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月刊The Lawyers 2017年1月号(第205回)

1. Synopsys, Inc. 対 Mentor Graphics Corp. 事件

No. 2015-1599 (October 17, 2016)

- 特許適格性に関してアリス事件の基準を適用した判決 -

シノプシス(Synopsys, Inc.)は、特許権侵害を主張しメンター(Mentor Graphics Corporation)をカリフォルニア州北部地区地方裁判所へ提訴した。両当事者は、争点の特許が米国特許法第101条の下で無効であるとのメンターの抗弁に関して略式判決を求める申し立てを提出した。

地方裁判所はメンターの申し立てを認め、Alice Corp.対CLS Bank International 事件での基準の下で、訴訟において権利行使されたクレーム(以下、行使クレーム)のすべてを無効とした。

争点の特許は、論理回路の機能記述を論理回路のハードウェアコンポーネント記述に変換する方法に関する。この方法は、ハードウェア記述言語(HDL)の機能記述を、HDLコードに記載された機能を実行するハードウェアのための対応回路図に変換するために、フロー制御文と、明細書に見られる表形式の「割り当て条件」とを用いることを含む。

地方裁判所は、メンターによる申し立てを審理する際に、最高裁判所のアリス判決における特許適格性のための2段階テストを適用した。第一に、地方裁判所は、クレームが「精神的プロセス…『特許できない抽象的アイデアのサブカテゴリ』」を対象とすると認定した。

第二に、地方裁判所は、権利行使されたクレームが発明的コンセプトを含まないと認定した。さらに、地方裁判所は、「人間の創意工夫の基本的な構成単位」を先取りすることになるタイプの抽象的アイデアが特許クレームに記載されていることを認定した。シノプシスは、メンターによる申し立てを地方裁判所が許可したことに対して控訴した。

控訴審において、シノプシスは、地方裁判所がクレームを精神的プロセスと特徴づけたことに反論し、クレームに係る方法が複雑であるので、この方法を当業者が精神的にまたは紙と鉛筆で実行することはありえないと主張、クレームした方法は実際にはコンピュータで実行されるだろうと強く主張した。シノプシスは、この主張を、明細書に開示された複雑なソフトウェアコードを引用することによって裏付けた。

しかし、CAFCはこの主張を却下し、代表的であるという点で見解が一致するクレーム1は、単に数個の「簡単な」工程を実行することを含むだけであり、発明者はこれらの工程を精神的に実行しうることを認めていたと述べた。

CAFCは、コンピュータが使用される必要があるという要件がクレームの文言に含まれておらず、設計者が変換を精神的にまたは紙と鉛筆で実行することまで包含するほどクレームの文言が広いと認定した。

CAFCは、第101条の審理は、クレームに係る発明の使用意図ではなくクレームの文言に依拠するため、ソフトウェアコードが明細書に組み込まれたとしても、抽象的な方法クレームが、その方法をコンピュータで実施する特許適格性を有するクレームに変換されることはないことを強調した。

さらに、CAFCは、論理回路の機能記述を論理回路のハードウェアコンポーネント記述を変換しようとする回路設計者がクレームに係る方法を使用しなければならないかどうかは、第101条の審理において適切な論点ではないと説明した。

特許適格性を判定するための重要な論点は、回路設計者がコンピュータを用いずに本方法を実行可能であるか否かであるとCAFCは述べたのである。特許の方法がコンピュータなしに実行可能であることに合議体が同意したので、CAFCは、特許が抽象的アイデアを対象としているという地方裁判所の認定を支持した。

先取りの争点に関して、地方裁判所は、行使クレームが「人間の創意工夫の構成単位」を先取りする特定の精神的プロセスを対象とすると判断した。シノプシスは、クレームが論理回路のハードウェアコンポーネント記述への論理回路の機能記述の「すべての変換」を先取りするわけではないので、先取りの争点は生じないと主張した。

CAFCは、この主張を却下し、先取りしないことが特許適格性を立証することにはならないと述べた。CAFCは、クレームが特許不適格な主題を対象としているときは、先取りに関する争点は意味がないと述べた。

アリス判決のテストの第二段階の審理において、CAFCは、発明的コンセプトの審理と新規性及び自明性の審理とを区別した。シノプシスは、第102条の下での同一性も第103条の下での自明性も示されていないので、権利行使されたクレームが発明的コンセプトを包含すると主張した。

CAFCは、発明的コンセプトの審理では、抽象的アイデアを特許可能な発明に前進させるものが特許クレームに存在するかが検討されるため、新規性及び自明性の論点とは異なると説明、また、特許クレームが第102条及び第103条の下で新規であり非自明であるとしても、第101条の下での特許適格な主題を構成することにはならないとも述べた。

ここで、CAFCは、クレーム要件に追加されたものには、権利行使されたクレームをクレームに係る抽象的アイデアを超えさせるものがないと認定し、権利行使されたクレームのすべてが抽象的な精神的プロセスを対象とし、発明的コンセプトを含まないため、米国特許法第101条の下で無効であるとした地方裁判所の略式判決を支持した。

この判決のポイント

この判決は、発明の詳細な説明が明細書に記載されているだけでクレームに記載されていない場合は、抽象的アイデアを対象とするクレームの特許適格性を持つ発明への変換には、不十分であることを判示した。この判決は、コンピュータでの実施を意図した方法クレームをドラフトする際は、人間が精神的にまたは紙と鉛筆で実行することをカバーするほどの広さをクレームが持たないよう、十分な詳細をクレームに含める必要性を示唆した。更に判決は、特許不適格性の異議に打ち勝つために特許権者がその発明の新規性または自明性に依存しても不十分であることを判示した。

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