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Exmark Mfg.Co. 対 Briggs & Stratton Power Prods. Grp., LLC事件

No. 2016-2197 (January 12, 2018)

−地裁が再審査における米国特許商標庁の有効性判断を単に是認することは許されないとしたCAFC判決−

CAFCはこの判決で、クレームが有効であるという再審査手続における米国特許商標庁の判断に地裁が単に依存することはできないと判示した。CAFCはまた、最高裁の Halo Electronics, Inc. 対 Pulse Electronics, Inc., 136 S. Ct.1923 (2016) 判決に照らして、故意侵害は裁判所によってではなく陪審員によって判断される争点であることを明確にした。

EExmark(エクスマーク)は、米国特許第5987863号のクレーム1の侵害についてネブラスカ州地区でBriggs(ブリッグス)を訴えた。863特許のクレーム1は、米国特許商標庁で3回再審査されており、毎回有効と判断されていた。Exmarkは、クレーム1は新規性又は自明性のために無効ではないとしてサマリージャッジメントを申し立て、地裁はクレーム1が再審査を3回生き延びたという事実に基づいてこの申立を認めた。Briggsは、クレーム1が不明確であるとして地裁にサマリージャッジメントを申し立てたが、地裁はこの申立を却下した。

Briggsがクレーム1を侵害したか、Briggsの侵害が故意か、及び損害額を判断するために、この訴訟は陪審公判に進んだ。陪審は、Briggsが故意侵害の責めを負うと判断し、Exmarkに合理的なロイヤリティの損害賠償を認めた。地裁は次に、Briggsの懈怠についての申立及びBriggsの故意性及び損害額についての新たな公判の申立に関し、裁判官裁判を開いた。この裁判で地裁はBriggsの懈怠についての申立を却下し、Briggsの故意侵害に基づいてExmarkの損害額増加の申立を認めた。Briggsは地裁のいくつかの判断についてCAFCに控訴した。

有効性に関する地裁のサマリージャッジメントに関し、Briggsは、地裁で用いられたものと同じ先行技術が用いられた米国特許商標庁による複数の再審査における有効性判断に地裁は単に依存したことを理由として、クレーム1が新規性又は自明性で無効ではないとするサマリージャッジメントを地裁が誤って認めたと主張した。Exmarkは、再審査における米国特許商標庁の判断が終局的ではないことは認めたが、地裁はサマリージャッジメントの判断において、米国特許商標庁の判断に十分な重みを適切に与え、また他の要素も検討したと主張した。

CAFCは、Briggsによる地裁判決の特徴付けに同意し、Exmarkには同意しなかった。CAFCは、「地裁のサマリージャッジメントの判断は、単一の理由を含む単一の段落に依存していた」と述べた。CAFCは、クレームが複数の再審査に生き残ったことに単に地裁が依存してサマリージャッジメントを認めたと結論づけ、これが誤りであったと判断した。 CAFCは、「特許クレームの特許性が既に再審査で認められていても、それは後に有効性を争うサマリージャッジメントの請求を妨げるものではない。……特許発行につながった特許審査が地裁での無効論攻撃を排除しないように、特許の有効性を認めた再審査も、特許を無効にしようとする者が無効の立証責任を果たすことを不可能にすることはない。このように、我々は地裁が独立した結論に至る義務があることを確認する」と説明した。

故意性について、Briggsは、Halo事件が故意性に関する新しい裁判及び地裁による損害賠償の増額の取り消しを認めたことを主張した。Halo事件において、最高裁は、故意性は主張される侵害時における侵害者の主観的意図又は知識に依存すると判断し、従前のCAFC判例であるIn re Seagate Technology, LLC., 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007) (en banc) 判決を破棄した。Seagate判決は、故意性についての問いの一部分として、侵害者による防御の客観的合理性に関する地裁による閾値判断を要求していた。この判断は、Halo判決により覆された。

Exmark事件において、故意性についての問いは、Halo判決以前はIn re Seagate基準の下で行われていた。地裁は、Briggsの訴訟における防御は合理的ではないとする、要求された閾値判断を行っていた。この判断に基づいて、地裁はBriggsがクレーム1の有効性又は先行技術がこのクレームにどれほど近かったかに関する証拠を陪審に提示することを排除した。Briggsは、主張される侵害時における心理状態に関するこの証拠を提示することは許されるべきであったこと、この証拠を除外したことは最高裁のHalo判決と矛盾していることを主張した。

CAFCはBriggsに同意した。CAFCは、Halo判決の下で、「全ての故意性判断は陪審によって判断される」と判断した。地裁は、主張される侵害時における被疑侵害者の心理状態に関する証拠を排除することはできない。したがって、CAFCは、「Briggsが主張される侵害時において先行技術について何らかの見解を発展させていたかどうか、又は証拠が訴訟においてひらめいたBriggsの防御に関するものにすぎないかどうか」を判断するように地裁に指示して、故意侵害との陪審判断を取り消した。

この判決は、特許クレームが米国特許商標庁での再審査での攻撃に生き残ってきたとしても、被告は同じ先行技術に基づく無効性がないとする地裁でのサマリージャッジメントを避けることが依然として可能であり、陪審において無効を証明することに成功できるかもしれないことを意味する。(重要なことに、しかしながら、米国特許商標庁でのIPR手続があった場合、法定のエストッペル規定により、被告が地裁で同じ先行技術を提示することは不可能になるかもしれない。)加えて、この判決は、陪審が、主張される侵害時における被疑侵害者の心理状態に関係する全ての証拠に基づく、故意侵害についての唯一の判断者であることを意味する(一方、損害賠償が増額されるかどうかは依然として裁判所が判断する)。したがって、被疑侵害者に対して特許主張がなされてからすぐに意見が入手できるのであれば、無効又は非侵害に関する法律顧問の意見を手に入れることは被疑侵害者にとって有益であろう。

この判決のポイント

CAFCはこの判決で、クレームが有効であるという再審査手続における米国特許商標庁の判断に地裁が単に依存することはできないと判示した。CAFCはまた、最高裁の Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc., 136 S. Ct.1923 (2016) 判決に照らして、故意侵害は裁判官ではなく陪審員が判断する争点であることを明確にした。この判決は、特許クレームが米国特許商標庁での再審査における攻撃に生き残ってきたとしても、陪審裁判で特許の無効を証明できる可能性があることを示している。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 木下智文

弁理士 木下智文
大塚国際特許事務所 弁理士。平成25年弁理士登録。東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬学専攻・修士課程修了。薬剤師。日本弁理士会国際活動センター米州部副部長、同部研究成果報告セミナー講師。大塚国際特許事務所のシステムアドミニストレータとしても活躍する。医薬、化学、ネットワーク、画像処理の特許、訴訟を得意とする。近年マラソン大会に出場することを趣味としているが、体型のためかクライアントに自慢すると賞賛されずに心配される。

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