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月刊The Lawyers 2015年1月号(第182回)

2. Azure Networks, LLC 対 CSR PLC, 事件

No. 13-1459 (November 6, 2014)

- その特許に対して排他的な権利を持たない者の当事者適格性を論じた判決 -

米国特許第7,756,129号(129特許)は、中央ハブ装置とその近くにある数多くの周辺装置との間の無線通信用「パーソナルエリア・ネットワーク」に関する。

原告のアズール(Azure Networks, LLC)は129特許の取得後、地元の慈善団体にその特許の実施を求めた。アズールは、Tri-County Excelsior財団(以下、Tri-County)をつくるために、Court Appointed Special Advocates of Harrison County と提携した。Tri-Countyはテキサス州西部に本拠地を置く非営利団体である。

アズールは129特許を含む複数の特許および特許出願をTri-Countyへ寄贈した。続いてTri-Countyとアズールは、特許権の専用実施権契約を締結した。その契約において129特許の特許権はTri-Countyに残したが、(1)製品の製造、使用、販売、販売申込み、輸入およびリースする権利、(2)方法、工程、乃至サービスの使用および実行する権利、および、(3)その他の129特許に基づくあらゆる発明を何らかの方法で実施する権利を含む、排他的、および世界的に移転可能な129特許の多くの権利をアズールへ返還した。

この契約に基づき、アズールはTri-Countyの同意なしに和解する権利を含む129特許の権利行使およびサブライセンスする全ての権利を取得した。アズールはさらに、129特許のパテントファミリーに関する排他的権利は持つが、特許を維持、将来の手続きの管理、実施、および守る義務はなかった。

引き換えに、Tri-Countyは最初の5年間は33%、その後は5%のアズールの訴訟またはライセンシング料の利益を受け取る権利を得た。

Tri-Countyは、129特許をロイヤリティ無しで実施し、Tri-Countyブランド製品を作る権利を保持した。Tri-Countyはさらに、アズールが契約義務違反した場合は契約を解除する権利を保持した。この契約は129特許の満了日の2年前、2018年3月27日で満了する。

129特許の権利満了時に、全ての権利はTri-Countyへ戻るが、Tri-Countyはこの契約を1年更新する選択肢を持っていた。

アズールとTri-Countyは共にCSR PLC, Cambridge Silicon Radio International, LLC, Atheros Communications, Inc., Qualcomm Inc., Broadcom Corp., Marvell Semiconductor, Inc., Ralink Technology Corp. (Taiwan), and Ralink Technology Corp. (USA)(以上、まとめて「被告」)に対してテキサス州西地区地方裁判所に訴訟を提起した。

被告は、Tri-Countyはアズールへ129特許の権利を譲渡し権利移転していることから当事者適格がないと主張し、Tri-Countyを裁判の原告から外すよう申し立てた。したがって、被告はTri-Countyは原告として加わることはできないと主張した。

地方裁判所は被告の申立てを認め、Tri-Countyを原告から外した。アズールとTri-Countyは上訴し、CAFCは地方裁判所の判決を支持した。

控訴審において、CAFCはTri-Countyがこの侵害訴訟に加わることが可能か否かを判断する二段階の要件を示した。

CAFCはまず、アズールを有効な特許権者にするために、Tri-Countyが129特許の「全ての実質的な権利」をアズールへ移転したか否かを判断した。「全ての実質的権利」がアズールへ移転されたと判断した後で、次にCAFCは、その後もTri-Countyが共同原告として加わることが可能か否かを判断したのである。

まずCAFCは、Tri-Countyが「全ての実質的権利」を移転したか否かを判断するために、以下の権利を含む項目について考慮した。(1)訴訟提起する権利、(2)特許に基づく製品またはサービスを製造・使用・販売する権利、(3)サブライセンスするライセンシーの権利、(4)ライセンスの終了または失効により、権利がライセンサーへ返還される権利、(5)訴訟およびライセンスにより得られる利益を受け取るライセンサーの権利、(6)ライセンス期間、(7)ライセンサーのライセンス行為を管理する可能性、(8)ライセンサーの特許を維持する義務、(9)ライセンシーが自身の特許権を譲渡する権利、である。

CAFCは、Tri-Countyが129特許の多くの主要な権利をアズールへ譲渡していると判断し、したがってTri-Countyが「全ての実質的権利」をアズールへ移転したと判示した。

この判断をする上で、CAFCはいくつかのTri-Countyの主張を却下した。第一に、Tri-Countyは、訴訟およびライセンス行為による利益のかなりの部分の権利を保持していると主張した。しかし、この主張に対して、CAFCは経済的利益を保持しているだけでは不十分であると述べた。

Tri-Countyは、訴訟、ライセンス、および129特許のサブライセンスの全てを扱う排他的権利をアズールへ移転していた。第二に、Tri-Countyは129特許の実施権は残していたと主張した。

しかしながらCAFCは、Tri-Countyが特許を実施する製品を製造・販売せず、将来的にもそのような予定がないことから、この最小限のライセンスは意味がないと判断した。

第三に、Tri-Countyは契約を終了する権利を持ち、それにより、アズールの権利を制限する権利があったことを示唆した。CAFCは、この終了させる権利は、アズールが契約に基づく義務を怠った場合を条件としていることから重要ではないと判断した。

アズールは訴訟を管理しライセンスを決定する権利を持っていたことから、CAFCはTri-Countyの権利は単にアズールの義務違反を監視する権利にすぎないと結論付けた。

さらに、Tri-Countyに契約を終了する権利があったとしても、アズールは30万5000ドルで129特許を再取得する権利を持っていたので、Tri-Countyがアズールの意思決定を規制する権利を最小限に抑えるものであると述べた。

第四に、Tri-Countyは129特許の権利満了の最後の2年間、権利が復帰すると指摘した。これに対しCAFCは、特許ライセンス契約の終了日に拘わらず、Tri-Countyとアズールは129特許の期間中契約期間を延長することが許されていたと判断した。

これらの要素を考慮して、CAFCはTri-Countyが「129特許の全ての実質的権利」をアズールへ譲渡したと結論付けた。

次にCAFCは、Tri-Countyが裁判において、129特許に関して共同原告として加わる十分な権利を持っていたか否かを判断した。129特許の「全ての実質的権利」は持たない当事者が当事者適格を持つためには、Tri-Countyは129特許の「排他的権利」を持つことを立証しなければならないのである。

CAFCはTri-Countyは排他的権利を持たないと認定し、Tri-Countyには共同原告として訴訟に加わる当事者適格がないと結論付けた。したがって、CAFCは地方裁判所によるTri-Countyをこの事件から退ける判決を支持した。

この判決のポイント

この判決は、特許の実質的権利を第三者に移転した者は特許侵害訴訟の原告適格性を欠くと判断される可能性があることを示した。当事者適格の争点を考慮する上で、特許の中心的な権利を持つ者、特許の使用を排他的に管理する者に当事者適格を認める傾向が裁判所にあることを教えている。

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