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月刊The Lawyers 2015年10月号(第191回)

1. Microsoft Corp. 対 Motorola, Inc. 事件

No. 14-35393 (9th Cir. July 30, 2015)

- 標準規格必須特許のRAND実施料率の算出手法を明らかにした判決 -

SSO(Standard setting organizations:標準化団体)は、科学技術製品に用いられる標準規格を定める団体で、この活動により企業は標準規格に適合する他社の製品と互換性のある製品を製造することができる。このような標準規格技術は特許付与された製品に組み込まれる。

標準規格に組み込まれる必要のある特許を標準規格必須特許(Standard Essential Patents:以下、SEPs)と呼ぶ。標準化技術を広く採用されるようにするために、SSOの多くは特許権者に対しSEPsを合理的かつ非差別的な期間(Reasonable And Non-Discriminatory:以下、RAND条件下)で、他の企業へライセンス契約することを求めている。

モトローラ(Motorola, Inc.)はH.264画像符号化技術(以下、H.264)および802.11無線通信(WiFi)技術に必要な特許を所有し、関連するSSOに対しSEPsをRAND条件下でライセンス提供した。

マイクロソフト(Microsoft Corp.)のウィンドウズOSはH.264標準規格を組み込んでおり、自社のXboxビデオゲームコンソールはH.264とWiFi標準規格を組み込んでいた。

マイクロソフトは、モトローラが自社のSEPライセンスを最終製品価格の2・25%の実施料率で提案したことにより、関連するSSOに対するRAND義務違反をしたと主張し、契約違反を理由にモトローラを提訴した。

モトローラは、ドイツを含むマイクロソフトのヨーロッパディストリビューションセンターが所在する地域でマイクロソフトの製品の使用差止を申し立てた。

これに対し、マイクロソフトは物流拠点をオランダに移した。また、差止命令を受け、これにより地方裁判所がRAND合意に基づき使用差し止めの救済をすることが適切か否かを判断することが可能になるまで、モトローラがドイツにおいてマイクロソフトに対して勝ち取る差し止め命令を行使することができないようになった(最終的にドイツは差止命令を発行している)。

続いてマイクロソフトは、これらの差止行為はRANDの義務が侵害による差止の申立てを禁じていることを理由に、これらの差止行為が契約違反を構成すると主張するように訴状を訂正した。

地方裁判所は、モトローラによるRANDの義務は、モトローラとSSOの間に法的強制力のある契約であることを理由に、マイクロソフトのようなユーザは第三者の受益者としてこれらの契約の履行を求めることが出来ると判断した。

地方裁判所は、差し止めによる救済は不適切であると判断し、RAND実施料率を判断するためにベンチトライアルを行い、ロイヤリティの分析を行なった後に、H.264SEPs1ユニットにつき0・555セント、WiFi SEPs1ユニットにつき3・71セントが適正であると結論付けた。

地方裁判所は次に陪審裁判をおこない、その裁判においてモトローラは契約違反をしたと認定し、マイクロソフトの移転による損害賠償額および弁護士費用と差止要求に関する費用として1452万ドルを裁定した。

モトローラは、事件が連邦特許法に基づいて提起されたと主張して元々連邦巡回裁判所へ上訴していた。しかし連邦巡回裁判所は、事件を第9巡回控訴審裁判所(以下、第9巡回裁判所)へ移した。

まず、特許権侵害あるいは有効性に関する争点を持たない賠償額の計算方法に関して連邦巡回裁判所が管轄権を行使したことがなかったので、第9巡回裁判所は連邦巡回裁判所による移送に同意した。

さらに第9巡回裁判所は、地方裁判所によるRAND実施料率の判断における法的分析を支持した。このSEPsのための適切なRAND実施料率を定めることは、米国の裁判所における初の試みであった。

地方裁判所は、Georgia-Pacific Corp.対US Plywood Corp事件から、特許権侵害の合理的なロイヤリティの賠償額の算定においてよく用いられていた15個のファクターテストの修正版を採用した。

モトローラは控訴審において、地方裁判所が侵害行為の開始時点で発生した仮想上の交渉を要件とするファクターを適用したことは誤りであったと主張したが、第9巡回裁判所はこの主張を退けた。

第9巡回裁判所は、ある特定の日における特許の価値を特定することは実用的ではないため、侵害を開始した日は契約に関する事件においては不適切であり、モトローラのSEPsの現在の価値を調べることは誤りではないと述べた。

Georgia-Pacific事件におけるファクターのいくつかはRANDの原則と反しており、ファクターはロイヤリティ実施料率の計算に必要なお守りではないと連邦裁判所が述べていたことから、第9巡回裁判所は、RANDの事件ではGeorigia-Pacific事件のファクターを柔軟に取り入れることが必要であると判断した。

また第9巡回裁判所は、モトローラはこの分析によって不利益を受けることはなく、地方裁判所はモトローラの他のライセンスはRANDレートの証拠とはならないと合理的に判断したと述べた。

第9巡回裁判所はさらに、陪審員が評決の根拠とした実質的な証拠があったことから、契約破棄とした陪審評決に反対するモトローラの主張も退けた。モトローラはさらに、訴訟に関与する責任から当事者を保護するNoerr-Pennington原則により、損害賠償は除外されると主張した。

第9巡回裁判所は、この原則は契約違反の行為に対する責任から当事者を保護するものではなく、よって、ここでのRAND合意は特許権者を使用差し止め請求から除外するためのものであるから、Noerr-Pennington原則はモトローラの責任を免除するものではないと述べた。

さらに第9巡回裁判所は、地方裁判所による弁護士費用の賠償額の裁定も支持した。RANDの義務を負った特許を権利行使するモトローラの差止行為は誠実義務、および公正な取引を阻害するものであり、そしてモトローラの差止請求行為に対する抗弁において発生した弁護士費用の裁定は適切であったと理由付けたのである。

この判決のポイント

マイクロソフト事件は、裁判所はRANDの義務のある特許の適切なロイヤリティ実施料率を判断するための柔軟な事実に即したアプローチを採用し、Georgia-Pacific事件をこのようなケースに厳格に適用すべきという主張を拒絶することを明らかにした。今後のSEPsのRAND実施料率に関しては、この判決の地方裁判所のアプローチを追従する傾向になると思われる。また、この判決はRANDに関するSEPs特許を積極的に権利行使する戦略のリスクを明らかにした。

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