月刊The Lawyers 2016年10月号(第202回)
2. Halo Electronics, Inc. 対 Pulse Electronics, Inc., 事件
Nos. 2013-1472, 2013-1656 (Fed. Cir. August 5, 2016)
- 故意侵害の認定に関するシーゲート判決に基づくテストの妥当性を否定し、
地裁の裁量範囲の拡大を認めた最高裁判決 -
2007年、ヘイロー(Halo Electronics, Inc.)は、パルス(Pulse Electronics, Inc.)が回路基板表面への搭載用に設計されたトランスを含む電子パッケージの販売により特許権を侵害したと主張してパルスを提訴した。
2002年、ヘイローは自社特許のライセンスを提案する2通のレターをパルスへ送付した。パルスのエンジニアの1人がヘイローの特許を無効と判断した後に、パルスは侵害被疑品の販売を続けた。
公判において、陪審員はパルスによるヘイローの特許権の侵害を認定し、パルスが故意に侵害した可能性が高いと判断した。しかしながら地方裁判所は、パルスの抗弁は客観的根拠があるとして、賠償額の増額を命じなかった。控訴審において、CAFCは地方裁判所の判決を支持した。
最高裁判所は上告を受理し、そしてIn re Seagate Techs., LLC, 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007)事件に基づいてCAFCが行った賠償額の増額認定のテストが米国特許法第284条に矛盾すると判断した。
最高裁判所は、シーゲート(Seagate)テストは過度に厳格であり、法が認める地方裁判所の裁量権を不当に阻害するものであると説明した。よって、最高裁判所はCAFCの判決を破棄し、事件を差し戻した。
差し戻審において、CAFCは賠償額の増額の問題を再検討し、最高裁判決に影響されない他の事項については先の判断を回復させた。CAFCは、最高裁判決に鑑み、現在は否定されたシーゲートテストに基づいて故意侵害なしとした地方裁判所の判断を破棄し、賠償額の増額の妥当性の判断において、故意性に関する争いのない陪審員の判断を1つの要因をして扱うべきであると述べた。
地方裁判所に指示を提供する際に、CAFCは、ある者の責任の有無は、通常、指摘された行為の時点におけるその者の知識に照らして判断されると述べた。よって、CAFCは、ヘイロー特許の侵害の時点においてパルスが何を知っていたかを地方裁判所は考慮すべきであると判断した。これらの指示と共に、CAFCは賠償額の増額の妥当性およびその金額の判断をさせるために、地方裁判所へ事件を差し戻した。
この判決は、賠償額の増額の問題に関する最高裁判決がもたらす直接の影響を示すものである。賠償額を増額させるか否かを判断することに関して新たに認められた裁量権を地方裁判所がどのように行使するかはまだ分からないが、ヘイロー事件は賠償額を増額させる判断を促すために利用される可能性があろう。
この判決では、故意侵害による賠償額の増額について下級審がシーゲート判決に基づくテストにより増額を認めなかったのに対し、最高裁判所がシーゲート判決に基づくテストの妥当性自体を否定した。真の意味は、賠償額の増額判断は地方裁判所の裁量に委ねるべきであると言う点にある。この米最高裁判決により、賠償額の増額が容易になることが予想される。