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月刊The Lawyers 2014年12月号(第181回)

1. Am. Calcar, Inc. 対 Am. Honda Motor Co., 事件

No. 13-1061 (September 26, 2014)

- 強い欺く意図から不正行為を認め、特許を行使不能と論じた判決 -

カルカー(American Calcar, Inc.)は、自動車の情報にアクセスし、自動車の機能を制御するための、車両用マルチメディアシステムに関する3件の特許、米国特許第6,330,497号(497特許)、米国特許第6,438,465号(465特許)、及び米国特許第6,542,795号(795特許)の特許権者である。この3件の特許は、共通明細書で、1997年1月28日に出願された基礎出願に由来する。

カルカーは、これらの特許権の侵害を理由に、ホンダ(Americ-an Honda Motor Co.)を提訴した。2008年の裁判に続き、地方裁判所は不正行為を理由に係争特許は権利行使不能であると認定した。

カルカーは控訴し、CAFCはTherasense対Becton, Dickinson & Co., 649 F.3d 1276 (Fed.Cir. 2011)事件において示された不正行為の新基準を考慮した再審理を地裁に命じ、事件を差し戻した。

差戻し審において、地裁は再度、親特許の審査中の不正行為を理由に、3件の特許権を行使不能と判断したが、カルカーは再度控訴した。控訴審において、CAFC合議体の過半数は不正行為があったとの地裁の認定を維持した。

カルカーによる不正行為は、1996 Acura RL(「96RL」)ナビゲーションシステムに関する先行技術の限定的な開示に関するものであった。1996年に、ホンダは96RL用のオプションとしてナビゲーションシステムを追加した。カルカーは、自動車ガイド「クイックティップス(Quick Tips)」を発行したが、ここには96RLを含む自動車のオーナーズ・マニュアルからの情報が取り込まれている。

カルカーの創業者は、本件特許発明の共同発明者でもあり、96RLを運転し、ナビゲーションシステムを個人的に操作していた。また、カルカーのスタッフは96RLのナビゲーションシステム及びオーナーズ・マニュアルの写真を撮っていた。特許は、明確に96RLシステムを先行技術として参照し、かつ、カルカーが発明は96RLシステムに基づくものであると認めたものの、カルカーは、審査段階で意図的にユーザマニュアル及び写真の提出を差し控えた。

地裁は、「なかりせば(but for)」の重要性テストを採用し、提出を差し控えた情報は重要であったと認定し、CAFCはこの事実認定を支持した。つまり、地裁は、米国特許商標庁(PTO)が差し控えられた情報を知っていれば、特許を許可することはなかったと判断した。

その場合にPTOがクレームを許可しなかった理由として、地裁は、争点の特許のクレームに係る発明と96RLシステムの相違点を、当業者は容易に想到できた点であったことを述べた。

カルカーは、地裁が特許発明と96RLシステムとは「同じ機能(情報提供)を同じ方法で(対話式表示画面を介して)実行して、同じ結果(自動車のユーザに情報を提供する)を得る」と述べ、自明性の問題に対して、不適切に均等論を適用したと主張した。

CAFCはこの主張を拒絶し、その陳述はまさに最も合理的な解釈で、特許発明は自明であり、特許を受けることができない理由をまとめた陳述であると述べた。CAFCは、地裁による「機能、方法、結果」の文言の捉え方は、法的に誤っていないと断定したのである。

CAFCは、カルカーがPTOを欺く意図を有したとの地裁の判断を支持した。地裁の判断は、カルカーの創業者が、所有していた情報が重要であったことを自ら認識した事実、及び、出願審査が進展する間にPTOからその情報を隠蔽する意図的な決断があったことに基づいていた。

カルカーは、カルカーの創業者に過失、または重過失があったと推定することも同等に合理的であると主張した。CAFCは、カルカーの創業者には、隠蔽した情報を開示する機会が十分あったことを示す証拠が存在することを理由に、地裁がこの主張をはっきりと拒絶したことに留意した。むしろ、カルカーの創業者は、96RLシステムの存在を開示しただけで、詳細を提供しなかったのである。

地裁はさらに、カルカーの創業者の証言は、信頼性に欠けていることに留意した。なお、カルカーは、その行為は不正行為に該当しないとした2008年の陪審員によるアドバイザリー評決を示したが、CAFCは、その主張を受け入れなかった。なぜなら、地裁は、陪審員に提示されなかった実質的な証言を基に判断を下したからである。

ニューマン(Newman)判事は、2つの理由から多数意見に反対した。まず、同判事は、重要性に関する多数意見の判断に反対し、隠蔽された情報が完全に開示された後にPTOが497特許を再審査し、特許性を確認したことは、PTOが特許を許可しなかったであろうという情報の重要性にかかる判断を覆すと推論した。

そして、ニューマン判事は、合議体多数意見の「欺く意思」に関する推論を批判し、証人の信頼性を評価する陪審員の能力は、特に関連深いのにもかかわらず、多数意見が不正行為の争点に関する陪審評決を無視したと述べた。

カルカー事件は、最近CAFCが下した幾つかの不正行為の認定を支持した数少ない最新判決である。Therasense事件以降、不正行為の主張の頻度及び成功率が低下しているが、この判決は、いまだに、場合によって不正行為は価値のある抗弁となり得ることを示している。

この判決は、PTOによる再審査の判断に基づき、特許権者にとって拠り所となる証拠が存在したにもかかわらず、欺く意図の重要性の判断が下された点に関しても注目すべき判決である。カルカー事件は、Therasenseの重要性基準は、これまで想定していたよりも柔軟であるという主張を裏付けるものである。

この判決のポイント

CAFC合議体は、PTOでの審査段階における不正行為に基づき、争点の特許は権利行使不能であるとの地方裁判所の認定を支持した。一連の判決から、欺く意図の重要性と、裁判所によるその解釈の柔軟性が注目される。依然として不正行為は特許を攻撃する大きな争点である。

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