月刊The Lawyers 2016年11月号(第203回)
2. ScriptPro LLC, ScriptPro USA, Inc. 対 Innovation Associates, Inc. 事件
No. 2015-1565 (Fed. Cir. August 15, 2016)
- 明細書記載要件の判断基準を示した判決 -
スクリプトプロ(ScriptPro)事件においてCAFCは、カンザス地区米国地方裁判所の判決を取り消し、特許無効の申立をされた特許が特許法第112条第1項に基づく記載要件を満たしているか否かの争点について事件を差し戻した。
2006年、スクリプトプロ(ScriptPro LLCおよびScriptPro USA, Inc.)は、イノベーション(Innovation Associates, Inc.)に対して特許権侵害を理由に提訴した。
スクリプトプロの特許は、薬品が投薬容器内に調剤された後に投薬容器を格納する、コントロール・センターおよび自動調剤システムとともに用いる「照合装置」に関するものである。
明細書には、患者の識別情報によって投薬容器を並べ替えることが開示されていた。特許審査中に追加されたクレームには、並べ替える基準を特定せずに投薬容器を「自動的に格納する」といった、より広範な記載がされていた。
地方裁判所は最初、スクリプトプロの主張クレームは記載要件違反により無効であると認定し、イノベーションの主張を認める略式判決を下した。
2014年の控訴審においてCAFCは、地方裁判所の記載要件違反に基づく特許無効判決を破棄した。差戻し審において、イノベーションは略式判決を申立てて、主張クレームは記載要件違反により無効であると主張した。地方裁判所はイノベーションの主張を認め、再度、記載要件違反を理由にクレームは無効であると判示した。
前回の控訴審においてCAFCは、明細書が、保持ユニットに薬が入っているかどうかを判断するセンサの使用を要件とする照合装置に発明を限定しているとした地方裁判所の判断は誤りであると述べていた。
CAFCは、明細書には、発明をセンサ付き照合装置に限定させるような明らかな文言はなく、スロットセンサは照合装置のオプション機能であることが示唆されていたと説明し、センサがオプションであるという解釈をするために、センサが明細書にサポートされているものであることを要件としていない出願時クレームを引用した。
差戻し審において、イノベーションは再度、主張クレームは記載要件違反を理由として無効であることの略式判決の申立てをした。地方裁判所はイノベーションの申立てを認め、明細書は患者の氏名と容器を格納する開放スロットの利用可能性に基づいたアルゴリズムを用いたものとして照合装置を記載していると説明した。
地方裁判所は、クレームは投薬容器が格納されている方法に限定されていなかったので、クレームは明細書よりも広範であると述べ、記載要件が満たされていることを認定できた合理的な陪審員はいなかったと結論づけた。
控訴審において、スクリプトプロは、特許の1つの目的に注目することによって、地方裁判所は患者の識別情報によって投薬容器を格納する照合装置に発明が限定されると誤って結論付けたと主張した。そして、明細書は患者の識別情報によって投薬容器を並べ替え格納することに発明を限定していないので、主張クレームはそのような限定を包含しないことから過度に広範になるわけではないと主張した。
CAFCはスクリプトプロの主張を認め、明細書は患者の識別情報によって投薬容器を並べ替え格納する照合装置を用いるものに発明を限定していないと結論付け、その裏付けとして内在証拠に注目した。
明細書は発明が解決する複数の課題を記述しており、その課題の解決方法には、患者の識別情報によって並べ替え格納することが含まれるものの、それに限定されるわけではない、とCAFCは説明した。
CAFCは、並べ替えおよび格納は「患者、処方箋、あるいは他の所定の格納スキームによって」実行されうると明細書に記載されていたことには説得力があると判断したのである。
CAFCはさらに、本件特許を導いた出願の出願当初のクレームに着目した。特許法によれば、出願当初のクレームは特許の明細書の一部である。出願当初のクレームは、患者の識別情報に基づき並べ替え格納するものに限定されないので、明細書記載の裏付けとなる。実際に、原クレームは主張クレームの様に、自動調剤システムによって調剤された投薬容器を自動的に格納する照合装置について記載していた。
さらにCAFCは、明細書は患者の識別情報に基づき、並べ替え格納するスキームを採用した実施例にフォーカスしていたが、それによってそのような実施例にクレームが限定されるものではないと結論付けた。
CAFCは、明細書が他の実施例や目的を予期している場合には、特定の実施例または目的にフォーカスすることで発明は限定されないと説明した。
地方裁判所が明細書に基づきクレームを限定したことは誤りであると判断した後で、CAFCは、クレームは記載要件違反により無効とはならないと結論付けた。
この判決は、特許明細書が単純に1つの特定の実施例にフォーカスしていたからという理由で、クレームされた発明は限定されないことを明らかにした。むしろスクリプトプロ事件は、適切なクレーム範囲を判断する前に、特許明細書とその審査経過全体が考慮されるべきであることを示した。
この判決はまた、出願時に提出した出願当初のクレームは特許の明細書記載の範囲を示し、明細書がフォーカスしたものより広範なクレームのサポートを提供することを明らかにした。
この事件においてCAFCは、記載要件違反による特許無効の地裁判決を破棄し、事件を差し戻した。CAFCは、明細書が他の実施例や目的を予期している場合には、明細書の記載が特定の実施例または目的にフォーカスしていても、クレーム範囲はそれに限定されないと判示した。また、出願当初のクレームの記載自体が特許明細書の記載範囲として、サポート要件の根拠となることを明らかにした。すなわち、適切なクレーム範囲の判断において、特許明細書とその審査経過全体が考慮されるべきであることを示した。