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月刊The Lawyers 2014年10月号(第179回)

1. Apotex Inc. 対 UCB, Inc. 事件

No. 13-1674 (August 15, 2014)

- Therasense事件で不正行為の判断基準が引上がったにも拘わらず、
不正行為の抗弁を認めた判決 -

この事件においてCAFCは、アポテックス(Apotex)の米国特許第6、767、556(556特許)を不正行為により権利行使不可能とした下級裁判所の判決を支持した。556特許は、高血圧を治療するために使用されるモエキシプリル錠剤の製造方法に関する。アポテックスの創始者及び会長であるシャーマン博士(Dr. Bernard Sherman)は、556特許の単独発明者である。

この事件の焦点は、シャーマン博士の行為にあった。下級裁判所は、シャーマン博士が556特許の出願時にUSPTOに対して重要事実の積極的虚偽陳述を行ったことを根拠として判決を下し、CAFCはこの判決を支持し、これが裁判所の判断の基礎となった。

この判決は、Therasense Inc. 対 Becton Dickinson & Co.の大法廷判決以降3年間で、CAFCが不正行為を認定した数少ない判決の一つである。

不正行為の積極的抗弁で打ち勝つために、被告人は、特許権者の意図とその行為の重要性を証明する必要がある。特許権者の意図を証明するには、被告人は特許権者が具体的な意図を持ってPTO(特許商標庁)を欺こうとしたことを示す必要がある。

重要性の証明に関しては、Therasense事件によってルールが変わった。Therasense事件前は、被告人は、審査官が特許を許可するか否かの判断を行う際に虚偽表示または不作為を重要と判断したはずであることを示す義務があった。Therasense事件後、被告人は、ある虚偽表示または不作為は、『but-for』(「なかりせば」)の重要性基準、つまり実情を知っていたならばPTOはその出願を許可していなかったはずであることを示す必要がある。

しかし、この「なかりせば」の重要性基準に例外がある。それは「重大不正行為」が認められる場合である。もし被告人が、特許権者の積極的な行為が「重大不正行為」に相当することを証明できたら、「なかりせば」の重要性を証明する必要はない。

CAFCは、アポテックス事件に「重大不正行為」は見出さなかったものの、意図及び重要性を見出し、シャーマン博士は特許出願時に、重要な情報に関して意図的にUSPTOを欺いたと判断した。

556特許は、薬(モエキシプリル)の少なくとも80%をマグネシウムと反応させ、モエキシプリルのマグネシウム塩を含む医薬製剤を形成するプロセスをクレームする。

侵害被疑品のうち一つであったUnivascは、556特許に対する先行技術として挙げられていた。Univascに関するFDA資料は、製剤においてマグネシウムは存在するものの、その多くはモエキシプリルとは反応していないと記載していた。

しかし、556特許の出願と同日に、シャーマン博士はUnivascの試験を実行し、実際にUnivascの多くはモエキシプリルマグネシウム塩からなるとの結論に至っていた。

一ヶ月後、シャーマン博士の同僚はさらなる試験を実行し、彼の結論を裏付けた。にも関わらず、シャーマン博士は弁護士に、FDAの資料を引用し、Univascの大部分は未反応のマグネシウムとモエキシプリルからなるものであると主張するように指示した。

シャーマン博士はさらに、この主張を裏付けるような鑑定書を提出するために専門家を雇った。この専門家は、提供された資料のみを考慮するように指示され、シャーマン博士及び彼の同僚が行ったUnivascの試験の存在について知らされていなかった。

それに加え、シャーマン博士は一切実行していない試験の実施例を特許明細書に含めただけでなく、それらを、実行したかのように過去形で書いていた。

CAFCは、シャーマン博士の不正行為は、いわゆる「なかりせば」の重要性があると判断し、シャーマン博士が事実ではないにも関わらず、弁護士及び専門家を通してUnivascの製造工程はモエキシプリルマグネシウム塩を生成する反応を含まないとPTOに繰り返し提示していたと認定した。

CAFCはさらに、PTOの審査官は、シャーマン博士のこの不誠実な主張に納得した後に特許したと判断した。この判断の裏付けとして、CAFCは審査官の許可理由を参照し、その許可理由は先行技術とされたUnivascを区別するためのシャーマン博士の主張を言葉通りに記載していた。

「なかりせば」の重要性を認定した後、CAFCは、シャーマン博士の行為が重要性を推定可能であったにもかかわらず行われた重大不正行為のレベルに該当するかを判断する必要はないと判断した。

しかしながらCAFCは、シャーマン博士の行為は少なくとも、重大不正行為に近いものであると述べた。これに関しCAFCは、シャーマン博士が特許付与に役立つ虚偽記載を含む専門家の鑑定書の準備及び提出の手配をした事実を強調した。

意図に関してCAFCは、シャーマン博士は、すでに存在し一般に入手可能な製品の生成法と同じ工程について特許を取得しようとしていたことを自覚していたか、少なくとも自覚していた疑いがあると判断した。

またCAFCは、556特許の出願時に、シャーマン博士は明細書中の先行技術に関するいくつかの記載について、明らかに不正確だと認識していたか、少なくとも誤解させるように不完全であったことを認識していたと判断した。

それに加えCAFCは、シャーマン博士は556特許に記載した試験を実施しなかったにも関わらず、明細書における例を全て過去形の記載で書き、あたかも試験を実施したような印象を与えるように記述したと認定した。

CAFCは、シャーマン博士の行為は誠実さが欠如しており、この証拠から、USPTOを欺く意志があったことが唯一最も合理的に導き出されると結論付けた。

アポテックス事件は、CAFCが重要性の基準を高めたにも関わらず、十分な事実の記録がある場合、不正行為に基づく抗弁により勝訴が未だ可能なことを示している。特に、この判決は、審査官が特許の許可理由を、特許権者の虚偽陳述または不作為に関係する事実または主張に基づいたものである場合においても重要性は証明可能であると示している。

その抗弁を裏付ける特許権者による積極的な不正行為、例えば不正確な専門家鑑定書の提出を手配し、明細書に理論的な実施例を実際に行ったように記述するような行為は、この判決で重要であったと考えられる。

この判決のポイント

CAFCは下級裁判所の判決を支持し、不正な行為を理由にアポテックスの特許は行使できないと判断した。Therasense事件により、不正行為の判断基準が引き上げられたものの、不正行為に基づく抗弁が成功する可能性があることをこの判決は示している。

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