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SAS Institute Inc. 対 Iancu 事件

Supreme Court No. 16-969 (2018)

−IPRで一部のクレームのみの審理を行うことを禁止した米国最高裁判決−

米国最高裁はこの事件で、当事者系レビュー(IPR)を開始する際に請願人によってすべての請願対象クレームの特許性を米国特許商標庁の特許審判部が判断しなければならないかに関する争点を扱った。僅差の判決で、最高裁のかろうじて過半数は、米国特許法第318条(a)を文言通りに読めば、最終審決を発行する際に、すべての請願対象クレームの特許性を特許審判部が扱う必要があると判断した。この際、最高裁は、特許審判部による一般的な実務である「部分的な開始」(これは、すべての請願対象クレームではなく一部のクレームのレビューを特許審判部が開始することを伴う)を許可しなかった。

SASは、ComplementSoftのソフトウェア特許の1616個のクレームすべてを請願対象とするIPR請願を提出した。特許審判部は、これらのクレームの少なくとも一部が特許不能であることの立証にSASが成功する見込みがあると結論づけ、16個の請願対象クレームのうち9個についてレビューを開始し、一方で残りのクレームについて開始しなかった。審理後に、特許審判部は、開始された9個のクレームのうち8個が特許不能であると判断する最終審決を最終的に発行した。その際、特許審判部は、審判手続きの一部ではないとして、開始されなかったクレームを扱わなかった。

CAFCでの審理において、SASは、自身が請願におけるすべての請願対象クレームの特許性を特許審判部が判断することを第318条(a)が要求とすると主張したが、CAFCはSASの主張を却下した。その後、SASは米国最高裁に裁量上訴の申立てを行い、最高裁は、請願人によって請願された特許クレームの一部のみの特許性に関して特許審判部が最終審決を発行することが第318条(a)で許されるかどうかの論点を扱うことを承諾した。

ゴーサッチ判事は、米国特許商標庁の「部分的な開始」の実務について法定の文言又はフレームワークの根拠を最高裁が見つけられなかったという多数意見を記述した。対照的に、裁判所は、第318条(a)が文言上、「請願人によって請願されたany patent claim」の特許性に関する最終審決を発行することを特許審判部に要求しており、「any」という用語が、請願された「every(すべて)」の特許クレームが審決において扱われなければならないことを意味すると判断した。最高裁は、第314条(a)が一般事項としてレビューを開始するかどうかを判断する裁量を特許審判部に与えるが、この判断は「二者択一、すなわちレビューを開始するか否か」であると述べた。さらに、最高裁は部分的な開始の実務を扱い、「この方式において、請願対象クレームの一部だけを審決のために審判長に選択させる、全く言及されていない「部分的な開始」の権限の余地はない」と述べた。

よって、最高裁の判決は、請願対象クレームの1つについて特許審判部がレビューの開始を選択したら、残りのクレームに関するレビューが根拠を欠くと特許審判部が考えたとしても、すべての請願対象クレームに関してレビューを開始しなければならないことを示した。これは、最高裁が述べたように、「手続きの輪郭の規定に取り掛かるのは長官ではなく請願人である」からである。したがって、「長官は要求されたレビューを開始するかどうかを判断できるのであって、開始するかどうか及びどの範囲でレビューを進めるべきかを判断できるのではない。」

最高裁の判決に従って、米国特許商標庁は、この事件の判決が特許審判部での手続きにどのように影響するかに関するガイダンスを発行した。開始に関する決定を待機中の新規又は係属中のIPR請願に関して、特許審判部は、「すべてのクレームについて開始するか、何も開始しない」。さらに、特許審判部のガイダンスは、「現時点では」、審理が任意の請願対象クレームに関して開始される場合、特許審判部が「請願で挙げられたすべての請願理由」に関して開始すると述べている。よって、請願で申し立てられた任意のクレームのレビューを特許審判部が開始したならば、そのレビューは必ず、すべての請願対象クレームだけでなく、請願でこれらのクレームに対して当てはまるものとして提起されたすべての理由を包含する。これは、同一のクレームに対して異なる先行技術又は非特許性理論に基づく複数の理由が主張されうるので重要である。注目すべきは、「現時点では」という文言により、この事件の判決がすべての理由について開始することを要求していると特許審判部が必ずしも考えているわけではなく、後日にこの実務を変更する権利を保持しつつ、それでもこの実務を実施することを明らかにすることを意図していることを特許審判部が明確にした。ガイダンスはまた、請願対象クレームについて部分的に開始した係属中のIPR手続きについて、所管の合議体は「すべての請願対象クレームに関して開始するための開始決定を補足する命令を発行してもよく」、期限延長又は書面追加命令のような審理手続きを管理するための更なる行為を行うと述べる。米国特許商標庁のガイダンスは、特許審判部による部分的な開始の実務がもはや認められないことを明らかにする。

よって、最高裁の判決は、特許審判部の手続きにすでに影響を与えており、請願対象クレームすべての請願対象クレーム及び提案された理由の何れか1つのレビューを開始することを特許審判部が選択した場合には、これらすべてについてのレビューを開始することが今では義務になったという単純な理由により、請願対象クレームについての開始率が上昇する結果となるかもしれない。しかし、開始段階で特許審判部が却下していたであろう請願対象クレームの審理を開始したとしても最終審決においてこれらのクレームの特許性に関する異なる認定となることを想定する理由は存在しない。さらに、最高裁判決は、開始段階で却下されたならば第315条(e)の下でのエストッペルの適用(これは最終決定の発行に付随する)を避けられていただろうクレームに対するこの条項の適用に関して自身の判決がどのように影響するかを扱わなかった。最高裁の判決は、IPR手続きと関連する地裁での訴訟との間の関係において重大な影響を有しうる。

この判決のポイント

米国最高裁はこの判決で、IPRですべての請願対象クレームではなく一部のクレームのレビューを開始するという特許審判部における実務を認めず、すべてのクレームのレビューを開始するか、全く開始しないかのいずれかにすべきであると判断した。この判決に伴い、特許審判部は手続きを変更し、変更後の手続を説明するガイドラインを発行した。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大戸隆広

弁理士 大戸隆広
大塚国際特許事務所 弁理士。平成21年弁理士登録。東京大学大学院・情報理工学系研究科・数理情報学専攻・修士課程修了。システムエンジニアとしての経験を活かし、通信ネットワーク、情報処理、人工知能などのIT分野を得意とするとともに、半導体装置や自動車等の分野の経験も豊富である。数々の特許訴訟の経験を実務に活用している。

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