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月刊The Lawyers 2016年9月号(第201回)

1. Halo Electronics, Inc. 対 Pulse Electronics, Inc 事件

Nos. 14-1513, 14-1520 (U.S. Supreme Court June 13, 2016)

- 賠償額の増額裁定基準を作ったシーゲート判決のテストを拒絶し、
地方裁判所の裁量権を増やした最高裁判決 -

最高裁はハロ(Halo Electronics)対パルス(Pulse Electronics)事件の2つのCAFC判決の上告を受理した。第一の事件の当事者は、共に電子部品を扱うハロとパルスである。ハロは、回路基板表面に搭載されるように設計された変圧器を含む電子回路パッケージの特許権侵害でパルスを提訴した。

2002年、ハロはパルスにハロの特許権に関する2通のライセンス提案レターを送付した。パルスは自社のエンジニアの一人がハロの特許は無効であると結論付けた後、侵害被疑品の販売を継続し、2007年、ハロはパルスを提訴した。

陪審員はパルスの特許権侵害を認め、さらに故意侵害の可能性が高いと認定したが、地方裁判所は、パルスが抗弁の中で「客観的根拠があり模倣品ではない」と主張していたことから、賠償額の増額の裁定はしなかった。CAFCは地裁判決を支持した。

第二の事件の当事者である、ストライカー(Stryker Sales Corporation)とジンマー(Zimmer, Inc.)は、手術中に組織を清浄するために使用される整形外科器具に関し争っていた。

陪審員はストライカーの特許権に対するジンマーの故意侵害を認定し、ストライカーの逸失利益として7000万ドルを裁定した。地方裁判所は、ジンマーが「自社の設計チームに対し、ストライカーの特許発明をほとんどコピーするように指示していた」と認定し、賠償額に610万ドル追加し、三倍賠償として合計2億2800万ドルを裁定した。CAFCは侵害判決を支持したが、三倍賠償の裁定については判決を破棄した。

最高裁は両方の事件とシーゲート事件(In re Seagate Techs., LLC, 497 F.3d 1360 (Fed. Cir. 2007))の三倍賠償の裁定におけるCAFCのテストについて審理した。

シーゲート事件で判示されたテストによれば、第一に、特許権者は「有効特許に対する侵害を構成する可能性が客観的に高いにもかかわらず侵害行為が行われた明確で説得力ある証拠」を示さなければならない。

しかしながら、侵害被疑者が抗弁として非侵害あるいは無効性に関する実質的な問題を提示してきた場合、客観的無謀さ(objective recklessness)は認定されない。

第二に、特許権者は侵害リスクを侵害被疑者が知っていた、あるいは知っていたことが明らかであることの明確かつ説得力ある証拠を示さなければならない。

最高裁はシーゲート判決が「裁判所は賠償額を認定または評価額の三倍まで増額することができる」と規定した特許法第284条に矛盾していると判断したが、この条文は地方裁判所に対し明確な限定もしくは条件を設けてはいないと理由付けた。

最高裁は、シーゲート判決におけるCAFCのテストは過度に厳格で、地方裁判所に制定法上の裁量権を与えることを許さないほど判断の自由を阻害していると、その理由を述べた。特に、シーゲート判決における客観的無謀さの証明要件は、最も責められるべき特許権侵害者すら増額された賠償額負担から庇護してしまう可能性がある。

Octane Fitness, LLC対Icon Health & Fitness, Inc.事件, 134 S. Ct. 1749 (2014)における最近の判決に依拠して、最高裁は、特許権侵害者の主観的侵害、意図的または既に知っていることは、侵害が客観的無謀さによるものであるか否かに関わらず賠償額の増額の正当な理由となりうると述べた。

最高裁は、故意侵害者が抗弁に基づく行為をしていない、または侵害時点で抗弁に気付いている場合に、単純に「合理的抗弁」をすることによって賠償額の増額を逃れることを可能にすべきではない、との見解を示した。

最高裁は、地方裁判所が悪質行為を条件として増額された賠償額を裁定する必要はないが、賠償金を科すか否か、および賠償額を決める際に個々のケースの特別な状況を引き続き考慮すべきであると述べた。

シーゲート判決によれば明確かつ説得力ある証拠により客観的無謀さを立証することが必要とされるため、裁判所がシーゲート判決を支持することは第284条とさらに矛盾していると判断した。第284条は特定の立証義務を課しておらず、ましてそのような高い基準を設定していないと述べた。最高裁は、議会が特許法第273条(b)の異なるセクションにおいて高度な立証義務を課しているので、その様な義務は第284条には適用されないと推定されると述べたのである。

最高裁はさらに、特許権侵害訴訟は一般的に、証拠の優越の基準によって執り行われ、賠償額の増額もその例外ではないとの見解を示した。

最高裁はCAFCによる賠償額の増額裁定の審理における3パート基準も却下した。シーゲート判決では、CAFCは第1ステップで客観的無謀さを最初から審理し、第2ステップにおいて実質的証拠の主観的知識について審理し、裁量権を乱用して賠償額を増額するか否かの最終決定をした。

最高裁はOctane Fitness判決を再び引用して複数パートからなる審理基準を拒絶し、賠償額の増額は裁量権の乱用から検討されるべきだと判断した。

被告は、企業は特許権の抵触の可能性を避けようと梶を切るため、地方裁判所に賠償額を増額する裁量権を増やすのを認めれば、イノベーションは阻害されると主張した。被告はさらに、特許権者が訴訟への脅威だけに基づいてより高額なライセンス料を要求するようになる問題点を挙げた。

最高裁はこれらの主張を拒絶し、賠償額の増額はありふれた侵害事件において裁定されるべきではないと述べた。最高裁は、政策的課題は284条の平易な文言によるうわべ上のテストを課することを正当化するものではない、と判断した。

この判決のポイント

最高裁はシーゲート判決における賠償額の増額に関するテストを否定し、CAFCの両判決を破棄して事件を最高裁の見解に即する手続へと差し戻した。
この最高裁判決は、賠償額の増額基準をシーゲート判決のテストから、地方裁判所の裁量権を増やす基準へとシフトさせた。この判決により、地方裁判所における賠償額の増額の認定が増えることが予想されるが、地方裁判所がどのように第284条に裁量権を適用するかは不明である。

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