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標準必須特許の消尽に関する米国判決の
紹介

日本では、標準必須特許に関する知財高裁の判決では特許の実質的な実施品の譲渡に特許の消尽を認めなかったが、アメリカの幾つかの判決は、これらに特許の消尽を認めている。そこで、日本の特許庁による“標準必須特許のライセンス交渉に関する手引”きにも引用されているQuanta 最高裁判決を中心に数件の米国の判決を紹介する。


−第1: Quanta Computer, Inc. v. LG Electronics, Inc., 553 U.S. 617 (2008)−

米国の判例の下で特許消尽とは、特許権者が許可した制限のない最初の販売によって特許品に対する特許権者の全ての権利が消滅する原則をいう。特許の消尽は特許権者、そしてライセンシーによる特許品の販売の双方に適用される。

米国における、特許消尽による防御は、19世紀の半ばに遡るが、今までの所、規格必須特許がカバーする技術への適用は少ない。しかしながら、最近の判決は、ライセンスされた部品の販売後の使用の制限に消尽の原則を適用して、使用制限を限定、否定する判決が出ている。

先ず、米国最高裁が2008年6月9日にQuanta Computer, Inc.(以下、Quanta)とLG Electronics, (以下、LG)との間の特許消尽の問題に関して下した判決を照会する。

このQuanta事件は、LGとIntel間のクロスライセンス契約に関係する。LGは、LG特許のクレームを実施するIntelのマイクロプロセッサーとチップセットを販売する権限をIntelに与えた。 この契約ではLGは、Intel部品と非Intel部品の混用を許さないことをIntelが自社のカスタマーに告知することを求めていた。このライセンス契約の下で、IntelはマイクロプロセッサーとチップセットをQuantaに販売した。Quantaは、購入した製品を通告では許されていなかった非Intel製品と共にこれを使用した。最高裁は全員一致で、Intelが部品をクロスライセンスに従って、Quantaに販売したとき、その部品に対するコントロールが消尽することを理由にLGはQuantaに対して特許侵害を主張できないと判決した。この判決の中で裁判所は特許消尽の原則は特許クレーム通りの構成を持たない物(クレーム全体からみれば完成品ではなく、部品)にも適用されると判示した。 具体的には、特許を実質的に実施する部品と標準的な部品の組合せをカバーする特許権は、当該部品の販売によって特許が消尽することを判示した。Intelがこのような部品を販売した段階で、その部品に対する特許権は消尽するので、購入者がその部品を使ってコンピュータを製造するとか、特許方法を実施するシステムの製造・販売は特許権を侵害しないことになる。

因みに、US特許5,379,379号特許(379号特許)は、メモリコントロールユニット(MCU)の特許である。このクレームは、メインシステムメモリを制御するMCUを定義し、当該MCUは、?メインシステムメモリとの第1のインタフェースと、?システムバスとの第2のインタフェースと、?第1及び第2のインタフェースに接続され、システムメインメモリやキャッシュメモリに格納されている情報に対するライト要求と、リード要求とを選択的に実行する制御手段とを備えることを特定している。

ここで、リード要求と、ライト要求の実行順に関し、例えば、リード要求とライト要求の対象情報(対象アドレス)が同一であれば、ライト要求を実行する前にリード要求を実行すると、古いデータを要求元に返すことになる。そこで、379号特許では、ライト要求を先に実行することにより情報の整合性を担保しつつ、これ以外のケースではリード要求を先に実行することにより処理速度を担保することを特徴として特許が認められ、そこに特許の本質がある。

Intelが販売した製品は、クレームに記載された上記?〜?の構成全てを含むものではなく、379号特許の特徴的な部分を含む。そのチップを購入したQuantaはそのチップに情報処理装置で使う標準部品を組み合わせて、MCUやデータ処理システムを製造・販売した。

更に、裁判所はライセンシーの販売に関する制限に関しては、当該ライセンス契約はIntelに単に、LGが希望しているIntel製品と非Intel製品の共用の制限をIntelの顧客に通知するだけであり、この要求にIntelは従っていると判示した。従って、この契約には、マイクロプロセッサーとチップセットを、Intel製品と非Intel製品を組合せて使用する意向のある者へ販売するIntelの権利を制限しないと判示した。


−第2: Tessera, Inc. v ITC, 646 F.3d 1357 (Fed. Cir. 2011)−

この事件の争点は、米国特許5,663,106号に関する。 この特許は、半導体チップをカプセル化する工程において、カプセル化する間に半導体パッケージ上に露出する端子の汚染を防ぐことを目的としている。

Tesseraは、‘106特許他を、何人かのライセンシーにライセンスした。そのライセンスは、これらの特許を実施して許諾品を販売する権利を含み、契約の除外条項はローヤルティ義務が履行された許諾品にのみ契約が適用されることを限定していた。Tesseraが何人かのライセンシーがローヤルティの支払いなしに許諾品を販売していたことを知り、Elpida他を米国国際通商委員会(ITC)に提訴した。Elpida他は、ライセンシーの川下のカスタマーであった。

Tesseraは、ITCの決定に対して、CAFCに控訴した。CAFCは、ライセンシーに特許をライセンスしたとき、その特許は消尽するという理由で、ITCの決定を容認し、TesseraはElpidaに対する損害を回収できなかった。CAFCは、許諾に焦点を絞り、Tesseraは最初に物品を販売し、その後で、ローヤルティを支払うことをライセンシーに許諾した。最初の許諾された販売時点に消尽が適用され、ライセンシーの債務不履行は、最初の販売を非許諾に転換するものではないと判示され、TesseraのElpidaに対する販売後の回復請求は否定された。


−第3: LifeScan Scottland, Ltd. V Shasta technologies, LLC, 734 F.3d 1361 (Fed. Cir. 2013)−

この事件の争点は、米国特許7,250,105のサプライ品であるテストストリップが、特許権侵害となるかどうか、特に、方法の特許に消尽が認められるかどうかに焦点が当てられた。

LifeScanは、テストストリップ付きの血糖値メーターの使用法の米国特許7,250,105の特許権者である。LifeScanは、化学的な血糖値メーターを原価以下、あるいは無料で提供し、そのメーターへの使用を意図した使い捨てのテストストリップには費用を請求した。Shastaはそのメーターを販売しなかったが、LifeScanのメーターへの使用を意図したテストストリップを販売した。LifeScanは、Shastaを方法特許の特許権侵害で侵害訴訟を提起した。連邦裁判所は、LifeScanに仮差止命令を認めた。Shastaはその後、差止を排除するためにCAFCに控訴した。CAFCは、仮差止命令を破棄し、その特許品の移転が無償/有償であるかに拘わらず、物品の所有権の移転に特許の消尽の原則が適用されることを判決した。裁判所は更に、LifeScanのメーターは、クレームされている特許方法を実質的に実施しているので、そのメーターをLifeScanが最初に譲渡したとき、LifeScan はその方法の特許権を消尽させる。 よって、Shastaのテストストリップの販売に対する回復請求は禁止されていると判示した。


−第4 JVC Kenwood Corp. v. Nero, Inc., 797 F.3d 1039 (Fed. Cir. 2015)−

JVC Kenwood Corp. (以下、JVC) は、DVD及びブルーレイ光学ディスク上のデータを再生し、コピーし及び記録することに関する規格必須特許(米国特許6,141,491号、5,535,008号、6,490,404号、6,522,692号、6,788,881号、及び6,212,329号)を争いに巻き込んだ。JVCはNero, Inc. (以下、Nero)を提訴し、Neroが標準規格に準拠したDVD及びブルーレイディスクと共に用いるソフトウェアをエンドユーザに提供しているため、エンドユーザによるSEPの直接侵害を誘発することによってNeroがSEPを間接的に侵害すると主張した。JVCは、ユーザは所定の標準規格を満たすDVD及びブルーレイディスクとともにNeroのソフトウェアを使用するため、必然的にソフトウェアのユーザはJVCの特許を侵害すると主張した(例えば、再書込可能なディスク上のデータを編集する方法及び装置に関する米国特許6,490,404号に基づき、JVCは、エンドユーザが空の再書込可能なディスクに記録するためにNeroのソフトウェアを用いた場合、エンドユーザは当該特許を直接侵害すると主張した)。

これに対し、連邦地裁は以下のように述べた。JVCは、Neroのソフトウェアのユーザがライセンスされていないディスクを用いていたことを示すこと無く、ディスクに対する広範なライセンスプログラムが存在することを示しただけである(JVCの特許は標準規格の必須特許であるため、これらの標準規格を満たすDVD及びブルーレイディスクは、標準必須特許の下でライセンスされている)。JVCによる特許侵害の主張は、標準規格の存在及びJVCの特許がその標準規格に必須であることに基づくものであるにすぎない。つまり、エンドユーザがライセンスされていないディスクを用いていたことの特定の主張及び証拠が無ければ、NeroはJVCの特許侵害の主張に対して抗弁できる。従って、連邦地裁は、Neroのソフトウェアを、SEPの下でライセンスされているライセンシーから購入したDVD又はブルーレイディスクとともに用いるエンドユーザに対し、JVCはクレームの直接侵害を主張することはできないと判示した。

CAFCは、この理由付けを支持した。(なお、連邦地裁は、代替的に、エンドユーザによる、SEPの下でライセンスされたDVD及びブルーレイディスクでのNeroのソフトウェアの使用は、特許消尽論に基づく抗弁の対象になると判示した。控訴審において、CAFCは、非標準規格ディスクに関連する更なる議論を要する事実問題が残っているので、消尽に基づく代替的な略式判決を退けた。しかしながら、CAFCは、その特許が必須である標準規格に準拠したディスクの使用に対し、対象特許が消尽している可能性があると指摘した。


−第5 Impression Products v. Lexmark International, Inc., 137 S. Ct. 1523 (2017)−

Lexmark International, Inc (以下、Lexmark)が、再使用及び再販売の制限を課したうえで米国国内及び国外において販売したプリンタカートリッジに対して、消尽が適用されるかが争われた。

Lexmarkは米国内および外国の両方でプリンタ用のトナーカートリッジを販売し、また明示のシングルユース/再販禁止制限の下でカートリッジをディスカウントして販売する。この制限は、トナーがなくなった後の購入者による使用禁止、カートリッジの再利用の禁止、およびいったんカートリッジが使用されたならばそのカートリッジのLexmark以外の第三者への譲渡の禁止である。 一方、Impression Products(以下、Impression)は様々な購入者から空のLexmarkトナーカートリッジ(シングルユース/再販禁止制限の課されたものを含む)を取得し、取得したカートリッジにトナーを充填し、充填後のカートリッジを米国内で再販売している。

Lexmarkは、Impressionの行為に対して特許侵害訴訟を連邦地裁に提起した。この件の対象となるカートリッジは、シングルユース制限の下でLexmarkにより米国内で販売されたカートリッジと、米国外で販売されたカートリッジと、を含んでいた。これに対しImpressionは、Lexmarkによるカートリッジの販売が消尽論により却下されるべき旨を抗弁した。連邦地裁は、Lexmarkによって米国内で販売されたカートリッジの特許権は消尽し、一方で、外国で販売されたカートリッジについては消尽しないと判示した。両当事者は控訴し、CAFCはどのカートリッジについてもLexmarkの特許権は消尽しないと判示した。その後Impression Productsが米国最高裁に上告した。

米国最高裁は、CAFCの判決を破棄し、特許権者の「商品を売るという決定は、[特許権者が]課すいかなる制限や販売の場所によらず、その物についての全ての特許権を消尽させる」と判示した。米国最高裁は、動産の譲渡の制限についてのコモンローの趣旨に鑑み、特許権者は特許独占の行使を通じて、商品を最初に販売した後にさらなる譲渡を制限することはできないと説明した。また、米国最高裁は、上記動産の譲渡の制限は、地域的な制約なく適用されるものであるとも説明した。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大出純哉

弁理士 大出純哉
大塚国際特許事務所 弁理士。平成23年弁理士登録。筑波大学大学院・工学研究科・知能機能工学専攻・修士課程修了。ソニー株式会社にて、テレビ受信機等のソフトウェア開発に従事した後、社内弁理士としてグローバルな特許資産の活用業務に従事。有力特許の抽出、製品解析を含む侵害立証、交渉等を通して新規ライセンス獲得に貢献。ソフトウェア、通信ネットワーク、放送技術、画像処理等のIT分野の特許、訴訟を得意とする。週末のボクシングジムでの運動が楽しみの一つ。

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