月刊The Lawyers 2016年12月号(第204回)
2. Cox Communications, Inc. 対 Sprint Communication Company LP 事件
No. 2016-1013 (Fed. Cir. September 23, 2016)
- Nautilus判決に基づいて§112第2パラグラフの明確性を判断した判決 -
コックス・コミュニケーションズ(Cox Communications)事件において、CAFCは、35U.S.C§112第2パラグラフの下で対象特許が不明確であるとして特許が無効になるか否かの問題を扱った。
デラウェア州連邦地方裁判所は、クレーム文言「処理システム」が対象特許を不明確にしているという理由で、対象特許が無効であると判断したが、CAFCはこの判断を覆し、「処理システム」はクレームを不明確にしないと判断した。
対象特許は、ボイス・オーバー・IP技術の発展に関するものである。ボイス・オーバー・IPは、電話の呼を、従来の電話回線の代わりにインターネットを介して送信することを可能にするものである。
対象特許は、従来の電話回線とデータネットワーク(例えばインターネット)との間のハンドオフを論じていて、「処理システム」の使用を説明しており、これは、データネットワークにおいて音声呼が取るべき経路を選択するために、従来の電話ネットワークから信号を受信し、その音声呼に関する情報を処理するものである。
スプリント・コミュニケーション・カンパニー(Sprint Communication Company LP)及びその系列会社(以下、まとめて「スプリント」)は、カンザス州連邦地方裁判所においてコックス・コミュニケーションズ(Cox Communications, Inc.)及びコックス・コミュニケーションズ・カンザス(Cox Communications Kansas, LLC)を相手に訴訟提起し、係争中の6件の特許を含む12件の特許が侵害されていると主張した。
コックス・コミュニケーションズ、コックス・コミュニケーションズ・カンザス、及びその30の系列会社(以下、まとめて「コックス」)は、スプリントの12件の特許が無効かつ被侵害であるという確認判決を求めて、デラウェア州連邦地方裁判所に訴状を提出した。
コックスは、クレーム文言「処理システム」が§112第2パラグラフの下で対象特許を不明確にしているという理由で、部分的略式判決を求めた。地方裁判所は、コックスの申立てを認め、クレームが不明確であると判断した。
地方裁判所によれば、クレーム中の「処理システム」は、当業者がクレーム発明の範囲を理解できないため、Nautilus, Inc. v. Biosig Instruments, Inc., 134 S. Ct. 2120 (2014)の基準を満たさない態様で機能的に記載されている。
控訴審で、CAFCは、文言「処理システム」は§112第2パラグラフの下で対象特許を不明確にしてはいないと結論付けた。最初に、CAFCは、「処理システム」がミーンズ・プラス・ファンクションの文言ではないと当事者達が合意していたと述べ、CAFCによるレビューを、「処理システム」が§112第2パラグラフの下で対象特許を不明確にするか否かに制限すると述べた。
また、CAFCは、§112及びNautilus判決で言及されたテストの下では、「特許を説明する明細書と審査経過とを踏まえて読んだクレームが、当業者に対して合理的な確度で発明の範囲を通知できない場合に、特許は不明確であるとして無効になる」と述べた。
CAFCは、クレーム文言「処理システム」を分析し、この文言はクレームの範囲を規定する上で意味のある役割を担ってはいないと判断し、対象クレームは全て方法クレームであり、新規性はこれらの方法のステップに見られるものであり、これを実行する機械に見られるものではないと述べた。
CAFCは、クレームの普通の文言がこの争点を証明しており、仮に対象特許のクレームを書き換えて文言「処理システム」を削除したとしても、その意味には認識可能な変化が生じないと述べた。
CAFCはまた、「処理システム」が「コンピュータ」の文言に置換された場合、同様の結論が導かれるであろうと述べた。この点に関して、CAFCは、「処理システム」を「コンピュータ」に置換してもクレームの範囲が変化しないということについて口頭弁論時に両当事者が合意していたと述べた。
CAFCは、「処理システム」がクレームの範囲について意味のある変化を生じさせないのであれば、クレームが§112第2パラグラフの下での通知機能を発揮することに関してこの文言が妨げになると考えることは困難であると述べた。
対象クレームが機能的な言葉で文言を記述しているだけであるから「処理システム」が不明確であるというコックスの主張について、CAFCは同意しなかった。CAFCは、クレームが機能的な言葉を含むと言うだけの理由では、クレームがそれ自体として不明確になることはないと判断したのである。
CAFCは更に、機能的な言葉が「処理システム」の担うべき動作を特定することを助けているので、ここでは機能的な言葉が明確性を促進していると説明した。
CAFCはまた、対象特許における「処理システム」の動作を記述する特定の機能的限定は、Nautilus判決の下での十分な明確性を提供することについて失敗してはいないと述べた。
CAFCは、明細書が「処理システム」の実施形態を開示していると判断し、更に「処理システム」は、明細書及び審査経過を踏まえて読んだクレームが当業者に対して合理的な確度で発明の範囲を通知することを、妨げてはいないと結論付けた。
この判決は、Nautilus判決の基準の下でクレーム文言が35U.S.C§112第2パラグラフのもとで、クレームが不明確ではないとのCAFCの判断例を提供する。
CAFCは、不明確性の分析を、争点のクレーム文言がクレームの新規性に関連するか否かを考慮することによって行った。CAFCが将来の事件においてこの分析アプローチに従うか否か、そして争点のクレーム文言がクレームの残りの部分に与える影響を考慮するか否かを確かめることは、興味深いことであろう。
この判決では、§112第2パラグラフの明確性に関して、Nautilus判決に基づき、「特許を説明する明細書と審査経過とを踏まえて読んだクレームが、当業者に対して合理的な確度で発明の範囲を理解させることができない場合に、特許は不明確であるとして無効になる」ことが示された。また、発明の範囲に実質的な影響を与えない文言は、この妨げにはならないと判断された。この判決に従えば、発明の範囲に実質的な影響を与えない文言は明確性の判断に影響を与えないと考えられる。