月刊The Lawyers 2016年6月号(第199回)
1. Shaw Industries Group, Inc. 対 Automated Creel Sys., Inc 事件
Nos. 2015-1116, 2015-1119 (Fed. Cir. March 23, 2016)
- IPRの開始判断はPTABの専権事項としたCAFCの判決 -
ACS(Automated Creel Systems, Inc.)は、連続運転を実現するために、紡績糸や他の撚り材料を製造工程に供給する特許の特許権者である。2012年2月に、ACSはショー(Shaw Industries Group, Inc.)を特許権侵害で訴えた。後にACSは、いかなる制約を伴うことなくショーに対する訴えを自発的に取下げた。
訴状送達後1年以内に、ショーは当事者系レビュー(IPR)を申立て、IPRはショーが主張した理由の全てではなく、その一部に基づいて開始された。訴状送達から1年以上経過後の2013年9月に、ショーは2度目のIPRの申立書を提出した。
特許審判部(PTAB)は、主張理由の一部に基づきIPRを開始した。そして、PTABは、ACSがいかなる制約もなく自発的に訴状を取り下げていることから、法定の1年の制限によって2度目のIPRは禁じられているというACSの主張を却下した。PTABは、自発的な取下げにより、訴状送達の効果は消滅したと説明した。その後、PTABは2つのIPRを併合し、最終決定書を発行した。
ショーは、理由の一部に基づいてIPRを開始しないというPTABの決定について控訴した。ACSは、法定の1年制限規定がレビューを禁じていることを根拠として、2度目のIPRを開始するというPTABの決定について交差上訴した。
ショーの控訴について、CAFCは、付加的理由に基づいてIPRを開始しないというPTABの決定を審理する管轄権をCAFC自身は有していないと判断した。
CAFCは、IPRの開始及び管理について、米国議会はPTOに規則を規定する権限を与えていると説明し、PTABが申立対象クレームの一部に対してIPRを開始する、またはあるクレームに関して主張された理由の一部に基づいてIPRを開始することを可能にする規則を制定していることから、PTOは権限を全うしていると判断した。
CAFCは、PTOに裁量を与える利点には、IPR手続を適切なタイミングでかつ効率的に完了させるためのPTABの義務を促進することが含まれると判断し、さらに、35USC§314(d)が「当事者系レビューを開始するか否かについての決定は、最終的なものであり、上訴することができない」と規定しているため、ある理由に基づいて当事者系レビューを開始しないという決定を審理する管轄権をCAFCは有していないと述べた。
ショーは職務執行令状の嘆願書を提出し、ショーの35USC§315(e)の解釈により、IPRの申立においてPTABに提出した理由に基づく再主張が禁止されているため、他の救済手段がないと主張した。
35USC§315(e)は、最終決定書に帰着する特許クレームについての当事者系レビューの申立人は、「申立人が前記の当事者系レビュー中に提起したまたは合理的に見て提起することができたと思われる理由に基づいて」、そのクレームに関し、民事訴訟または特許庁における手続において無効を主張できないと規定している。
PTOは、却下された理由はIPRに採用されていないから却下された理由に禁反言は適用されず、したがってショーの§315(e)の解釈は誤っていると主張し、CAFCはPTOに同意した。
CAFCは、§315(e)によって、開始されたIPRの対象となった主張のみについて禁反言が適用され、開始されたIPRに採用されなかった主張については禁反言が適用されないと述べ、禁反言は申立人が前記の当事者系レビュー中に提起したまたは合理的に見て提起することができたと思われる」理由にのみ適用されることを強調した。
CAFCはさらに、IPRは開始決定で審理が始まるので、対象外の理由は最初からIPRの一部を構成しないと判断し、CAFCはショーの職務執行令状の嘆願書を却下した。
交差上訴において、ACSは訴状から1年が経過してから申立書が提出されたため、2度目のIPRは時間的に禁じられていると主張した。35USC§315(b)は、「当事者系レビューは、手続を請求する申立が、申立人、真の利益当事者または申立人の利害関係人が特許権侵害を主張する訴状を送達された日から1年より後に提出された場合は、開始することができない」と定めているためである。
CAFCは、PTABのこの決定を審理する管轄権を有さないと述べた。しかし、CAFCは、 Cuozzo Speed Techs., LLC v. Lee, 136 S. Ct. 890 (2016)事件における最高裁によるサーシオレイライ(裁量上訴)の受理は、この問題に関するCAFC判決に影響し得ることを言及した。
この判決は、IPR手続におけるIPR開始の決定は裁判所で争うことができないことを確認し、CAFCがIPRの決定について審理できる事項は、実体的事項に制限される。また、本判決は、主張した複数の理由のうち一部の理由のみについてIPRが開始された場合に、IPRの最終決定に対して禁反言が及ぶ範囲は実際に審理された理由に限られる。