月刊The Lawyers 2016年1月号(第194回)
3. Prometheus Laboratories, Inc. 対 Roxane Laboratories, Inc 事件
Nos. 2014-1634, 2014-1635 (November 10, 2015)
- 先行特許が「属」概念である場合の「種」概念の発明における
自明性に対する抗弁の事例 -
プロメテウス(Prometheus Laboratories, Inc.)は、米国特許第6,284,770号(770特許)のクレームは、先行技術により自明であることから無効であると判示したニュージャージー地区地方裁判所の判決に対し上訴した。CAFCは地方裁判所の判決を支持した。
プロメテウスの770特許は、ロトロネックス(Lotronex)という名称で知られるアロセトロンを用いた下痢型過敏性腸症候群(IBS-D)の女性向け治療方法をクレームしている。
IBS-Dとは、6か月以上症状が続いている痛みが穏やかな患者を意味し、IBSとはその症状から定義され診断される状態のことである。患者は下痢型のIBS-Dのほか、便秘型(IBS-C)、混合型(IBS-M)あるいは交互型(IBSA)の症状に悩まされている。
770特許発行の直前、LotronexはIBS治療薬としてFDAによって承認され、2000年に販売が開始されたが、同年、重篤な副作用により市場から回収された。
薬はより制限を付けたラベルで、新たに副作用の警告と医薬品リスク管理計画を付けて2002年に再販された。
再導入の後、ラベルには、Lotronexは一般的に6か月以上慢性的症状が続く重症のIBS-Dの女性だけを対象とし、770特許のクレーム限定に対応する便秘傾向の患者には使用してはいけないと明記された。ラベルにはまた、重大な副作用の可能性に関する警告と、LotronexがIBS-Dの女性限定で処方されるべきであり、従来の治療法には十分に対応していないと書かれていた。
CAFCにおける問題は、770特許が先行技術のプロメテウス特許(米国特許第5,360,800号。以下、800特許)により自明であるか否かという点であった。
800特許クレームが「属」、すなわち包括的概念(genus)である一方で、770特許クレームはその包括概念の「種」(species)に相当するものであった。800特許クレームは、IBS患者を治療するためにアロセトロンの使用することをクレームしていた。770特許はIBS患者の一部、すなわち6か月以上慢性的症状が続く、症状が穏やかな女性のIBS-D患者の治療法をクレームしていた。
先に「属」が先行開示されていたことが、必ずしも「属」の一部である「種」が特許を受ける上での障害となるわけではない。
CAFCは「属」と「種」の区別がオーダーメード医療分野で特定の関連性があり、特定の治療がある一部の患者に対して有効な一方で、別の一部の患者には効果が無い(もしくは潜在的に有害である)ことがあると述べた。CAFCはさらに、新たな一部の患者が予期せぬ結果を示した場合には、自明性の判断は適切ではなくなる可能性もあると説明した。
しかしCAFCは、この事件では、770特許クレームには予期せぬ結果が出た事例はなかったと判断した。IBS-D患者の75〜80%の患者は女性で、同量のアロセトロンを服用した女性は血中の薬品濃度が高くなるため、薬に対する反応が大きく出やすいことが推察される。
アロセトロンはIBS-Dの患者には効果的であるが、IBS-Cの患者には害になる可能性があることが知られている。アロセトロンを処方する前に、患者の症状が6か月以上続いているかどうかを判断することは一般的な手法である。そして、IBSを診断するために患者の痛みを評価することは標準的な手法であった。
先行技術の知識に基づき、CAFCは、770特許クレームに記載の患者に対し、アロセトロンによる治療が有効であることは予見されていたという地方裁判所の判断に同意した。そして、予期しない結果に加えて、CAFCはさらに、非自明性の判断において副次的に考慮される、商業的成功と長年解決されなかった要望という二つの事項を検討した。
商業的成功に関し、CAFCは、Lotronexの商業的成功は770特許クレームによるものではなく、プロメテウスのマーケティング、Lotronexの価格、および薬の販売促進のための一連のリベートを導入したことによるという地方裁判所の判断に同意した。
また、薬品自体は、必要とされる恩恵を提供した先行技術の880特許によってカバーされており、長年解決されなかった要望は無かったと判断した地方裁判所に同意した。
したがって、CAFCは770特許を自明とした地方裁判所の判決に同意した。
プロメテウス事件では、「属」概念の特許に基づく自明性に対する抗弁において、「種」に関する特許クレームが提供する予期せぬ結果を実証することの重要性が明らかにされた。また、この判決では、予期せぬ結果を提供しない「属」の中の「種」に関する特許クレームは、「属」に関する先行技術特許が存在した場合には無効となる可能性があることを示した。