月刊The Lawyers 2016年10月号(第202回)
3. BASCOM Global Internet Services, Inc., 対 AT&T Mobility LLC 事件
No. 2015-1763 (Fed. Cir. June 27, 2016)
- 最高裁アリス判決の2段階テストを適用して特許適格性を判断した判決 -
バスコム(BASCOM Global Internet Services, Inc.)は、インターネットのフィルタリングシステムに関する特許権侵害を主張してAT&T Mobility LLCおよびAT&T Corp.(以下、まとめて「AT&T」)を提訴した。
AT&Tは、米国特許法第101条に基づき、特許の対象が抽象的概念であることを根拠に特許無効を主張し、訴えの棄却を申し立てた。Alice Corp. Pty. Ltd.対CLS Bank Int'l事件、134 S. Ct. 2347 (2014)における最高裁判所のテストを採用して、地方裁判所はAT&Tの主張を認め、訴えを退けた。バスコムは控訴し、CAFCは地方裁判所の判断を審理した。
争点の特許は、コンピュータユーザが効果的にウェブサイトをフィルタリングする必要性を述べていた。フィルタリングソフトウェアは、インターネットが普及して間もない頃、一定の状況においてインターネットユーザが不適切なウェブサイトにアクセスすることを防ぐ必要性に個人や企業が気付いたことから生まれている。
バスコムの1997年の特許以前はいくつかのフィルタリング方法が存在したが、それらの方法には大きなデメリットがあったとバスコムは主張した。
第一の方法では、フィルタリングソフトウェアはローカルコンピュータ上に設置されたが、このソフトウェアは容易に妨害され、インストールに時間がかかり、個々のハードウェアやOSの影響を受けていた。第二の方法ではローカルサーバにフィルタが設置され、第三の方法ではISP(インターネット・サービス・プロバイダ)にフィルタが設置された。
バスコムは、1つのフィルタではサーバ上の全てのエンドユーザに対して適切とは言えないことがよくあることから、これらの方法も基準を下回るものであると述べた。
バスコムの特許は、ISPサーバにフィルタを設置するフィルタリングシステムであるが、個々のコンピュータユーザに対してカスタマイズ可能であり、他のフィルタリングシステムの利点を組み合わせて欠点を取り除いたものである。
アリス(Alice)判決の2段階のフレームワークを適用し、地方裁判所はまず、クレームは「コンテンツをフィルタリングする」という抽象的概念に関するものであり、インターネット上で提供されるコンテンツは、他の媒体を通して得られるコンテンツと実質的に異なるものではないと判断した。
第二ステップに関し、地方裁判所は、クレーム限定は周知の一般的なコンピュータのコンポーネントを述べているにすぎず、フィルタリングソフトウェアは先行技術において周知のものであったことから、発明的概念が無いと判断した。
控訴審においてCAFCは、最近の判例法に照らしてアリス判決テストを適用した。その過程でCAFCは、これまでにいくつかのソフトウェア関連特許について、アリス判決テストの両方のステップの下で特許適格性があると判断したことがあることに着目した。
第一のテストに関し、CAFCは、コンテンツをフィルタリングすることが抽象的概念であり、人の行動を体系付けるよく知られた方法であることについては、地方裁判所に同意した。
アリス判決の第二のテストの適用に関して、CAFCは、クレームが発明的概念を開示していることをバスコムが示さなかったという地方裁判所の結論を否定した。
CAFCは、個々のコンポーネントが発明的であるとは言えなくても、構成要件の整理された組み合わせとして、クレームは発明的概念を構成していると認定し、個々のエンドユーザ向けにカスタマイズ可能なフィルタリングの特徴を備えたフィルタリングツールを特定の離れた場所に設置することが発明的概念であると述べた。
CAFCは、このフィルタリング方法は、ローカルコンピュータ上のフィルタの利点とISPサーバ上のフィルタの利点を提供すると説明し、提出された記録に基づくと、このフィルタリング方法は従来技術でも汎用技術でもない、と判断した。
CAFCは、特許が、コンテンツをフィルタリングするという概念が単にインターネットに適用されただけのことをクレームしているのではなく、過去のインターネットフィルタリングシステムの特定の制約を回避する、インターネット上のコンテンツをフィルタリングするための技術ベースのソリューションをクレームしていると述べた。
従って、CAFCはAT&Tの棄却申立てを認めた地方裁判所の判決を破棄し、事件を差し戻した。
この判決は、アリス判決の枠組みに基づき特許適格性があると判断されたソフトウェア関連特許の最近の事例を示した。特許適格性の欠如に基づく特許無効の申立てをされているソフトウェア特許権者は、ソフトウェアクレームはそれが抽象的概念を特定の実用的な適用に変性させるならば特許適格性があると判断されるべきであるとしたバスコム判決およびその分析に、より頼るようになると思われる。
この判決では、アリス判決の2段階テストに基づいてソフトウェア関連特許の特許適格性が判断された。第二のテストに関して、CAFCは、個々のコンポーネントが発明的であるとは言えなくても、構成要件の整理された組み合わせとして、クレームは発明的概念を構成していると認定した。