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Aqua Products, Inc. 対. Matal 事件

CAFC (en banc) No. 15-1177 (Oct 4, 2017)

−IPR係属中の補正後クレームの
特許性欠如の立証責任は請求人側にあると判断したCAFC大法廷の判決−

Aqua Products, Inc. 対Matal事件で、CAFC大法廷はIPR係属中に補正したクレームの特許性の立証責任は誰が負担すべきかの問題を扱った。法廷では議論が分かれたが、最終的に複数の裁判官のいくつかの異なる見解が示された。

全ての面で過半数を獲得した見解はなかったが、O’Malley裁判官の主導的な見解によれば、「考慮すべき事項が存在しない場合、米国特許法第316条の最も合理的な解釈によれば、補正されたクレームの特許性についての説明責任は請求人が負う。」と示された。

CAFCはこの見解を出すことで、この見解に抵触する範囲内で、IPR手続中の補正申立についての立証責任に言及した従前のCAFC判決を無効にした。しかしO’Malley裁判官は、この判決は「狭い」ということを認め、また、裁判所の判決をサポートし及び規定する唯一の法的な結論は、(1)米国特許商標庁は、特許権者に補正されたクレームの特許性について説明責任を負わせる(裁判所の敬譲に値する)ルールを採用していないこと、及び(2)敬譲に値するものがない以上、米国特許商標庁は特許権者にその責任を負わせることはできないこと程度であると認めている。

Aqua Products, Inc.(Aqua Products)は、自動スイミングプールクリーナーに関連するAqua Productsの特許侵害を主張して、Zodiac Pool Systems, Inc.(Zodiac)を訴えた。これに応じてZodiacは、特許審判部(PTAB)に対して対象特許の特定のクレームの特許性について異議を唱えるべくIPRを申し立てた。IPRの開始後、Aqua Productsはオリジナルクレームの特許性の主張に加えて、3つの代替クレーム案を含む補正申立を行った。PTABは最終的に、無効主張の対象とされたクレームは特許性がないと判断し、また、補正申立を認めなかった。

この補正申立の分析において、PTABはまず、代替クレームは米国特許法第316条(d)の手続的要件を満たしていると判断した。この条文は、特許権者が「合理的な数(reasonable number)」の代替クレームを提案することを許可するが、当初のクレームの範囲の拡大や新規事項の導入を禁止している。しかしながらPTABは、Aqua Productsは代替クレームが記録上の先行技術に対して特許性を有することの立証に失敗したから、特許権者の立証責任を果たしていないと判断した。

CAFCへの出訴に際してAqua Productsは、米国特許法第316条(e)は特許性欠如の立証責任を特許権者ではなく請求人に課していると主張した。特に、米国特許法第316条(e)は「IPRにおいて…証拠の優越性に基づく特許性欠如を立証する責任は請求人が負うものとする。」と記載していることを主張した。しかし、最初に訴えを審理した三名の合議体はAqua Productsの意見を退けた。合議体の記録によれば、Reyna裁判官は、CAFCは以前から補正についての立証責任を特許権者に課すとした審判合議体のアプローチを支持しており、Reyna裁判官はその先例を再検討することを断ったと記している。そして裁判所は、Aqua Productsによる補正申立の却下を含む審判合議体の最終的な決定を維持した。

この判決の後、Aqua Productsは、全てのCAFC裁判官による大法廷の再審理を要求する申立を提出した。CAFCは請求を認め三名の合議体による決定を退けた上で、大法廷に再審理を命令した。米国特許商標庁が補正したクレームの特許性に関する立証責任を特許権者に負わせてもよいか否かについて決定する中で、O’Malley裁判官が作成した主導的見解では、米国議会(Congress)は補正前のクレーム、補正後のクレームとも全てのクレームについての特許性欠如の立証責任を請求人に課すことを意図していたことを信じるべき多様な根拠が解析された。O’Malley裁判官は、米国議会と米国最高裁判所の双方はIPR係属中における特許権者によるクレーム補正の権利の重要性を強調していると述べた。主導的見解は、IPRのクレーム解釈基準はクレーム補正が可能であることを前提としているが、IPRで特許権者がほとんど補正を行うことができなかったことを述べている。また、主導的見解は、IPR手続を監督する法的制度を導入したアメリカ発明法(AIA)の初期のバージョンの立法経緯についても議論した。O’Malley裁判官は、初期のバージョンのAIA法は、(そのバージョンが採用されていたならば)特許権者が立証責任を負うことになったであろう文言を検討していたが、最終的にはこのような文言は削除され、請求人の立証負担に焦点を当てた文言が選択されたと述べた。

O’Malley裁判官は次に対応する米国特許商標庁の規則について触れた。米国特許商標庁の米国特許規則42.20(概して「申立人」の負担に言及」)と42.121(補正申立の手続)は、特許性の説明責任を特許権者に課しているとの主張に対して、O’Malley裁判官は同意しなかった。逆にO’Malley裁判官は、米国特許商標庁は2つのIPR審決を通じて補正申立の立証責任を特許権者に課していると判断した。重要なのは、これら2つのIPR審決に示された法律解釈は米国特許商標庁の公布している実際の規則によるものではなかった。即ち、これらは行政手続法(APA)が規定する公示及びコメントという規則制定要件を満たすものではなかったということである。

この枠組みにおいて、主導的見解は、Chevron U.S.A., Inc. 対. Natural Resources Defense Council, Inc.事件 467 U.S 837(1984年)に記載されたテストであり、官庁(agency)による法律の解釈が、許容可能な成文法の解釈に基づいているかを決定するために法廷で用いられたChevron分析に目を向けた。Chevron分析は、(1)米国議会は問題についての明確な争点について直接発言したか、「いいえ」であれば、(2)官庁は関連する法律の許容可能な解釈を用いてこの争点を解決したか、の2つの問いを考慮する。

O’Malley裁判官(及び主導的オピニオンに加わっている他の裁判官)は、Chevron分析の第1の問いについて、「米国議会は、補正後のクレームを含む全てのクレームについて、請求人に特許性欠如を証明するための説明責任を明確に課した」と判断した。特にO’Malley裁判官は、米国特許法第316条(d)(1)は特許権者にIPR係属中に補正申立(所定の手続的要件が課される)を行う権利を与えており、提出した補正後クレームの特許性に関する立証責任を課していないと判断した。O’Malley裁判官はまた、代替的クレームは「申立」によって導入されたのだから、説明責任は申立人である特許権者が負担すべきだとする米国特許商標庁の意見を否定した。主導的見解によれば、IPR手続中に補正を行うためには、特許権者は米国特許法第316条(d)に定める方式、及び、米国特許商標庁長官により課せられた合理的な手続上の義務を満たすだけで足り、補正後のクレームの特許性欠如についての立証負担は請求人に課される。主導的見解はまた、補正後クレームはオリジナルクレームよりも範囲が狭くなければならないから、「審査されていない」補正後クレームが発行されることになるという考えを否定した。

主導的見解に加わった裁判官はこのように分析を終え、法律の定めは特許権者により提示された代替クレームに特許性がないことを証明する責任を明瞭に請求人に課していると締めくくろうとしたが、法律に明確に示されていると判断することについては、過半数の支持はなかった。合意がなかったのでO’Malley裁判官はChevron分析を続け、米国特許法第316条(d)若しくは(e)の米国特許商標庁による解釈に敬譲が与えられるべきかどうかを決める2つ目の問いに目を向けた。このポイントでは、大法廷の過半数が、米国特許商標庁が、補正申立における立証責任に関するルールや規則をなんら採用していないことに同意した。主導的見解は、米国特許規則42.20及び42.121は、特許性の判断に向けられたものでなく、さらに、IPRの審決例はChevron判決に基づく敬譲に値しないと述べている。そして、大法廷の過半数は、米国特許商標庁が米国特許法第316条(d)又は第316条(e)の曖昧性について適切な判断を行わなかったと結論づけた。そこで、大法廷は米国特許法第316条を覆審的判断基準(de novo基準)にしたがって再検討し、「IPRにおけるオリジナル及び補正後双方の全てのクレームの特許性欠如の立証負担は請求人にある」と判断した。主導的見解はさらに、米国特許商標庁がこの点について正式に規則を制定していたとしても、それを行う法的権限に欠けていたであろうと述べた。なぜならば、「立証負担」の項目を設定する行為は、「基準と手続」を定めるための米国特許法第316条(a)(9)における、議会からの米国特許商標庁への指示の範疇から外れることが明らかだからである。

主導的オピニオンはまた、PTABが、他のIPR記録を無視して、補正申立の文面のみに基づいて、補正後クレームに関する特許性判断を行ってもよいのか否かについても検討した。オピニオンは、(補正クレームの特許性などといった)最終的な実質的決定は記録全体に基づかなければならず、そして、官庁が目前にある問題に関係する証拠を考慮することを拒否したのは、「明らかに恣意的且つ気まぐれ」だと認定して、事件を差し戻した。

主導的見解に加えて、Moore裁判官、Reyna裁判官、Taranto裁判官及びHughes裁判官から4つの別々の見解が出た。これらには他の裁判官も全面的又は部分的に加わった。Moore裁判官は、米国特許法第316条は請求人に補正クレームの特許性欠如の立証責任を課しているとする主導的オピニオンに加わった。Moore裁判官は、規則制定を公布するためにIPR審決を用いることについて言及し、この点について、米国議会が米国特許商標庁に対して、IPR審決のような手段ではなく正式な規則のみを通して基準を確立することを明瞭に要求していると結論付けた。

Reyna裁判官は、米国特許法第316条(e)は補正後クレームについての立証責任を誰に負わせるのか不明瞭であると判断した。Reyna裁判官はさらに、米国特許商標庁に対して「補正を行うことを特許権者に許可するための基準と手続」を規定するように指示する第316条(e)は、米国特許商標庁が説明責任に関する規則を公布することを認めていると判断した。ただし、Reyna裁判官は、IPR審決中で米国特許商標庁が立証責任について議論することは、実質的な規則制定として適正ではないことに同意した。最終的に、Reyna裁判官は、米国特許法第316条(d)及び米国特許規則42.121は特許権者に提示責任を課すのみである一方で、米国特許商標庁がAPA規則制定手続を用いて異なるルールを発布したのであれば、Chevron判決に基づく敬譲が妥当との結論を出した。

Taranto裁判官は、米国特許法第316条(e)の不明瞭性、及び第316条(e)に基づく米国特許商標庁の権限について同様の結論に至っている。Taranto裁判官はさらに彼の見解として、米国特許規則42.20(c)は補正申立を提出する際に特許権者に説明責任を適正に与えているから、米国特許商標庁の解釈はChevron判決により敬譲されるべきである、と述べた。Taranto裁判官はそのため、補正を認めなかったPTAB審決を支持した。

Hughes裁判官は、米国特許規則42.20(c)が採用されているという観点から、Chevron判決による敬譲が米国特許商標庁の解釈に与えられるべきという、Taranto裁判官の見解に加わった。Hughes裁判官はさらに、米国特許商標庁による米国特許規則42.20(c)の適用には、Auer判決による敬譲も与えられるべきと述べた。Auer判決による敬譲は、Auer対Robbins519 U.S. 452(1997年)で示された別箇の理論であって、官庁の解釈が明らかに誤っているか、規則と矛盾していない限りは、その官庁の解釈に支配的な重みを与えている。そして、Taranto裁判官と同様に、Hughes裁判官はPTAB審決を支持した。

この判決は短期的には、IPR手続中に提出された補正クレームの特許性欠如の立証責任を請求人に課すことを意味する。このことは、現時点で補正申立が出ている多くの事件に影響を与え、また補正申立を行うべきかどうかについて特許権者に再考を促すものである。しかし、このような5つの見解が混在しているため、補正申立の最終的な運命は不安定なままである。これらの様々な見解は、特許権者へ責任をシフトさせる適切な規則を米国特許商標庁が発表することを排除しないし、新しい規則が今後の裁判での精査に耐えることを保証するわけでもない。本判決における分裂を考慮すれば、立証責任問題を解決する関連の法をより明確にするために、米国最高裁判所の介入が必要になる可能性がある。

この判決のポイント

当事者系レビュー(「IPR」)係属中に行った補正による補正後クレームの特許性についての立証責任を特許権者に課すとした従来の審判合議体のアプローチに反して、CAFC大法廷は補正後クレームの特許性欠如についての立証責任を請求人に課すという判断をした。この判例の後でも、米国特許法及び米国特許規則の改正は直ちに行われないと思われるが、当面は、IPR手続の中で提出された補正クレームの特許性欠如の立証責任は請求人に課されることになる。そのため、現に係属中のIPRでのクレームの補正に関しては、特許権者側の戦略的な再考が必要と思われる。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 大塚和佳子

弁理士 大塚和佳子
大塚国際特許事務所 平成29年弁理士登録。千葉大学大学院・自然科学研究科・生物資源科学専攻・修士課程修了。医療機器メーカーにおいて製品開発及び臨床研究に従事。化学、バイオ分野、意匠、商標を担当する。

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