見は、特許損害賠償条項(米国特許法284条)の目的は、特許権者に対して特許侵害に関する「完全な補償」を与えることにあると説明した。この条項の着目点は「侵害」である。しかしながら、「特許は様々な方法で侵害されるであろう」から、裁判所は「発生した侵害の形式」、本事件では米国特許法271条(f)(2)の下での侵害の形式に着目し、この条項が国内での行為に注目しているかどうかを判断した。多数意見は以下のように理由づけた。

米国特許法271条(f)(2)が規制する行為、すなわちその注目点は、「米国内で又は米国から供給する」という国内での行為である。米国最高裁が認めてきたところによれば、米国特許法271条(f)は国内での行為に関心を寄せたものである。この条項は、「我々の特許法の穴に対する直接的な対応」(Microsoft Corp., 550 U. S., at 457)であって、「米国内で製造されたのに海外で組み立てられる部品に手を伸ばす」(Life Technologies [Corp. v. Promega Corp.], 580 U.S., at ___ [(2017)] (slip op., at 11))ものである。

本事件におけるこの注目点に関連する行為は、WesternGecoの特許を侵害する部品を供給するというIONによる国内での行為であるから、明らかに米国内で行われたものである。したがって、WesternGecoにもたらされた遺失利益の損害賠償は、米国特許法284条の国内適用にあたる。

多数意見は、特許侵害がなければ「有していたはずの良い立場」に特許権者がいるために十分となるように損害を回復することが、米国特許法271条(f)(2)及び284条の下で特許権者には認められており、このような回復には「特許権者が米国特許法271条(f)(2)の下での特許侵害を証明した場合には外国での遺失利益が含まれる」と結論づけた。そして、多数意見は、IONによる「海外で生じた出来事は特許侵害に単に付随するものにすぎない」として、WesternGecoに対する遺失利益の損害賠償につながる行為の域外性を強調しようとした主張を排斥した。

本事件は、米国外で生じた行為に基づく遺失利益の損害賠償を侵害者に課した点で重要である。しかしながら、このような遺失利益は米国特許法271条(f)(2)の下での全ての侵害に対して認められるわけではなさそうであり、事件特有の事実に影響を受けそうである。なぜなら、多数意見は脚注において「他の特定の事件において、因果関係等の理由によって損害賠償がどの程度制限又は否定されるかについては言及しない」としているからである。

この判決のポイント

米国最高裁はこの判決で、米国特許法271条(f)(2)の下で特許侵害を証明した特許権者は、米国外で行われた行為に基づく遺失利益について損害賠償を獲得できることを示した。本事件は、海外で特許製品が組み立てられるように部品を輸出した侵害者に対し、米国外で生じた行為に基づく遺失利益の損害賠償を課した点で重要である。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 木下智文

弁理士 木下智文
大塚国際特許事務所 弁理士。平成25年弁理士登録。東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬学専攻・修士課程修了。薬剤師。日本弁理士会国際活動センター米州部副部長、同部研究成果報告セミナー講師。大塚国際特許事務所のシステムアドミニストレータとしても活躍する。医薬、化学、ネットワーク、画像処理の特許、訴訟を得意とする。近年マラソン大会に出場することを趣味としているが、体型のためかクライアントに自慢すると賞賛されずに心配される。

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