月刊The Lawyers 2016年7月号(第200回)
3. TC Heartland LLC 事件
No. 2016-105 (Fed. Cir. April 29, 2016)
- 特許事件の裁判地の判断基準を示した判決 -
ハートランド(TC Heartland LLC)は、インディアナ州で設立され、同州に本社を置く会社である。クラフト(Kraft Foods)は、デラウェア州で設立され、主たる事業所をイリノイ州に有する。
クラフトは、ハートランドの液体水エンハンサー製品(被疑侵害製品)は、クラフトの3件の特許のクレームを侵害すると主張し、米国デラウェア州連邦地方裁判所に対してハートランドによる特許権侵害を主張して訴えを提起した。
ハートランドは、人的管轄権の欠如を理由とするクラフトの訴えの却下と、訴訟のインディアナ州南部地区連邦地方裁判所への移送を選択的に求めた。地裁はこれを認めず、ハートランドの申立を却下した。
その後、ハートランドは、CAFCに対し、地方裁判所への職務執行令状(writ of mandamus)の発行を求めた。米国の法制度において、職務執行令状とは、下級裁判所が法に定められた責務を果たすように命じる、上級裁判所の下級裁判所に対する命令である。
職務執行令状は、例外措置としてのみ用いられる特別な救済措置(extraordinary remedy)である。申立においてハートランドは、事件の却下または移送を地方裁判所に命じることをCAFCに求めた。
ハートランドはCAFCに対し、(1)ハートランドはデラウェア州に「居住」していないため、デラウェア州地方裁判所は適切な裁判地ではなく、また、(2)デラウェア州地方裁判所は、ハートランドに対する具体的な人的管轄権を有さないため、ハートランドは職務執行令状を取得する権利を有すると主張した。
ハートランドの主張を検討する前に、CAFCはまず、特許事件に関する裁判地について簡潔な基準を示した。CAFCは、一般に民事訴訟に関しては、28USC§1391(c)の規定により、法人は「居住するとみなされる」いかなる裁判地においても訴えられることができ、「居住するとみなされる」とは、「(法人が)裁判所の人的管轄権の対象となる任意の裁判管轄区」を意味することを判示した。
一方、特許に関する事件の裁判地は、28USC§1400(b)に準拠する。具体的には、(1)「被告が居住する裁判管轄区」または(2)「被告が侵害行為を行い、規則的で確立した事業所を有する場所」は、裁判地は適切である。§1400は「居住」を定義していないが、VE Holding Corp. v. Johnson Gas Appliance Co., 917 F.2d 1574 (Fed. Cir. 1990)において、CAFCは、議会は1988年に§1391における法人居住地の定義が特許事件に拡大されるように、裁判地の法令を改正したと判断した。
裁判地について、CAFCは、2011年に裁判地の法令が改正された際に、議会はVE Holding Corp事件判決を無効にしたという、ハートランドの主張を退けた。代わりに、CAFCは、ハートランドは、議会が2011年の改正においてVE Holding事件判決を無効にすることを意図していたという意見を裏付ける証拠を提示していないと判断した。
CAFCは、議会報告書において、VE Holding事件判決が通用している法であることが繰り返し認識されていると観察した。また、CAFCは、2011年の改正は§1391(c)における法人居住地の定義の適用を拡大しているように捉えられると判示した。
ハートランドに対する具体的な人的管轄権に関して、CAFCは、デラウェア州地方裁判所は、ハートランドがデラウェア州において顧客に実際に販売した製品に関してのみ人的管轄権を有するという、ハートランドの主張を退けた。
第一に、ハートランドの主張によれば、クラフトは、ハートランドが製品を販売した各州において別々にハートランドを訴えるか、若しくはハートランドが設立された州においてのみハートランドを訴えることが必要となる。この点について、CAFCは、クラフトが1つの裁判地のみにおいて管轄の対象である場合、裁判地の法令は無用であり、クラフトに、各州において重複する訴えを提起させるように法を解釈する理由がないと判断した。
第二に、確立した流通経路を介して州内へ被疑侵害製品を意図的に出荷する場合に、居住者でない被告はその州において人的管轄権の対象となることは、ルールとして確立していた。ここで、ハートランドは、デラウェア州の外に本社を置く「2つの国民会計(national account)」を有する契約の下で、被疑侵害製品をデラウェア州内へ出荷したと認めた。
そこで、CAFCは、ハートランドの管轄に関する主張は、長年に亘る先例に鑑み排除されると結論付けた。
CAFCがハートランドの職務執行令状の請求を却下したことは、予期せぬ結論ではなかった。しかし、特許事件の裁判地の適切な基準をめぐっては多くの議論がある。
この判決は、特許事件においても§1391に基づき裁判地を判断するというVE Holding Corp事件判決の効力は現在も有効であることを確認した。また、この判決は、現時点のCAFCは、裁判地の基準を再検討するつもりはなく、この問題については議会の行動が必要となることを示唆している。