1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2015年
  4. 1. Kimble 対 Marvel Entertainment, LLC 事件

月刊The Lawyers 2015年9月号(第190回)

1. Kimble 対 Marvel Entertainment, LLC 事件

No. 13-720 (June 22, 2015)

- ロイヤリティを受ける権利が特許権の満了で終了するか否かを論じた判決 -

最高裁判所は、Brulotte対Thys Co.事件(注1)において、特許ロイヤリティを受ける権利は、その特許権の満了と共に終了すると判示した先の判決を覆すべきか否かについて審理した。

キンブル(Stephen Kimble)は、コミック本のスーパーヒーロー、スパイダーマンのように圧縮された蜘蛛の糸状のものを掌から発射するおもちゃの発明者であり特許権者である。

1997年、キンブルはマーヴェル(Marvel Entertainment, LLC)を特許権侵害で提訴した。マーヴェルの社長とキンブルとが会談した後、マーヴェルは、キンブルがデザインしたものとほとんど同一の「ウェブ・ブラスター」として有名なおもちゃの市場調査を開始した。

結果として係争が生じ、両者は、マーヴェルのウェブ・ブラスターの将来的な販売額に対する3%のロイヤリティをキンブルが受け取ることで合意した。合意書にはそのロイヤリティの終了日の記載が無かった。しばらくした後で、マーヴェルはBrulotte判決の存在を知った。

キンブルもマーヴェルも、交渉の間はBrulotte判決を知らなかったようであるが、その判決を知ったマーヴェルは、キンブルの特許権が2010年に満了した後はロイヤリティを支払う必要が無い、という確認判決を提起した。

Brulotte判決を引用し、地方裁判所はマーヴェルの申立てを認める判決を下し、第9巡回裁判所はその判決を支持した。これに対してキンブルは裁量上訴を申し立てた。

最高裁はBrulotte判決を覆すかどうかを判断する裁量上訴の申立てを認めた。Brulotte判決は、ホップ収穫機に関する特許権のライセンス契約を農家と交わした発明者に関するものである。合意書には、ホップ収穫機に係る特許権の満了前も満了後もロイヤリティを支払うことが規定されていた。

最高裁は、ホップ収穫機の特許権が満了した後に発生するロイヤリティの支払いを定めた部分の合意書は、法的強制力がないと判示した。この判断をする上で、Brulotte判決における最高裁は、特許権満了後にロイヤリティを支払う契約は、特許権の存続期間の長さを定めた制定法と矛盾するものであり、権利満了した特許発明は公有財産の一部になると強調した。

最高裁は、当事者が望めばBrulotte判決を回避することは容易であったろうと述べた。例えば、ライセンシーは特許権満了前のロイヤリティの支払いを特許権満了後の期間まで遅らせることが可能である。別の事例では、ロイヤリティが特許権と無関係のものであれば、そのロイヤリティの支払いは特許権満了後でもよいであろう。

それにも拘わらず、キンブルは、合意書中のロイヤリティに関する取決めに関する分析をケース・バイ・ケースで行なうことを求めて、Brulotte判決の法理の廃止を裁判所へ求めた。

最高裁は、先例拘束性の原則により、最高裁はBrulotte判決を覆すことはできないと判断し、この判断に関しいくつかの理由を挙げた。

第一に、最高裁は、Brulotte判決の様な制定法の解釈をする事件において、先例拘束の原則(stare decisis)は拘束力を強固にするものであり、見つかった誤りを正す適切な場所は議会であると述べた。この事件において、議会は、キンブルの主張と同様な分析で、Brulotte判決によるルールを置き換える法案に反対していた。

第二に、所有権または契約上の権利に関する事件では、先例拘束性の原則が最も多く適用されてきたと最高裁は強調した。最高裁は、裁判当事者はこれらのタイプの権利を左右する判例に依拠することが多いと理由付け、Brulotte判決を覆すことは余程の理由がない限り難しいと判断した。

第三に、最高裁は、Brulotte判決の制定法上および原則上の基礎となるものは判決当時と同じであり、特許権利満了という境界線は時間と共に変わるものではない、と述べた。

また、最高裁は規則を単純化する利点と、判決が実行不可能であることを立証されなかったことを見出した。こうして、最高裁はBrulotte判決を覆すことを拒否したのである。

キンブル判決は先例の拘束力と、最高裁が先例を覆すことに消極的であることを明らかにした。特許権者およびライセンシーは、ロイヤリティ条項を含む特許ライセンス契約を準備・交渉する際にBrulotte判例に留意すべきであろう。

利害関係者は、Brulotte判例による望まぬ影響を避けるために、ライセンス契約において適切な策を講ずるべきであろう。

この判決のポイント

最高裁は、先の判例に基づき特許権満了後のロイヤリティ支払いを不要としたCAFC判決を支持した。この判決は、Brulotte判決のような制定法の解釈に関する判決の先例拘束力を挙げ、先例を覆すことに最高裁は消極的であることを明らかにした。


(注1) 379 U.S.29 (1964)

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2015年
  4. 1. Kimble 対 Marvel Entertainment, LLC 事件

ページ上部へ