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月刊The Lawyers 2015年12月号(第193回)

3. Summit 6, LLC v. Samsung Electronics Co., Ltd. 事件

Nos. 2013-1648, -1651 (Fed. Cir. September 21, 2015)

- ロイヤリティ算定のための専門家証言の採用基準に柔軟さを認めた判決 -

サミット(Summit 6, LLC)はデジタル写真のようなデジタルコンテンツの処理に関する米国特許第7,765,482号(482特許)の特許権者である。

2011年、サミットは三星電子及び三星テレコミュニケーションズ・アメリカ(以下、あわせて三星)を他社と合わせて提訴した。

その提訴理由として、三星がスマートフォンやタブレット向けに設計・製造・販売した、マルチメディア・メッセージ・サービス(MMS)を介して写真を送信する工程が482特許の特許権を侵害していると主張した。審理の後、陪審員は三星による482特許の特許権侵害および特許の有効性を認め、サミットに対する1500万ドルの賠償額の支払いを裁定した。

公判中、サミットは専門家の証人であるポール・ベノイト(Paul Benoit)氏を通して賠償額の証拠を提示した。ベノイト氏は、侵害している機能に関し、三星が自社の電話機1台当たり0・28ドルを特許権の存続期間中に亘り支払うという仮定の交渉に同意するであろうと説明した。

ベノイト氏はこの意見書は、過去に用いられたことのない、あるいは同業者による評論の対象となる刊行物に公開されたことのない方法に基づいていることを認めた。

合理的なロイヤリティを算定する上で、ベノイト氏は、電話通信業者が三星の電話へカメラ部品を搭載するために、三星に対し14・15ドルを支払っていたと試算した。

この数字は三星の年次報告書、内部費用および収入の集計表、および質疑応答から算出した。ベノイト氏によるとこの情報は、カメラ部品が電話機全体の製造コストの6・2%を占めており、よって個々の電話のカメラへの販売による三星の収入の6・2%に帰することを示していた。

次にベノイト氏は、三星と別の一社が関わった調査に基づき、他の用途ではなく侵害する方法でカメラを操作して使用するカメラユーザーの割合を見積もった。

彼は、少なくとも65・3%のカメラユーザーが日常的に動画よりも写真を撮ることにカメラを使用していると見積り、少なくともそのユーザーの77・3%が写真を共有し、さらにその41・2%のユーザーが電子メールやウェッブストレージよりもMMSを介してその写真を共有していると計算した。

さらに、MMSを介して共有された写真は100%全てサイズ変更されており、ゆえに482特許の特許権を侵害していると述べた。これらの割合に基づき、ベノイト氏は、カメラユーザーの少なくとも20・8%が、他のカメラに関する特徴ではなく、特許権侵害となる特徴においてカメラを使用していると結論付けた。

ベノイト氏は自身の用いた統計に基づき、三星の電話機1台につき、カメラ部品を含む収入14・15ドルの20・8%に当たる2・93ドルが侵害している特徴によるものであると結論付けた。

次に、三星の年次報告書から利益率と資本資産拠出額を見積り、収入2・93ドルのうち0・56ドルが特許権侵害に起因する利益であると結論付けた。

最後に、ベノイト氏は仮定の交渉における合理的なロイヤリティを判断するために、当事者は、三星が特許権侵害しない代替物は無い状況下で、特許発明を使用することによって得た利益である0・56ドルに着目するであろうと証言した。ベノイト氏は両社共に相手よりも優越的地位にはいなかったので、両者は機器1台につき0・28ドルの合理的なロイヤリティに到達するために0・56ドルを均等割りするであろうと意見を述べた。

三星は、ベノイト氏の分析はDaubert対Merrell Dow Pharma-ceuticals, Inc.事件(509 U.S. 579 (1993))で述べられた基準を満たしていないと主張して、彼の専門家証言を除外するために法律問題としての判決の申立をしたが、地方裁判所はこの申立てを却下した。

三星は、CAFCの控訴審において、サミットへの賠償額に関する専門家証言は、ダウバート(Daubert)判決に基づくと証拠として認められないとする判決の申立てをした。この見解の裏付けとして、三星は3つの主張を提示した。

第一に、ベノイト氏の手法は未公開のもので、この訴訟のために特別に作られたものであり、ベノイト氏もしくは他の専門家が過去に用いたことがない手法であると主張した。第二に、特徴の使用がその価値に比例しているというベノイト氏の推定は誤りであり、他の専門家証言と矛盾すると主張した。第三に、ベノイト氏は調査の専門家ではなく、第三者の調査に基づいて意見を述べる専門家に必要とされる基本的なステップを踏んでいないことから、三星はベノイト氏の調査結果を用いることには問題があると主張した。

CAFCは、地方裁判所がサミットの専門家証言を証拠として認めたことは裁量権の乱用ではないと結論付け、地方裁判所による証言除外の申立て却下を支持した。

特にCAFCは、ベノイト氏の賠償額の算定方法は信頼性のある法則に基づいており、事件の事実と十分に関連付けられていたと判断した。CAFCによると、ベノイト氏は、(1)特に侵害の特徴に着目し、使用に関する三星独自のデータ、ならびに製造コストと利益の概要をまとめた財務報告書に基づいてその侵害の特徴を評価することによって、まず侵害行為による三星の経済的利益を算定した。そして、(2)当事者らの交渉開始時の立場と交渉による合意に代わる代替案を前提として、当事者がその経済的利益の個々の持ち分を交渉するという仮想の交渉を想定した。

三星の意見書への回答において、CAFCは、ベノイト氏の手法は同業者による論評の対象とはならない、または未公開のものであるという事実は、排除される必要はないと述べた。

またCAFCは、Georgia-Pacific判例における要因の一つが発明の使用に関するものであったことから、特徴を使用することはその価値に比例しないというベノイト氏の推定を誤りとする三星の主張も却下した。

さらに、ベノイト氏が依拠した第三者によってまとめられた調査データは、その分野の専門家がその主題に関する意見を形成するために依拠することが妥当な類の情報であるから、ベノイト氏にはその調査データに依拠する資格がない、という三星の主張には説得力がないとCAFCは判断した。

最後にCAFCは、ベノイト氏の信頼性、データ、あるいは事実の前提に関する論争は、証拠の重要度に関するものであって、証拠の許容性に関するものではないと述べた。

サミット(Summit)判決は、適切で合理的なロイヤリティに関する専門家の意見による賠償額は厳密である必要はなく、合理的なロイヤリティを算定する信頼性のある方法は一つではないことを例示した。

またこの判決は、このような方法論は、構造的に理にかなっていて事件の事実に関連付けられていれば、未公開で新しいものでもよいことを示した。

この判決のポイント

この判決は、専門家証言における合理的なロイヤリティの算定方法は、理論的に信頼性があり、事件の事実と関連付けされていれば、過去に使われたことのない手法であっても採用され得ることを明らかにした。

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