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Impression Products, Inc.
             対 Lexmark Int’l, Inc. 事件

No. 15-1189 (May 30, 2017)

−国際消尽を認めた最高裁判決−

Impression Products, Inc. v Lexmark Int’l, Inc.において、米国最高裁判所は、特許の消尽および販売された商品に対する販売後の制限に関する20年前の二つの連邦巡回控訴裁判所の判決を覆した。米国最高裁判所によるこのランドマーク判決以前では、連邦巡回控訴裁判所は次の二つの立場をとっていた。
すなわち、(1) Mallinckrodt, Inc. v. Medipart, Inc.(1992年)における、特許権者は「物を売ることができ、かつ、販売後の使用や再販売に関して特許侵害訴訟を通じて明確に説明される…法的制限を課す権利を留保することができる」という立場、および (2) Jazz Photo Corp. v. International Trade Commission(2001年)における、特許権者の「外国で売るという決定は、その物を輸入し米国で…その物を[販売した]買い手に対して侵害訴訟を起こす能力を無くすものではない」という立場である。しかしながら、今回、Mallinkrodtから25年、Jazz Photoから15年を経て、米国最高裁判所はこれら二つの下級審の判決を廃し、特許権者の「商品を売るという決定は、[特許権者が]課されるべきと主張するいかなる制限や販売の場所によらず、その物についての全ての特許権を消尽させる」と判示した。このため、今後米国は「国際消尽」と称されるシステムに従うこととなるであろう。

Lexmarkはプリンタおよびそのプリンタ用のトナーカートリッジを設計し、製造し、販売する。Lexmarkは、米国内および外国の両方でカートリッジを販売し、また明示のシングルユース/再販禁止制限の下でカートリッジをディスカウントして販売する。より具体的には、Lexmarkは買い手に以下の選択肢を提供する。すなわち、買い手は再利用や再販売についての制限が無いカートリッジを通常の値段で購入するか、または、買い手は約20パーセントのディスカウントで「リターンプログラムカートリッジ」を購入するか、を選ぶことができる。「リターンプログラムカートリッジ」にはシングルユース/再販禁止制限が課される。この制限は、トナーがなくなった後に買い手がカートリッジを再利用してはいけないこと、およびいったんカートリッジが使用されたならばそのカートリッジをLexmark以外の第三者に渡してはいけないこと、を定めている。Impression Productsは、いろいろな購入者から空のLexmarkトナーカートリッジ(「リターンプログラムカートリッジ」を含む)を取得し、取得したカートリッジにトナーを充填し、充填後のカートリッジを米国内で、Lexmarkカートリッジよりも安い値段で再販売する製造業者である。

Lexmarkは、トナーカートリッジやカートリッジの部品やカートリッジの使用に関する数多くの特許の侵害を主張して、Impression Productsをオハイオ州南部地区米国地方裁判所に提訴した。この件は、シングルユース制限の下でLexmarkにより米国内で販売されたカートリッジと、米国外で販売されたカートリッジと、を含んでいた。地方裁判所は、米国内で販売された「リターンプログラムカートリッジ」についてはImpression Productの申し立てを認めてLexmarkの請求を棄却したが、外国で販売されたカートリッジについてはImpression Productの棄却の申し立てを退けた。地方裁判所は、Lexmarkによって米国内で販売されたカートリッジの特許権は消尽し、一方で外国で販売されたカートリッジについては消尽しないと判示した。両当事者は控訴し、連邦巡回控訴裁判所はどのカートリッジについてもLexmarkの特許権は消尽しないと判示した。その後Impression Productsが米国最高裁判所に上告した。

Lexmarkはリターンプログラムカートリッジについて以下のように主張した。Lexmarkは特許による独占権の全てを放棄したわけではなく、特に特許によりカバーされる商品を他者が販売したりその商品の販売の申し出を行うことを排斥する権利を放棄したわけではない。また、Lexmarkは、リターンプログラムカートリッジをディスカウントして提供している以上、特許により保護される経済的利益を完全な形で得ているわけではない。Lexmarkはまた、米国特許法は地理的に制限されており、外国には及ばないので、Lexmarkは米国特許の下では外国での販売の経済的利益を全く受けておらず、したがってカートリッジに係るLexmarkの特許権は消尽していない、と主張した。

米国最高裁判所はLexmarkに同意せず、連邦巡回控訴裁判所の判決を破棄した。米国最高裁判所は、特許権者の「商品を売るという決定は、[特許権者が]課されるべきと主張するいかなる制限や販売の場所によらず、その物についての全ての特許権を消尽させる」と示し、長きにわたる判例であったMallinkrodtおよびJazz Photoを廃した。米国最高裁判所は動産の譲渡の制限についてのコモンローの趣旨に鑑み、特許権者は特許独占の行使を通じて、商品の最初の販売の後のさらなる譲渡を制限することはできないと判示した。特許権者が商品を売ってしまうと、その商品は、所有権に伴う権利および利益の全て(再販売権を含む)と共に、購入者の私的、個人的な財産となる。米国最高裁判所は、「購入者は物を購入するのであって特許権を購入するわけではなく、[また]その物を与えて「その物およびその物が体現する発明」について適切と判断する対価を受け取るという特許権者の決定によって消尽がトリガされる」ので、販売が米国内で生じたか外国で生じたかによらずにこれは正しい、と結論付けた。

この判決のポイント

この判決において、米国最高裁判所は、特許の消尽および販売された商品に対する販売後の制限に関する20年前の二つの連邦巡回控訴裁判所の判決を覆した。米国最高裁判所はこれら二つの下級審の判決を廃し、特許権者の「商品を売るという決定は、[特許権者が]課されるべきと主張するいかなる制限や販売の場所によらず、その物についての全ての特許権を消尽させる」と判示した。このため、今後米国は「国際消尽」と称されるシステムに従うこととなるであろう。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 西守有人

弁理士 西守有人
大塚国際特許事務所 弁理士。平成19年弁理士登録。米国スタンフォード大学物理学科博士課程修了。臨界温度近傍におけるヘリウム超流動の性質の研究により博士号(Ph. D. in Physics)取得。企業の知的財産部及び特許事務所の双方において、出願実務から特許戦略立案まで幅広い経験を積んだ後、大塚国際特許事務所に参加。外国人クライアントとの電話を難なくこなすため、事務方にも頼られている。情報処理、通信、ソフトウェア、半導体、回路分野の特許、訴訟を得意とする。

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