月刊The Lawyers 2016年3月号(第196回)
1. Ethicon Endo-Surgery, Inc. 対 Covidien LP 事件
No. 2014-1771 (Fed. Cir. January 13, 2016)
- 付与後レビューの審判部の決定に対する反証が困難であることを示した判決 -
エチコン(Ethicon Endo-Surgery, Inc.)は米国特許第8,317,070号(070特許)クレーム1〜14を先行技術により自明であると認定した審判部の決定に対し控訴した。
070特許のクレームは患者の組織を固定するために使用される手術用ステープラーに関するものであった。070特許は高さを変えられるステープルの使用および足が非平行なステープルの使用をクレームしていた。両方の改良についてはそれぞれ先行技術内でよく知られていた。070特許の発明とされる点は手術用ステープラーにおける2つの特徴の組み合わせであった。
エチコンは、コビディエン(Covidien LP)が070特許でクレームされた発明を実施した手術用ステープラーの販売を2010年に開始したと主張した。この技術を用いたステープラーは、3年以内に10億ドル以上の売り上げを達成した。
2013年3月25日、コビディエンは、070特許のクレーム1〜14が先行技術に基づき自明であるとの主張に基づき当事者系レビューを申し立てた。2014年6月9日の最終決定で当事者系レビューの開始時と同じ構成の審判部の合議体は、エチコンの主張をすべて却下し、070特許のクレーム1〜14は自明であると認定した。
審判部は、高さを変えられるステープルと非平行な足のステープルの特徴の利点は当時よく知られていたことから、当業者であれば2つの先行技術のステープラーを組み合わせようとしたであろうと結論付けた。
審判部はさらに、ステープルのデザインの数は限られることを理由に、非平行のステープルと高さを変えられるステープルを組み合わせようとすることは自明であったと判断した。
控訴審においてエチコンは、審判部が当事者系レビューの手続開始時と同じ合議体のまま最終決定を下していることから、審判部の最終決定は無効であると主張した。
まずエチコンは、実質的な決定を下す審判部の合議体ではなく、別の審判官によってレビュー開始決定が行われるべきことを法律が規定していると主張した。エチコンによると、合議体は限られた記録に基づいて事件への先入観を持つ危険性があり、それは公平な決定を受ける権利をエチコンからはく奪する。
CAFCはこの主張を退け、レビューの開始と最終決定を審判部の単一の合議体へ任せることは適正な手続きを受ける権利を侵害するものではないと結論付け、適正な手続の争点について、単一の行政機関における調査および審決の機能を組み合わせた行動を支持した最高裁判例に依拠した。
さらにCAFCは、複数の機能を組み合わせた政府機関による裁定に対する適正な手続きの異議申立をCAFCが過去にも却下していると述べ、レビューの開始決定と最終決定が、調査または手続の機能と審決機能とを組み合わせることに関与しない決定であることを理由に、この体制は過去の裁判で取り扱われた他の争点と比較しても問題が小さいものであると説明した。そして、さらにCAFCは、先入観や司法管轄外の情報を利用したという証拠はないと述べた。
エチコンはさらに、制定法はPTOの長官が開始決定を発表することを定めており、長官は当事者系レビュー開始の権限を審判部に与えるものではないと主張した。この主張のためにエチコンは、長官が開始決定の責任者として定めている制定法の文言に依拠した。
CAFCはエチコンの主張を却下し、制定法もしくは立法経緯の中で開始手続きと審決とを分離するような記載はないと述べ、長官はPTO内で明示的な法的権限付与をすることなく、役人に対し暗黙に権限を与えていると述べた。
CAFCは、PTOの長官は特許法の他のセクションに記載された業務を部下へ権限譲渡していると述べ、議会が米国発明法を成立させたとき、長官が開始決定を宣言する権利を委任することを想定していたはずであると理由付けた。
本案においてエチコンは、コビディエンの製品の商業的成功に基づいた非自明性の二次的考慮を審判部が適切に考慮しなかったことを理由に、特許発明が自明であるとの決定は支持されるべきではないと主張した。
CAFCは、商業的成功を立証するためには、特許権者が商業的成功と特許発明とを結び付けるものを立証しなければならないと述べ、この争点についてCAFCは、数々のクレームされていない特徴を製品が有しており、それが商業的成功に関与した可能性があるというコビディエンの主張を認めた。
CAFCはさらに、コビディエンの製品の商業的成功はそもそもステープルの高さを変えることに起因しており、それは先行技術の特徴であることの実質的証拠を審判部が持っていたと述べた。
この判決は、付与後レビュー手続の審判部による判断と実質的な事実認定の双方についてCAFCが一般に審判部の見解に従う傾向にあることを再確認した。また、全てのクレームの構成要件が先行技術により公知の場合は、二次的考慮に基づく非自明性の立証は困難であることを示している。