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月刊The Lawyers 2015年8月号(第189回)

3. Williamson 対 Citrix Online, LLC 事件

No. 13-1130 (June 16, 2015)

- 米国特許法第112条6項に関するCAFC大法廷による新たな判断基準の提示 -

CAFC大法廷は、クレーム文言が米国特許法第112条6項の対象となるか否かの新しい判断基準を示し、過去の判決を差し替えた。

ウィリアムソン(Richard A. Williamson)は、At Home Corporation Bondholder's Liquidating Trustの管財人として、Citrix Online, LLC, Citrix Systems, Inc., Microsoft Corporation, Adobe Systems, Inc., WebEx Communications, Inc., Cisco WebEx, LLC, Cisco Systems, Inc., および International Business Machines Corporation(以下、まとめて「被告」)に対し、2011年3月22日付で訴訟を提起し、被告らが様々なシステムの製造、販売、使用、およびオンライン・コラボレーション方法について米国特許第6,155,840号(840特許)を権利侵害していると主張した。

2012年9月4日の地方裁判所によるクレーム解釈の判決に続いて、ウィリアムソンは、裁判所の解釈に基づき840特許クレームの侵害はなし、もしくはクレームは無効であると認めた。こうして、当事者らは終局判決を求めた。ウィリアムソンは控訴しクレーム解釈に反論した。

ウィリアムソンは、840特許のクレーム8の「提供された学習制御モジュール」という文言は、特許法第112条6項に基づくミーンズ・プラス・ファンクションの文言であるとした地方裁判所の判決に不服申し立てした。

過去の判決において、CAFCはクレーム8に関して無効の合意判決を破棄した。以前、CAFCは、クレーム限定に「手段(means)」を用いない場合、第112条6項は適用されるべきではないという強力な反証の推定を生ずると述べており、地方裁判所はこの推定に十分な重きを置いていなかった、と述べていた。

CAFCの大法廷はこの基準を再考し、この高度な義務は不当であると結論付け、さらに、「強力な」推定を特徴とすべきでないと判示した。むしろ問題は、当業者がクレーム文言を構成のタイトルとして十分に明瞭な意味を持つものとして理解するか否かであると判断した。

CAFCは、推定は覆されうるものであり、第112条6項は、クレーム文言が十分な構成を示していないか、あるいは十分な構成を示さずに機能を示している場合に適用されると説明した。

CAFCはこの基準を適用して、840特許のクレーム8に記載の「提供された学習制御モジュール」という文言に対し、地方裁判所は、第112条6項の要件を正しく適用したと判断した。

モジュールという文言は特有の機能を実行するソフトウェアまたはハードウェアの一般的文言であるとCAFCは述べ、「モジュール」、「機構(mechanism)」、「エレメント」、および「装置(デバイス)」といった一般的文言は、クレーム内において実際には「手段(means)」と同様に用いられていると認定した。

CAFCは、クレーム内で用いられている「モジュール」という文言は、述べられた機能を実行する構造物を何も示していないと説明したのである。

特許法第112条6項は、クレームをミーンズ・プラス・ファンクション形式で記載することを認めているが、CAFCは、クレーム中でそのような表現を用いる場合、クレーム文言が何を意味しているのかを示す「手段」の要素に対応する十分な構成を明細書中に記載しなければならないと判示した。

第112条6項の適用を判断した後、CAFCは明細書に着目し、明細書がクレームされた機能に対応する十分な構成を開示していないと判断した。地方裁判所は、明細書はデータモジュールのストリーミング操作を調整する機能を実行する十分な構成を開示していなかったと認定した。

CAFCは、構成は必ずクレーム中に記載された機能に関連付けられなければならず、クレームされた機能を十分に実行しなければならない、クレームされた機能がソフトウェアによって実行される場合に、そのような機能に対応する構成はソフトウェアアルゴリズムである、とした。

過去の判例において、CAFCは、特許明細書は機能を実行するためのアルゴリズムを開示しなければならず、その開示は「単なる一般的用途のコンピュータもしくはマイクロプロセッサ」以上のものでなければならないと説明していた。

ウィリアムソンは、明細書の図4と図5は要件となるアルゴリズムを開示していると主張した。CAFCはこの主張を却下し、これらの図は単にプレゼンター用ディスプレイ・インターフェースを示しているにすぎず、「調整する」機能を実行するアルゴリズムではないと述べた。

CAFCはさらに、争点のウィリアムソンの専門家証言は、明細書中に欠落した構成と差し替えることはできないことから不十分であると判断した。明細書は必要な構成を開示していないことを理由に、CAFCは、840特許のクレーム8〜16を、不明瞭であることを理由に無効とした地方裁判所の判決を支持したのである。

ウィリアムソン事件は、機能クレームを争点とする重要判決であり、第112条6項の要件に関係する数多くの特許に影響を与えると思われる。この判決による差し迫った影響として、侵害被疑者は、第112条6項違反により、ソフトウェア特許の「手段(means)」を用いない広義な文言のクレームの有効性に対し、より積極的に無効理由を申し立ててくると思われる。

クレーム文言に「モジュール(module)」や「デバイス(device)」といった文言を使用しているソフトウェア特許は、特許権者が第112条6項の開示要件の対象とならないように意図的にその様な文言を使用していると思われるため、不明瞭性を理由に特許無効をより申し立てられやすくなるであろう。

この判決のポイント

CAFC は、クレーム文言の米国特許法第112条6項適用に関する新しい判断基準を示した。
過去の判決では、クレームに means が使用されていない場合、この条文を適用すべきではないと強力に推定していた。CAFC 大法廷はこの基準を再考し、クレームに means が使用されていない場合でも、明細書にクレームされた機能を実行する構成の記載が不可欠であると判断した。

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