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ORACLE AMERICA, INC. 対 GOOGLE LLC 事件

2017-1118 (Federal Circuit March 26, 2018)

−ソフトウェアコードのコピーについてフェアユースの成立を否定したCAFC判決−

CAFCはこの判決で、グーグルがオラクルのJavaアプリケーションプログラミングインタフェース(以下、「APIパッケージ」)を利用したことが法律問題としてのフェアユースに該当しないと判断し、オラクルによる法律問題判決及び損害賠償の審理の請求を棄却した地裁判決を覆した。この判断を行うにあたって、CAFCはフェアユースの4要素を適用し、第2要素の「著作物の性質」についてはフェアユースの成立に有利な方向であるものの、第1要素の「利用の目的及び性質」及び第4要素の「潜在的市場への悪影響」については圧倒的にオラクルに有利であると判断した。CAFCの判断は、当事者が著作権で保護された著作物をそっくりそのままコピーし、これを競合するプラットフォームにおいて著作権者と同一の目的及び機能のために利用した場合には、フェアユースが成立しないという基準を最終的に確立した。Javaのコンピュータプログラミングプラットフォームは、オラクルに買収される前にサン・マイクロシステムズ(Sun MicroSystems)によって開発された。プログラミング言語の開発に加えて、サンは、相互運用性を実現するAPIパッケージを開発した。これがあれば、プログラマは、1つのコードセットを作成するだけで、Javaをサポートする任意のコンピューティングプラットフォームにおいてこのコードセットを実行することができる。Javaのプラットフォームは、一般的には無償提供されているが、サンのプラットフォームや電子デバイスと競合するプラットフォームで利用する場合はライセンス料が要求される。グーグルは2005年に携帯電話のプラットフォームであるAndroidを購入し、それ以降、オペレーティングシステムの開発を継続した。この開発中に、グーグルはJava Standard Editionのライブラリを組み込むことを希望し、携帯デバイスに対して可能なライセンスについてサンと協議した。合意に到達することはできなかったが、グーグルは構わずJavaを組み込むことを選択し、最終的に2007年にAndroidプラットフォームのベータ版をリリースした。オラクルはそのすぐ後にサン・マイクロシステムズを買収した。

2010年、オラクルはグーグルに対して、著作権及び特許権の侵害を理由としてカリフォルニア州北部地区の米国地方裁判所に訴訟を提起した。オラクルは、グーグルがAPIパッケージをコピーしており、Javaのライセンス無しにAndroidを開発してきたことを認識していたと主張した。APIパッケージの著作権侵害に関して陪審はオラクルに有利な判断をしたが、裁判所は最終的にAPIパッケージが著作権法の保護対象ではないと判断し、グーグルに有利な判決でた。オラクルはCAFCに控訴し、CAFCはこの判決を破棄し、オラクルのAPIパッケージが著作権法の保護対象であると判断した。グーグルは最高裁判所に対して上告受理申立てを行ったが、最高裁判所はこれを却下した。

差戻しの審理において、陪審はグーグルによるフェアユースの抗弁を支持し、地方裁判所はグーグルに有利な終局判決を行い、オラクルによる法律問題判決の申立てを棄却した。オラクルはCAFCに控訴した。グーグルも、APIパッケージが著作権法の保護対象ではないという自己の主張を維持するために終局判決について交差上訴を行った。

控訴審において、CAFCは、グーグルがオラクルのAPIパッケージを「そっくりそのまま」コピーしたことがフェアユースに該当するか否かを分析した。フェアユースは、著作権侵害に対する積極的抗弁であり、限定的な状況において他者の著作権で保護された著作物を利用することを許容するものである。これは、非排他的な4要素を考慮する、事例固有の判断である。(1)「そのような利用が商業的な性質を持つか非営利の教育目的によるものかということを含む、利用の目的及び性質」、(2)「著作権で保護された著作物の性質」、(3)「著作権で保護された著作物全体との関係において利用された部分の量及び実質性」、(4)「著作権で保護された著作物の潜在的市場又は価値に対する利用の影響」。オマリー判事による判決において、CAFCは、グーグルによるコピー行為がフェアユースに該当しないと判断した。

第1要素を検討した際に、CAFCは、「グーグルによるAPIパッケージの[極めて]商業的な利用」及びその非トランスフォーマティブ(非変容的)な性質がフェアユースの成立を否定する方向に働くと判断した。第2要素に関しては、CAFCは、APIパッケージに内在する創造性のレベルを理由にフェアユースの成立に有利な方向であると判断したが、この要素は「分析全体に対してあまり重要性」を持たないとも述べた。第3要素(利用に関する量及び実質性)は、フェアユースの成立を否定する方向に働いた。この判断に際して、CAFCは、コピーされた11,300行のコードを引用した。これは、グーグルがプログラミングの目的で必要とした170行のコードと比べて圧倒的に多い。最後に、CAFCは、第4要素がフェアユースの成立を否定する方向に働くと判断した。CAFCは、「実際の及び潜在的な悪影響に関する証拠の記録を考慮すれば・・・グーグル『が行った無制限かつ広範なこの種の行為』は、『元の著作物』及びその派生物『の潜在的市場に対して実質的な悪影響』を結果としてもたらしたであろう」と述べた。CAFCは、この要素がオラクルに対して極めて有利に働くと結論付けた。

4要素の総合的な評価において、CAFCは、グーグルによるオラクルのAPIパッケージの利用を許容することは「著作権法の目的を促進することにはならない」であろうと判断した。特に、CAFCは、直接競合するプラットフォームにおいてグーグルがAPIパッケージをそっくりそのまま利用したという問題を取り上げ、そのような利用を、グーグルが自分自身のAPIを開発するシナリオや、新たなプラットフォームの開発に利用するためにオラクルのAPIをライセンスするシナリオと区別した。CAFCは、そのような利用は発展途上にあるスマートフォン市場にオラクルが参加することを効果的に妨げるので、「本質的にアンフェア」であると判断した。判決において、CAFCは、コンピュータコードをコピーすることがいかなる場合もフェアユースに該当しないと結論付けたのではないということを明確化し、この判決の射程を本件固有の事実に制限した。

本判決は、過去及び将来のソフトウェア開発に多大な影響を与える可能性がある。特に、CAFCは、フェアユースの基準を確立した。即ち、グーグルによる利用が非変容的であると判断するのに際して、CAFCは、変容的ということが、新たな著作物であって、完全に新たな目的を持つことを意味すると定義した。ソフトウェアコードに適用されるフェアユースを制限し、プログラミング言語が著作権法の保護対象であると判断したという点において、CAFCによる本判決は、ソフトウェア開発において通例となっている創造的共有の文化と、新たなソフトウェアを開発するイノベーターへのインセンティブとして著作権の保護を利用することとの間のバランスの明確化を更に促進するであろう。

この判決のポイント

CAFCはこの判決において、ソフトウェアコードのコピーについてフェアユースの成立を否定した。その際に、CAFCは、フェアユースの基準の「トランスフォーマティブ(変容的)」を、新たな著作物であって完全に新たな目的を持つことを意味すると、定義した。なお、CAFCによれば、ソフトウェアコードをコピーすることがいかなる場合もフェアユースに該当しないと判断したのではなく、フェアユースの成立を否定した判断の射程は本件固有の事実に制限される。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 坂田恭弘

弁理士 坂田恭弘
大塚国際特許事務所 弁理士。平成16年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子工学専攻・修士課程修了。当事務所において13年以上にわたり、様々な技術分野での権利化及び訴訟を担当。特に情報通信(ICT)、移動通信、画像処理などの分野を得意とする。

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