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BERKHEIMER 対 HP INC. 事件

No. 2017-1437 (February 8, 2018)

−客観的な境界を提供すべきとする基準で文言の明確性を判断したCAFC判決−

CAFCはこの判決で、当業者が合理的にクレームの文言の意味を理解できなかったことを示す内的証拠及び外的証拠の観点から「最小の冗長性」の文言が不明確であるという連邦地裁の判決を支持した。連邦地裁の見解を支持するにあたって、CAFCは、クレームは明細書及び出願審査経過に照らし、当業者に客観的な境界を提供しなければならないという、先例において確立された基準を再度適用し、この基準が他のクレーム文言にも適用されるように、程度を示す文言に適用されることに言及した。加えて、CAFCは、明細書に開示された先行技術に対して主張された改良を包含する特定の従属クレームに関して、米国特許法第101条に基づく特許非適格性の連邦地裁の判決を破棄した。その理由は、クレームがAlice Corp. Pty. Ltd. 対 CLS Bank, Int’l, 134 S.Ct.2347 (2014)判決において確立された適格性テストのステップ2における「十分に理解され、日常的かつ慣習的」である何かを記載するかどうか、についての事実に関する争点が主張された改良により形成されたことによる。

Steven Berkheimer氏は、デジタル資産管理システムにおけるデジタル処理及びファイルをアーカイブすることに関する米国特許第7,447,713号を所有する。当該システムは、新規ファイルをアーカイブ済みのファイルと比較し、共通のテキスト要素及びグラフィックス要素の冗長な記録を排除することができ、システムの運用効率を改良するとともに記録コストを低減する。Berkheimer氏は、‘713特許のクレーム1−7及び9−19の侵害を主張してHP Inc.を提訴した。続くマークマンヒアリング(Markman hearing)において、連邦地裁は、クレーム10における「アーカイブは最小の冗長性を備える」の文言が不明確と結論し、当該クレームとその従属クレームは無効であると言い渡した。HPは、クレーム1−7及び9が抽象的アイデアに関連するため米国特許法第101条に基づき特許非適格であるとの略式判決を申し立て、連邦地裁はその申立を受理した。

不明確性の争点について、連邦地裁は、クレーム10における「アーカイブは最小の冗長性を備える」の文言を分析し、内的証拠が「『最小の冗長性』の極めて主観的な意味を当業者に委ねている」と判断した。その再審理では、CAFCはまず、「最小の冗長性」の意味が合理的に明確であるかを判断するためにクレームの文言を確認した。そのうえで、どのレベルの冗長性がアーカイブにおいて許容されるかをクレームが特定していないため、クレームは不明確であるとした。CAFCは、システムがアーカイブする冗長性のレベルに関する明細書中の一貫していない用語を引用し、そのうえで、アーカイブがいくらかの冗長性を含む場合に、当業者が「最小」の客観的な境界を判断するための比較の観点を明細書が含んでいないことに特に言及した。CAFCは、その後、出願審査経過を参照して、審査中における明確性の拒絶理由通知に対するBerkheimer氏による応答が、客観的な基準の判断に明確性を加えるものではなかったと結論付けた。

CAFCは、Berkheimer氏による、「アーカイブ」の文言を含むことにより何が「最小の冗長性」を備えるのかを評価するための客観的な基準を提供する、という主張を棄却し、アーカイブが「何が」最小の冗長性を備えるべきかについて記載するとの主張においてBerkheimer氏は正しいが、「どれだけの」最小の冗長性が備わるべきかとの疑問に対処していないと判決した。後者の点について、Berkheimer氏は、客観的な境界を有するために程度を示す文言を要求されることはなく、そのような文言を要求する判決は「最小の」又は「実質的な」などの程度を示す文言に頼っている膨大な特許を無効にするであろうと主張した。だが、Berkheimer氏の主張にCAFCは同意しなかった。CAFCは、Sonix Tech.Co., Ltd. 対 Publ’ns Int’l, Ltd., 844 F.3d 1370 (Fed.Cir.2017)判決とInterval Licensing LLC 対 AOL, Inc. 766 F.3d 1364 (Fed.Cir.2014)判決とを引用して、程度を示す文言に対して客観的な境界の要件が適用されることは判例法において明らかであると説明した。Sonix Tech.Co., Ltd. 対 Publ’ns Int’l, Ltd.判決は、「視覚的に無視可能」の文言がクレームを解釈するための客観的な基準を有すると判決したものであり、Interval Licensing LLC 対 AOL, Inc. 766 F.3d 1364 (Fed.Cir.2014)判決は、「目立たない態様で」の文言が客観的な境界を欠くと判決したものである。従って、CAFCは不明確との判決を支持した。

米国特許法第101条における特許不適格性の問題について、連邦地裁は、問題のクレームが、「十分に理解され、日常的かつ慣習的」なコンピュータ機能のみを用いるステップ、かつ、「比較的高いレベルの一般性で」クレームされたステップを記載するものであるため、進歩的概念を含まないと結論付けた。この問題の控訴審における判断では、CAFCはまず、従属クレーム4−7が別個に特許適格性を有することを主張する権利をBerkheimer氏が放棄したかどうかを扱った。Berkheimer氏は独立クレーム1が代表クレームであることに一度も同意しなかったため、また、Berkheimer氏が、従属クレームにのみ見られる限定に関する、意味のある主張を進めたため、CAFCは、クレーム4−7に関する別々の主張は放棄されていないと判決した。

第101条の問題の本件について、CAFCは、まずAliceフレームワークのステップ1に基づいてクレームを分析して、クレームが特許不適格性の概念の対象であるかを判断した。CAFCは、クレームのそれぞれが、データをパースし、そして比較すること(クレーム1−2及び9)、データをパースし、比較し、そして格納すること(クレーム4)、又は、データをパースし、比較し、格納し、そして編集すること(クレーム5−7)の抽象的アイデアを対象にすると判断した。特に、CAFCは、クレームがIn re TLI Commc’ns LLC Patent Litig., 823 F.3d 607, 613 (Fed.Cir.2016)判決及びContent Extraction & Transmission LLC 対 Wells Fargo Bank, Nat’l Ass’n, 776 F.3d 1343, 1347 (Fed.Cir.2014)判決において抽象的なアイデアを対象にするものであると判決されたクレームと類似すると認めた。CAFCは、Berkheimer氏による、パースすることの限定はクレームを技術に定着させ、データ構造をソースコードからオブジェクトコードへ変換するものであるからクレームは抽象的ではない、との主張を棄却した。CAFCは、技術的環境に発明を限定することは、ステップ1において抽象的概念をより抽象的でないものにすることにはならず、そして、主張された変換は、その変換が何らかの方法でコンピュータの機能を改良するという証拠が無ければ、非抽象的であることを証明できないと説明した。

Alice分析のステップ2に関して、CAFCは、追加的なクレーム要素が、業界で以前から知られ、十分に理解され、日常的かつ慣習的な活動のパフォーマンスより高いものを含む場合に、追加的なクレーム要素がクレームの特許適格性を示すことに言及した。CAFCは更に、クレーム要素又はその組み合わせが関連する分野の当業者に十分に理解され、日常的かつ慣習的であるかどうか、の問題は事実問題であることに言及した。 略式判決は、重要な事実に関する真正な争点が無い場合にのみ適当であるが、CAFCは、クレーム要素又はクレームされた組み合わせが当業者にとって十分に理解され、日常的かつ慣習的であるかどうか、について重要な事実の真正な争点が無い場合、第101条の問題における略式判決は適当であることを強調した。

控訴審では、Berkheimer氏は、冗長性を減少すること及び1対多の編集を可能にすることに言及する明細書の部分が、クレームが十分に理解され、日常的かつ慣習的なコンピュータ機能を記載するものであるとする連邦地裁の判決と矛盾すると主張した。CAFCは、十分に理解され、日常的かつ慣習的な活動が何であるかをクレームが記載しているかどうかについての事実に関する争点が、明細書に記載の改良によって形成されることについて、クレームによって捉えられる改良の範囲においてBerkheimer氏に同意した。クレーム1−3及び9に関して、CAFCは、クレームが主張された改良を得るための限定も含んでいないと判決し、従って、第101条に基づく特許非適格性に対する連邦地裁による略式判決を支持した。しかしながら、クレーム4−7に関して、CAFCは、これらのクレームは、主張された改良を提供する、主張可能な慣用的でない要素を対象とする限定を含んでいると判決した。従って、クレームが単に、十分に理解され、日常的かつ慣用的な動作を記載するかどうか、又は、先行技術に対する改良を提供する進歩的概念を含むかどうかに関する事実の真正な争点があり、従って、これらに関する略式判決は不適当である。

この判決は、クレームが程度を示す文言を含む場合に、クレームの文言の意味が「合理的に明確」であるように、明細書が、程度を示す文言に対する客観的な境界を提供する例示及び/又は他の開示を含むことが重要である、ということを特許出願人に再認識させる点で重要である。加えて、この判決は、略式判決を不可能にする、第101条に基づく真正な事実問題を構成するものが何かについての明確性を提供する点で重要である。特に、第101条に基づく略式判決を回避するために、コンピュータベースの発明に関する特許の保護を求める出願人は、発明によって提供される既存技術に対する改良を入念に明細書に記載すべきであり、クレームがこれらの改良を捉えた限定を含むことを確実にすべきである。更に、この問題についての略式判決の申立に直面した場合、特許権者は、たとえ独立クレームがそうでないとしても、従属クレームが特許適格性を有することの主張を従属クレームに関して維持する別個の主張を行うべきである。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、当業者が合理的にクレームの文言の意味を理解できなかったことを示す内的証拠及び外的証拠の観点から「最小の冗長性」の文言が不明確であるという連邦地裁の判決を支持した。CAFCは、クレームは明細書及び出願審査経過に照らし、当業者にとって客観的な境界を提供しなければならないという、先例において確立された基準を再度適用し、この基準が程度を示す文言に適用されることに言及した。この判決は、クレームが程度を示す文言を含む場合に、クレームの文言の意味が「合理的に明確」であるように、明細書が、程度を示す文言に対する客観的な境界を提供する例示や他の開示を含むことが重要である、ということを再認識させた。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大出純哉

弁理士 大出純哉
大塚国際特許事務所 弁理士。平成23年弁理士登録。筑波大学大学院・工学研究科・知能機能工学専攻・修士課程修了。ソニー株式会社にて、テレビ受信機等のソフトウェア開発に従事した後、社内弁理士としてグローバルな特許資産の活用業務に従事。有力特許の抽出、製品解析を含む侵害立証、交渉等を通して新規ライセンス獲得に貢献。ソフトウェア、通信ネットワーク、放送技術、画像処理等のIT分野の特許、訴訟を得意とする。週末のボクシングジムでの運動が楽しみの一つ。

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