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月刊The Lawyers 2015年8月号(第189回)

1. Commil USA, LLC 対 Cisco Systems, Inc. 事件

No. 13-896 (May 26, 2015)

- 誠実に特許無効を確信していることが誘導侵害の主張に対する抗弁として
有効であるか否かを判断した最高裁判決 -

連邦最高裁は、侵害被疑者が特許無効を確信していることが誘導侵害(induced infringement)の主張に対する抗弁として有効であるか否かについて見解を示した。

コミル(Commil USA, LLC)は、シスコ(Cisco Systems, Inc.)に対して、テキサス州東部地区連邦裁判所において特許侵害訴訟を提起した。コミルは、シスコがネットワーク機器を製造・使用したことによりコミルの特許を直接侵害したと主張し、シスコがネットワーク機器を販売したことで、他人による侵害を誘導していたと主張したのである。

第一審において、陪審員はシスコの直接侵害を認定し、370万ドルの賠償額のコミルへの支払いを命じた。陪審員は、シスコには誘導侵害の責任はないと判断したが、地方裁判所は誘導侵害の争点とその賠償額に関し再度の審理を認めた。

第二審において、シスコは誘導侵害の主張に対する抗弁として、誠実にコミルの特許が無効であると確信しているという証拠を提示しようとしたが、地裁はシスコが提示した証拠を容認できないとして除外した。そして、陪審員は誘導侵害についてコミルの主張を認める評決を下し、6370万ドルの賠償額を裁定した。

シスコはCAFCへ控訴した。控訴審において、CAFCは、誤った陪審員への説示に基づいた誘導侵害の認定を破棄し、また、シスコが誠意を持って特許無効を確信していたという証拠を除外したことは事実審裁判所の誤りであると判示した。

CAFCは、誠実に特許無効を確信することは、誠実に特許非侵害を確信することと同様に、誘導侵害の必須要件である特別の意思(specific intent)をシスコが有していたかの判断に関係すると述べた。コミルは裁量上訴を請求し、最高裁判所は、誠実に特許無効を確信することが誘導侵害の主張に対する抗弁となるか否かについて審理することを認めた。

最高裁はまず、Global-Tech Appliances, Inc.対SEB S.A., 131 S.Ct. 2060 (2011)の判例を再確認した。最高裁は、Global-Tech判決において、誘導侵害は、被告が特許の存在を知っており、誘導行為は特許権侵害行為を構成することも知っていたことが要件となると判示した。

コミルは、Global-Tech事件で示された誘導侵害の基準は、特許の存在を知っていたことだけが要件であったと主張したが、最高裁は、コミルの主張は、誘導行為が特許権侵害であることを知らなくても責任が生じるとして、正しくないと判断した。

最高裁は、Global-Tech判決においては、販売行為が侵害行為であったことを被告が自覚していた証拠が必要であったことは明らかであると述べた。

最高裁は、特許の有効性に関する被告の確信は、誘導侵害の主張に対する抗弁ではないと判示し、その判決を裏付けるいくつかの点を次のように述べた。第一に、特許法において侵害と有効性は別問題であり、このような抗弁を許容することはこれらの問題を合成することになる。第二に、もし被告が、特許が無効であるという合理的な確信により勝訴することができるのであれば、特許の有効性に関する法的な推定力が弱められることになる。第三に、特許無効は侵害の主張に対する抗弁ではないが、法的責任の認定を回避する積極的抗弁である。第四に、特許無効の判決を得るためには、確認判決や当事者系レビュー等、他の方法があるため、このような抗弁は訴訟の負担を増大させる。

また、最高裁は根拠のない訴訟(frivolous lawsuit)の問題を挙げ、地方裁判所は既存のツールを使用して根拠のない訴訟を防止すべきであることを強調した。これに関して、地裁はRule 11の裁定または弁護士費用を裁定する権限を行使すべきであり、一方、最高裁は、このようなセーフガードは特許法における侵害と有効性の分離を維持することを支持していると結論付けた。

スカーリア判事はロバート主席判事と共に反対意見を述べた。彼らの見解では、有効な特許のみが侵害されうるため、誠実に特許無効を確信している人は、その特許が侵害され得ないと確信しているはずである。このように特許が侵害され得ないと確信している人は、特許侵害行為と知りながら誘導行為はできない。従って、スカーリア判事は、誠実に特許無効を確信することは、特許の誘導侵害の主張に対する有効な抗弁であるべきと主張したのである。

コミル判決は、誘導侵害に関する法律解釈を示した。この判決により、特許無効を確信することは、誘導侵害の主張に対する有効な抗弁ではないことが明らかになった一方で、誘導行為が侵害行為であることを侵害被疑者が知っていた証拠を必要とすることに基づき、被告の意思を示す強力な証拠の必要性を強調している。

またこの判決は、合理的だが不正確な特許の解釈に基づき特許非侵害を信じる被告は、誘導侵害の判断の裏付けに必要な「意思」を持たない場合があることを示した。

この判決のポイント

コミル判決は、誠実に特許無効を確信することは、誘導侵害の主張に対する有効な抗弁とはならないことを示している。

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