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TC Heartland LLC
    対 Kraft Foods Group Brands LLC 事件

No. 16-341 (May 22, 2017)

−米国企業を被告とする特許訴訟における裁判地の選択を制限した最高裁判決−

TC Heartland LLC 対 Kraft Foods Group Brands LLC事件において、米国最高裁は、米国企業に対する特許侵害訴訟における適切な裁判地、すなわちどの裁判所において特許権者が米国企業を特許侵害で訴えられるか、という問題を検討した。最高裁は、企業である被告の、特許事件での裁判地に関する特別な法における「居住(reside)」の定義は、他の民事事件に関する一般法の定義と同じであり、「居住」の定義は米国企業が設立された(incorporated)州に限定されると判示した。

Kraft Foods Group Brands LLC("Kraft")は、風味混合飲料の製造に関するKraft特許の侵害を主張して、TC Heartland LLC("TC Heartland")をデラウェア州米国連邦地裁に訴えた。Kraftはデラウェア州法の下で組織され、主要な事業所をインディアナ州に置いていた一方、TC Heartlandはインディアナ州法の下で組織され、本社をインディアナ州に有していた。TC Heartlandはデラウェア州でのビジネスを行うように登録されておらず、インディアナ州には意味のある地方拠点を有していなかったが、被疑侵害品をデラウェア州に搬入していた。

TC Heartlandは、裁判地としてデラウェア州は適切でないと主張し、本事件を却下するか又はインディアナ州南部地区に移送するよう申し立てた。特許事件における適切な裁判地に関する規定である28 USC 1400条(b)は、「特許侵害についてのあらゆる民事訴訟は、被告が居住するか、又は被告が侵害行為を行いかつ正規の確立した事業地を有する、裁判管轄区で起こすことができる」と規定している。TC Heartlandは、1400条(b)の第1条項に従いデラウェア州には「居住」していないと主張し、また1400条(b)の第2条項に従いデラウェア州には「正規の確立した事業地」を有さないと主張した。デラウェア州連邦地裁は、「巡回裁判区の先例」に従って、TC Heartlandの申立を却下した。

するとTC Heartlandは、申立を認めさせる命令を地裁に出すように、CAFCに申し立てた。CAFCは申立を却下した。CAFCは、米国における一般的な裁判地を定める規定である28 USC 1391条(c)に対する改正により、実質的に1400条(b)も改正され、1400条(b)における「居住」の定義は1391条(c)に規定される広い定義になったと結論付けた。この広い定義は、企業が「設立され、事業を行うライセンスを与えられ、又は事業を行っている任意の裁判管轄区」で訴えられることを可能とし、「裁判地の目的においてこのような裁判管轄区は企業の居住地とみなされる」。この論理を適用して、CAFCは、デラウェア州地区はTC Heartlandに対する人的管轄権を行使できるため、TC Heartlandは1391条(c)の下でデラウェア州に居住しており、したがって1400条(b)の下でもそうである、と論じた。

するとTC Heartlandは、最高裁に本事件の再審理を申し立て、この再審理は認められた。最高裁は、米国における裁判地についての法規の歴史を振り返ることから分析を始めた。裁判所の特許訴訟における適切な裁判地の決定法に分裂があったことから、1897年に議会は特許特有の裁判地に関する法規を制定した。この法規は、侵害訴訟が、被告が「住む者(inhabitant)」である地区(これは企業にとっては設立された州のみを含む)又は、被告が「正規の確立した事業地」を維持しかつ侵害行為を行った地区、において提起されることを許容するものであった。1948年に、特許裁判地法規は28 USC 1400条(b)として再度成文化され、現在でも有効である。1897年の法規とは異なり、1400条(b)は用語として「住む (inhabits)」の代わりに「居住する(resides)」を使っている。議会は同時に一般的な裁判地法規である28 USC 1391条を制定した。上述のとおり、1391条は企業である被告についての居住地(residence)を、設立され、事業を行うライセンスを与えられ、又は事業を行っている任意の裁判管轄区を含むものとして定めている。

これら2つの裁判地法規が制定された後、裁判所は、特許裁判地法規(1400条(b))で用いられている「居住する」が、一般裁判地法規(1391(c))で与えられた「居住」の定義を引用するかどうかについて、異なった結論を導いてきた。影響力のあるFourco Glass Co. 対 Transmirra Products Corp事件(353 U.S. 222 (1957))において、米国最高裁は、1391条(c)が1400条(b)にいう居住を規定しているという下級裁判所の解釈を斥け、1400条(b)は「特許侵害訴訟における裁判地を管理する唯一のかつ独占的な規定であり、……1391条(c)によって補足されるものではない」と判示した。最高裁はまた、1400条(b)における「居住する(resides)」と、1948年以前の特許裁判地規定における「居住する(inhabit[s])」は、全ての意図及び目的について同義であると判断した。

1988年に、議会は「本章における裁判地の目的で、企業である被告は、行為が行われた時に人的管轄権に服する任意の裁判管轄区に居住するものとみなされる」と規定するように1391条(c)を改正した。CAFCは、VE Holding Corp. 対 Johnson Gas Appliance Co. 事件(917 F.2d 1574 (1991))において、1391条(c)に対する改正に言及し、1391条にある新しい言い回しは、「引用のための正確かつ伝統的な言い回し」であって、「したがって1400条(b)を含む同じ「章」にある全ての他の裁判地法規について定義を確立するものである」と判断した。

2011年に、議会はさらに1391条を改正した(一方1400条(b)はそのままにした)。新しい1391条(a)は、「法によって別に規定される場合を除き」「本節は米国地方裁判所に提起された全ての民事訴訟についての裁判地を管理する」と規定した。新しい1391条(c)(2)は、「全ての裁判地の目的において」、ある存在は、「企業である(incorporated)かどうかにかかわらず、問題となる民事訴訟に関して、被告である場合、裁判所の人的管轄権に服する任意の裁判管轄区に居住するものとみなされる」と規定した。

最高裁は、以上の裁判地法規の歴史に関する広範な検討に続いて、Fourco事件において最高裁が「決定的にかつ明確に」1400条(b)にいう「居住」は国内企業の関係では設立した州を意味すると判示したことに言及した。2011年に改正された1391条は、Fourco判決で示された1400条(b)の解釈を変えようとする議会の意図を示すものではない。改正された1391条は「全ての裁判地の目的において」という文句を含んでいるものの、Fourco事件で争われた際の1391条も、「裁判地の目的で」という類似の文句を含んでおり、裁判所はこれら2つの文句の間に重要な違いを見出さなかった。Kraftは、「全ての裁判地の目的」という文句はまさに全ての裁判地の目的を意味するのであって、「特許裁判地以外の全ての裁判地の目的」を意味するのではないと主張したが、裁判所はFourco事件において原告が同じ主張をしたが説得的ではなかったことに言及した。さらに、「全て」という語を「裁判地の目的」に追加したことは、議会によるFourco判決を再考する意図を示すものではなかった。

裁判所はさらに、改正された1391条は、「法によって別に規定される場合」には1391条が適用されないことを明示する「除外条項」を有していることに言及した。Fourco事件の際の1391条はこのような除外条項を有しておらず、それにもかかわらずFourco判決において裁判所は1400条(b)の「居住する」が根源的な意味を有しており1391条(c)には影響されないと判示した。この「除外条項」を含めることにより、議会は「裁判所が以前に法規に暗示されていると判断した制限を明示した」。Kraftは、この「除外条項」が1391条(c)の定義規定には適用されないと主張することを試みたが、裁判所は、1391条(a)の文言は「除外条項」が1391条全体に適用されることを明確にしていることを指摘して、同意しなかった。

最後に、裁判所は、2011年の議会が、1990年からのCAFCのVE Holding判決を追認する意図を示さなかったことを示し、1391条の改正が「判決の根拠を損なわせる」と判断した。CAFCはVE Holding事件において、1391条(c)の「裁判地の目的で」との文句を「本章における裁判地の目的で」に置き換えた1988年の議会の決定に、「ほぼ唯一」依存していた。2011年の改正において、議会は「本章における」を削除し、1391条(c)の言い回しを法規の最初の版とほぼ同一になるように変更した。したがって、裁判所は1400条(b)の「居住」が、Fourco事件で判示されたように、設立された州のみを指すと判断した。

本判決は、特許訴訟の原告は、被告が被疑侵害品を販売した州で簡単に訴訟を提起できないことを判事し、原告による「フォーラムショッピング」を制限することになるだろう。米国企業は、設立された州の、又は侵害行為を行いかつ正規の確立した事業地を有している地区においてのみ、特許侵害で訴えられうる。

この判決のポイント

この判決において、米国最高裁は、米国企業に対する特許侵害訴訟における適切な裁判地、すなわちどの裁判所において特許権者が米国企業を特許侵害で訴えられるか、という問題を検討した。最高裁は、企業である被告の、特許事件での裁判地に関する特別な法における「居住(reside)」の定義は、他の民事事件に関する一般法における定義と同じであり、「居住」の定義は米国企業が設立された(incorporated)州に限定されると判示した。この判決により、米国企業を被告とする特許訴訟の裁判地は、被告企業の設立地、又は被告が侵害行為を行いかつ正規の確立した事業地を有する地に制限されることが明確となった。原告に有利な特定の裁判所への提訴が困難になる可能性がある。

報告者紹介

Michael Sandonato

Michael Sandonato is a partner resident in the New York office of Fitzpatrick, Cella, Harper & Scinto, where he chairs the firm’s Electronic and Computer Technologies practice group and sits on the Management Committee. An experienced trial lawyer, he has served as lead counsel in patent litigations in district courts across the country, the U.S. International Trade Commission (ITC) and arbitrations. Michael has been praised by clients as a "terrific" lawyer (Chambers 2016) and a "winner" who “puts his clients’ needs first” (Best Lawyers, 2015). He has lectured on patent law at conferences around the globe, and has spoken on panels along-side the Chief Judge of the Court of Appeals for the Federal Circuit and the Chief Administrative Law Judge of the ITC, as well as Judges from the Intellectual Property High Court in Japan and the IPR Tribunal of the Supreme People’s Court of China.

Brian Klock

Brian Klock is resident in Fitzpatrick’s Washington, D.C. office, where he serves as the Administrative Partner. He also chairs the firm’s Licensing & Transactions practice group and co-chairs the firm’s Patent Prosecution practice group. With extensive experience in all aspects of patent law, Brian has often defended clients in district court litigation involving patents alleged to have industry-wide impact, has negotiated numerous license agreements, and has more than 25 years of experience in patent prosecution, including USPTO contested proceedings. He has been recognized as a leading individual by IAM Patent 1000 for many consecutive years, and he was the recipient of a Burton Award for Legal Writing in 2011.

弁理士 大塚康弘

弁理士 大塚康弘
大塚国際特許事務所 パートナー副所長。平成11年弁理士登録。東京大学大学院・工学系研究科・電子情報工学専攻・博士課程修了(工学博士)。大塚特許事務所における実務チームのリーダーとして、知財高裁大合議事件を含む数々の訴訟においてクライアントを勝利に導いてきた。特許がわかる本(オーム社)等著書多数。画像処理、符号化技術、通信分野の特許、訴訟を得意とする。

弁理士 木下智文

弁理士 木下智文
大塚国際特許事務所 弁理士。平成25年弁理士登録。東京大学大学院・薬学系研究科・分子薬学専攻・修士課程修了。薬剤師。日本弁理士会国際活動センター米州部副部長、同部研究成果報告セミナー講師。大塚国際特許事務所のシステムアドミニストレータとしても活躍する。医薬、化学、ネットワーク、画像処理の特許、訴訟を得意とする。近年マラソン大会に出場することを趣味としているが、体型のためかクライアントに自慢すると賞賛されずに心配される。

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