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月刊The Lawyers 2015年5月号(第186回)

1. Warsaw Orthopedic, Inc. 対 NuVasive, Inc. 事件

Nos. 13-1576, 13-1577 (March 2, 2015)

- 逸失利益を基に賠償金を認める要件を明らかにした判決 -

ウォールソー(Warsaw Ortho-pedic)は、米国特許第5,860,973号(973特許)および第6,945,933号(933特許)の特許権侵害を理由にニューベイシブ(NuVasive, Inc.)を提訴した。ウォールソーの両特許はそれぞれ、脊椎インプラントおよびその方法、ならびに低浸襲脊椎手術用に、内視鏡の操作空間(ワーキングチャネル)を作るために組織を引き込む器具を含んでいた。

ニューベイシブは、手術中の神経モニタリングに関する自社の米国特許第7,470,236号(236特許)を侵害しているとして、ウォールソーおよびその関連会社のMSD(Medtronic Sofamor Danek USA, Inc.)を相手取り反訴した。

地方裁判所は、3つの特許は全て有効であり、特許権侵害されていると認定し、過去の侵害による損害賠償額および現在の特許使用料を裁定した。

裁判の後、両者は特許権侵害の法的責任および救済を求める「法律問題としての判決」(JMOL)の申立てを提出した。地方裁判所はJMOLの申立てを却下し、現在の特許使用料のレートを今後の特許権侵害のレートとして設定した。しかし、両者とも控訴した。

CAFCは、3つの全ての特許の特許権侵害の争点と有効性に関する地裁判決を支持したが、ウォールソーの973特許と、933特許の賠償額の裁定を破棄し、賠償額について新たな裁判を行うために事件を差し戻した。

賠償額の争点を審理して、CAFCは、973特許と、933特許にクレームされた技術をウォールソーは実施していないと指摘した。正しくは、ウォールソーは、関連会社であるデッゲンドルフ(Medtronic Sofamor Danek Deggendorf, GmbH)およびM Proc (Medtronic Puerto Rico Operations Co.)へ技術ライセンスしており、この2つの関連会社は特許製品を製造してMSDへ販売し、それらの販売における特許使用料をウォールソーへ支払っていたとCAFCは説明した。

しかしながら、ウォールソーは手術中に特許の器具と共に使用するサージカルロッドやスクリューといった「固定器具」を製造し、MSDへ販売している。MSDは固定器具を特許製品の器具と共にまとめてメディカルキットに同梱し、それを病院や外科医向けに販売していた。

裁判において、ウォールソーは逸失利益を主張し、陪審員は合計2億100万ドルの賠償額を裁定した。しかし、その裁定のうちのいくらが逸失利益によるもので、いくらが合理的な特許使用料に基づいているものかを判断することは不可能であった。

地方裁判所において、ウォールソーは、ニューベイシブによる特許権侵害による逸失利益として3つの収入源を明らかにした。

第一に、ウォールソーはMSDに対する固定具の販売から利益を得ていたが、これは、損害の回復目的の特許発明品以外の販売(convoyed sales)として扱われるべきであると主張した。第二に、ウォールソーはM Procおよびデッゲンドルフという関連会社からの特許使用料の支払いを受けていた。第三に、ウォールソーはMSDから、会社間の振替価格操作の合意の結果としてMSDから支払いを受けていた。

控訴審において、ニューベイシブはウォールソーの逸失利益の損害額の権利に異議を唱えた。

CAFCはある特定の販売に関して、特許権者は逸失利益の賠償額あるいは合理的な特許使用料のどちらかを得る権利はあるが、両方を得る権利はないと述べた。

賠償額としての逸失利益は、特許権侵害の結果実際に失った利益を全体として特許権者に補償することを意図している。一方で、合理的な特許使用料は、承諾なしに取得または使用された特許技術の価値を補償することを意図している。

賠償額の裁定の主張において、CAFCは、ウォールソーの3つの収入源は逸失利益として回収することが可能であるか否かについて言及し、ウォールソーの3つの収入源に関する減収は逸失利益ではないと判断した。

第一にCAFCは、ウォールソーの固定具のMSDへの販売は、特許発明品以外の販売理論の下では回復しないと判断した。特許発明品以外の販売の逸失利益を得るためには、関連製品が特許製品と機能的に関連しており、損失が合理的に予測可能でなければならないからであるとしたのだ。

CAFCは、固定具はメディカルキットの中で特許製品と一緒に販売されていたが、特許製品と機能的に関連していないと判断し、ウォールソーがMSDへ販売した固定具がそれ単体では何の機能も持たないという専門家証言を提示しなかったことを見出した。

CAFCは、この争点に関するニューベイシブのJMOLの申立てを地方裁判所が却下したことは誤りであったと判断したのである。

M Procとデッゲンドルフからウォールソーへの逸失利益としての支払いについて、CAFCは、ニューベイシブもこの争点に関してJMOLを受ける権利があることを認めた。

CAFCはこれに関し、特許権者が製品を販売していない場合、逸失利益はないとした過去の判例に依拠し、ウォールソーの関連製造会社であるM Procとデッゲンドルフがウォールソーの契約上の代理店に過ぎないと主張していたことから、販売はウォールソーに起因すべきであるとしたウォールソーの主張も却下した。

MSDからウォールソーへの関連会社による「調整支払(true-up payment)」に関し、CAFCは、ニューベイシブのこの争点のJMOLの申立てを却下したことも誤りであったと判示した。

裁判において、ウォールソーの証人は、ウォールソーが様々な処理を関連会社と行っていたと説明したが、CAFCは、ウォールソーは、過去に売買した物品の公平な市場価値をお互いに補てんし合うために、資金を内輪で送金することを関連会社に求める移転価格契約を頼りにしていたと判断した。

調整支払はウォールソーが公平な市場価格を得るためのものであったが、CAFCは、どの取引がその調整支払を必要とした取引であったかは不明であると述べた。

何パーセントの調整支払が、関連しない取引に関する支払とは別のMSDによる特許製品の販売に起因するものであったかを識別する証拠は見いだせなかった。したがって、CAFCは、調整支払は逸失利益として回復することはできないと結論付けたのである。

CAFCは、ウォールソーは逸失利益を受ける権利はないけれども、特許権侵害を補償する合理的な特許使用料を受ける権利があると結論付けた。したがって、CAFCは、特許技術に関する合理的な特許使用料を決定するための新たな裁判のために事件を差し戻した。

ウォールソー判決は、特許権者が関連会社による特許製品の製造・販売に頼っている場合に、特許権者には逸失利益の賠償金を受ける権利がない可能性があることを注意喚起している。

判決はまた、関連会社の取引に基づいて販売損失の損害賠償を受け取るためには、十分な裏付け証拠が必要であり、そのような販売は特許技術と密接に関連していなければならないことを示した。この厳格な証拠がない場合、特許権者は特許権侵害の賠償金としての合理的な特許使用料に基づく計算に頼らなければならない。

この判決のポイント

CAFCは、特許を実施していない特許権者は逸失利益の損害賠償を請求できない可能性があることを明らかにした。逸失利益を主張するためには、特許ライセンス先の販売が特許技術と密接に関連することを示す十分な証拠が必要である。

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