月刊The Lawyers 2015年10月号(第191回)
2. Carnegie Mellon Univ. 対 Marvell Tech. Group, Ltd. 事件
No. 14-1492 (August 4, 2015)
- 故意侵害の認定には明確かつ説得力のある証拠が必要で、
米国内で製造・販売が行われていない製品は損害賠償の対象外であることを示した判決 -
カーネギーメロン大学(CMU)は、2つの特許を所有している。これらは、コンピュータの磁気データ記録媒体において使用される記録メカニズム及び読み出しメカニズムが原因である種のエラーが発生しそうな場合に、記録データの検出精度を向上させるための方法、デバイス、及びシステムに関するものである。
2009年、CMUは、ハードドライブのリードライトヘッドを制御するチップに基づき、CMUの特許を侵害したとしてマーベル(Marvell Technology Group, Ltd.)に対して訴訟を提起した。
マーベルは、240億個の侵害被疑チップを販売しており、そのうちの一部の商品には、CMUの特許の発明者の1人の名前を内部で付けていた。地方裁判所は、CMUの特許は有効かつ侵害されていると判断し、CMUに対して、全世界での販売に基づく合理的なロイヤリティ損害賠償として約12億ドルを、また、加重損害賠償として3億ドルを認めた。
控訴審でCAFCは、マーベルがCMUの特許を侵害したという地方裁判所の判断を支持した。マーベルは、特許において開示された主要実施形態とは異なる「最適でない」ソリューションを開発したのだからCMUがクレームした方法を実施していないと主張したが、CAFCはこの主張を却下した。
CAFCは、陪審団はマーベルの製品がその特定の実施形態とは異なるものの依然としてクレームの範囲に含まれると判断できたであろうと述べ、CMUの特許は新規性及び自明性に関して無効ではないとした地方裁判所の判断を支持し、先行技術特許が或るクレーム要件を開示または自明にしているということを明確かつ説得力のある証拠により示すことをマーベルが失敗したと陪審団が適切に判断できた筈だと判示した。
CAFCは、加重損賠賠償に関する地方裁判所の認定についてはこれを覆した。加重損害賠償は、特許法の下では故意の立証がある場合に利用可能であり、故意の立証には、侵害者が、自己の行為が有効な特許の侵害を構成するという客観的に高い可能性にも関わらずその行為を働き、かつ、この客観的に定まるリスクが知られていたまたは知りうるほど明白であったという、明確かつ説得力のある証拠が必要とされるためであるとした。
CAFCは、陪審団はマーベルの特許無効の抗弁を退けたものの、先行技術特許が何を開示していたかについて抗弁は不確かであり、客観的に不合理ではない程度のものではなかったと認定した。
CAFCは、陪審団が判断したロイヤリティレートに対するマーベルの異議を却下した。合理的なロイヤリティを算定するアプローチは、侵害開始前に両当事者が交渉を行ったとした場合に両当事者が合意したであろうロイヤリティを確認するという仮定的な交渉である。
CAFCは、1チップにつき50セントのロイヤリティがマーベルによるCMUの技術使用料であると陪審団が認定していると述べた。
マーベルは、CMUによる過去のライセンスに基づいて一時払いのロイヤリティが認定されるべきであると主張したが、CAFCは、これらのライセンシーがCMUの研究パートナーであってCMUの研究に投資していたので、マーベルの主張を退けた。
CAFCは、米国外で製造され供給されたチップに関する損害賠償についての地方裁判所の認定を覆し、これらのチップの中に米国内で販売されたものがあるか否かを判断する新たな審理を行うために地方裁判所に差し戻した。
米国特許法は、一般的に、純粋に域外での行為に対しては適用されない。CAFCは、特許方法の侵害使用に関する損害賠償を算定するためにマーベルのチップが使用される場合には、そのチップが米国内で製造、使用、または販売された場合(または米国へ輸入された場合)にのみ侵害が発生すると判示した。それゆえ、CAFCは、国外で製造されたが米国へ輸入されたチップについての約2億7800万ドルの損害賠償については支持した。
CAFCは、国外で製造され供給されたが米国に輸入されていないチップは、CMUに対する損害賠償を認めるためには、米国内で販売されていなければならないと結論付けた。
CAFCは、販売がどこで行われたかを判断するための基準は、単一かつ普遍的に適用可能な確定的事実を特定するものではなく、また、販売が2つ以上の場所を持ち得るか否かについて法律は定まっていないと述べた。
販売がどこで行われたかを判断するのに関係する場所には、売買の法的約束が行われた場所、供給された場所、その他、実質的な取引活動が行われた場所が含まれ得る。
CAFCは、マーベルによるチップの設計及びテスト、米国におけるマーベルの顧客、及び米国内で行われた所定量のチップに関する契約上の約束に関する記録証拠に基づき、チップが米国内で販売されたと結論付けるための実質的な証拠を陪審団が有していたと判断した。
それゆえ、米国へ輸入されなかったチップについての損害賠償に関してマーベルは法律問題としての裁判を受ける権利を有していないものの、CAFCは、それにも関わらず、この部分について認定された損害賠償を取り消し、販売の場所に関する判断のために差戻しを行った。
カーネギーメロン判決は、巨額の特許損害賠償の認定が十分な事実証拠によりサポートされており適用可能な法律に整合していることを確認するために、その認定に対して慎重な審理を適用した最近の1つのCAFCの判決である。
この判決はまた、特許製品の販売の場所に関する問題を提起し、また、明らかに国外での販売が特許法の下で実際に米国での販売と見なされ得るか否かに関する更なる訴訟を引き起こす可能性のあるものである。
この判決は、故意侵害を認めるためには明確かつ説得力のある証拠が必要なことを示した。また、米国内で製造・販売等が行われていない製品は損害賠償の対象にならず、販売が行われた場所の判断には、売買契約の締結地や実質的な取引活動が行われた場所など、多様な基準が用いられることも示している。