Ex parte McAward 事件
審判No. 2015-006416, PTAB (August 25, 2017)
−裁判所と米国特許商標庁とでの不明確性の基準の違いを示した審決−
米国特許商標庁の審判部は、希少な先例となる審決として、Ex Parte McAward事件において、クレームの不明確性を評価する米国特許商標庁のアプローチがNautilus, Inc. 対 Biosig Instruments, Inc. 事件(134 S. Ct. 2120, 2014)における米国最高裁判決を受けても変更されなかったことを再確認した。不明確性の以前の判断手法を置き換えたNautilus判決は、不明確さを理由に無効であると判断するためには特許クレームが「解決不可能に不明瞭である」ことを要求した。しかし、出願中の審査の段階で特許クレームの明確性を評価する際には、Nautilus判決前のIn re Packard 事件(751 F.3d 1307, Fed. Cir. 2014)でCAFCにより説明されたより低い不明確性閾値を米国特許商標庁が適用し続けることを、McAward事件において審判部は明確にした。すなわち、クレームが「意味が不明確な用語又はフレーズを含む」ためにクレームの外縁が不明確であるかどうか、という基準である。(751 F.3d 1310, Fed. Cir. 2014)
McAward事件で争点となった特許出願は、可撓性水用ホースに接続され、温水源及び冷水源からの漏れを監視する水漏れ検出器に関する。本願の代表的なクレーム1には、いくつかの構造的コンポーネントに加えて、水検出器が「訓練されていない設置者又は住宅所有者によって確実に設置され、設置を行うために配管工又は電気技術者によるサービスを必要とせず、それによって広く用いられ費用対効果が高い使用を可能にするように構成される」(以下、「構成される」要件)と記載されていた。審査中に、審査官は、すべての提示されたクレームを米国特許法第112条(b)のもとで不明確として拒絶し、クレームの一部を米国特許法第103条のもとで拒絶した。審判部は、すべての拒絶理由を支持した。
この事件で特に注目すべき点は、米国特許法第112条(b)のもとでの審判部の分析である。審判で、審査官は、「クレームの文言が、クレームに記載されているように機能するように『構成される』ことを可能にする構造を装置又はシステムに提供しない」ためクレーム1の「構成される」要件が不明確であり、それゆえ当業者がクレームの範囲を理解できないと主張した(McAward事件判決速報3頁)。それに対して、McAwardは、「構成される」要件が「特別な知識又は道具を用いずに設置可能である」ことを意味すると理解され、(「ガーデンホースコネクタ又は電気プラグ」のような)明細書中の構造的構成の例を指すと主張した(同3〜4頁)。
明確性についてクレームを評価する際に、審判部は、Nautilus事件前のIn re Packard事件における法的基準を適用した(同5〜6頁)。審判部は、米国特許商標庁での特許審査中において米国特許法第112条に適合していることを決定するためのアプローチと、連邦地裁によるアプローチとを区別することによって、Nautilus事件の基準ではなくIn re Packard事件の基準を適用したことを正当化した。その際、審判部は、「特許記録が進行中であり確定しておらず、この期間に庁がクレームを広く解釈し、[曖昧さを解消するために]出願人が自由にクレームを補正してもよい」点で特許審査は特有であると説明した。対照的に、裁判所での登録された特許に関連する審理では、「単純な補正は不可能であり、完全な審査記録が利用可能であり、裁判所は救済となるような解釈を採用するように努める」(同8〜9頁)のであり、したがって、「特許審査中の[不明確性についての]低い閾値は筋が通っている」と説明した(同8頁)。
さらに、審判部は、Nautilus事件で米国特許商標庁の不明確性アプローチの変更が命じられなかったという米国特許商標庁により取られた歴史的に一貫した見解を明示することによって自身を正当化した。この目的を達成するために、審判部は、Nautilus事件において米国が法廷助言者として参加した件を挙げて米国特許商標庁の見解を主張し、またNautilus事件後のPackard 対 Lee事件(2015 WL 1642022, No. 14-655, April 9, 2015)における裁量上訴に反対する書面を提出した件を挙げて発行前審査がNautilus事件での争点ではなかったと指摘した(McAward事件判決速報10頁)。
Packard事件で規定された不明確性基準を適用することを確認したあと、審判部は米国特許法第112条(b)のもとで拒絶された争点となるクレームを検討し、ここではクレーム1に焦点を当てた。その分析で、審判部は、争点の「構成される」要件は「水検出器を設置するために必要な技術レベルによって」水検出器の構造を規定するが、「訓練されていない設置者又は住宅所有者」の技術レベルが何であるか(審判部の意見では「住宅所有者」という用語は広い範囲の技術レベルを含む)に関して明確さを与えないと述べた。結果として、このような人間によって「確実に設置されうる」構造は「不明瞭で曖昧である」(同12〜13頁)とし、またこの文言を「特別な知識又は道具なしに設置可能であること」と明確化しようとする審判請求人の試みは、このような主張が明細書にサポートされていないので説得力がない(同13頁)としている。さらに、審判請求人は構造的な例を提供したが(同13〜15頁)、審判部は、それ自体は何ら構造的限定を追加しない「構成される」要件を特定の構造が満たすかどうかをどのように判定すべきかについて開示された根拠を見つけられなかった、とも述べている。したがって、審判部は、Packard基準のもとで「構成される」要件が「曖昧で不明確である」と結論付けた。
審判部は、「この事件では、AIAのもとでの許可後審理手続きにおいて不明確性に対して庁が従うアプローチを扱わない」と述べて、Packard事件の適用を発行前の特許審査に明示的に限定した(同11頁4行)。しかし、Nautilus事件とは異なる基準に発行前審査を維持した審判部の理由付けは、米国特許商標庁が同じく広いクレーム解釈基準を用い且つ限られた範囲のクレーム補正が可能であるAIAのもとでの手続にも適用可能である。実際に、審判部は、他の(先例とはならない)審決で、付与後のAIA審理手続きもPackard事件の基準により支配されることを認定した。例えば、Telebrands Corp. 対. Tinnus Enterprises LLC事件(No. PGR2015-00018, PTAB Dec. 30, 2016)、Google, Inc. 対. SimpleAir, Inc.事件(No. CBM2014-00170, PTAB Jan. 22, 2015)を参照されたい。
この判決は、発行前審査において審判部によりクレーム解釈に適用される基準と特許訴訟において裁判所により適用される基準とが異なることに焦点を当て、再確認した。McAward事件及び審判部による先行事件で説明されるように、特許権者は、審判部が裁判所よりも容易にクレームを不明確であると認定しうることに留意すべきである。さらに、米国特許商標庁に対する実務家は、明確性についての両方の法的基準を意識し、どちらの基準でも通用するクレームをドラフトすべきである。
報告者紹介
Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.
Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.
弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。
弁理士 大戸隆広
大塚国際特許事務所 弁理士。平成21年弁理士登録。東京大学大学院・情報理工学系研究科・数理情報学専攻・修士課程修了。システムエンジニアとしての経験を活かし、通信ネットワーク、情報処理、人工知能などのIT分野を得意とするとともに、半導体装置や自動車等の分野の経験も豊富である。数々の特許訴訟の経験を実務に活用している。