月刊The Lawyers 2016年7月号(第200回)
2. Robert Mankes 対 Vivid Seats Ltd. 事件
Nos. 2015-1500, 2015-1501 (April 22, 2016)
- 判例法の変更の効力が係属中の事件に及ぶことを判示した事件 -
2013年10月に、マンクス氏(Robert Mankes)は、米国特許第6,477,503号(以下、503特許)を侵害するとしてVivid Seats Ltd.及びFandango, LLC(以下、まとめて被告)に対しノースキャロライナ州東地区で訴えを提起した。
マンクスの503特許はチケット予約システムの管理方法を権利範囲とするが、マンクスは、映画、スポーツイベント及びコンサートのチケットを予約、購入及び販売するためのインターネットベース予約システムを動作させることによって、被告は503特許を侵害していると主張した。
マンクスは、被告の予約システムが特許方法クレームの一部のステップのみを実行し、被告のシステムの顧客が残りのステップを実行することを認めた。それにもかかわらず、マンクスは、「分割侵害」と呼ばれる理論の下で被告が責任を負うと主張した。
2015年上旬に、地方裁判所は、マンクスの主張が分割侵害の法的要件を満たさないと認定した上で、被告に有利な判決を下している。その後、マンクスは地方裁判所の判決についてCAFCに控訴した。この控訴の主な争点は、地方裁判所の判決の後に出されたCAFCの判決において分割侵害の法的要件が変更されたことの影響についてだった。
一般に、米国特許法第271条(a)の下で方法クレームの直接侵害の責めを負うためには、被告が方法の各ステップを実施していなければならない。
被疑侵害者は、方法クレームの一部のステップのみを実行するだけならば、間接侵害の責任を負うかもしれないが、直接侵害の責任を問われることは原則としてありえない。この規定の例外が分割侵害である。
分割侵害の理論の下では、被疑侵害者は、別の当事者が被疑侵害者の指示に従いステップを実施する場合に、直接侵害の責任を負いうる。この別の当事者が被疑侵害者と同一視できる者であることが示されれば、その者により実施される工程は被疑侵害者に帰する。
Limelight Networks, Inc.対Akamai Technologies, Inc.事件(134 S. Ct. 2111〈2014年〉。以下、アカマイ事件)において、最高裁判所は、米国特許法第271条(b)の下での誘引侵害は、1人の当事者が方法クレームのすべてのステップを実施する場合にのみ認定されうると判示した。
第271条(a)の下での分割侵害は第271条(b)の下での誘引侵害に類似するが、最高裁判所の判決は誘引侵害のみに適用された。アカマイ事件での最高裁判所の判決の後に、CAFCは、最高裁判決に鑑みて分割侵害の基準に取り組んだ。特に、CAFC大法廷は、分割侵害を認定するための基準を改定した。
CAFCは、被疑侵害者と同一視できる者により実施されるステップに加えて、「他者による方法ステップの実行が単一アクターに帰することを保証する他の事実的シナリオが起こりうる」と説明し、「特定の事実の文脈での」関係、例えば被疑侵害者が「特許方法のステップの実施を条件に活動への参加または利益の受領をすることとしており、当該実施の手法または時期を確立しているか」を評価するように地方裁判所に命じた。
この事件の控訴審における主な争点は、アカマイ事件の最高裁判決に基づいて地方裁判所が被告を支持する判決を出したが、それが分割侵害の法的基準を改定したCAFCの決定前だったことである。
CAFCは、この問題を検討して、まず、地方裁判所での唯一の議論は、末端の行為が被告に帰するかどうかであったことを説明した。
上述のように、チケットを販売するためのオンラインシステムの動作に関する503特許のあるステップを被告が実施し、販売されたチケットの在庫の維持に関する残りのステップを末端のユーザ(例えば、映画館)が実施していることをマンクスは認めていた。
CAFCは、この段階で事件の本案の検討には立ち入らずに、事件を地方裁判所に差し戻し、「現在の記録において可能なものよりもより多くの情報を含んだ評価をもたらすための事実を主張する機会」をマンクスに与えた。
このように末端のユーザを被告と同一視できること、または被告が現場に対してステップを実施するように要求したことを示すのに十分な事実をマンクスは主張しなかったものの、CAFCは、法の変更に起因して「マンクスは少なくとも自身の訴状を補正する機会を有しなければならない」と認定した。
この判決は、事件の係属中に判例法を変更する判決が出た場合、判例法の変更の効力はその係属中の事件にも及ぶことを示した。当事者及び実務家は、係属中の事件において他の判決からの利益を得ることができるように、判例法の進展に精通しなければならない。