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月刊The Lawyers 2014年6月号(第175回)

3. Trebro Mfg., Inc. 対 Firefly Equipment, LLC 事件

No. 2013-1437 (April 9, 2014)

- 自己不実施の特許でも競合製品に対する差し止め請求を認めた判決 -

この事件でCAFCは、トレブロ(Trebro Manufacturing, Inc.)が、芝収穫機に関する米国特許第8,336,638号(638特許)の特許侵害を理由に求めたFireFly Equipment, LLCおよびSteven R. Aposhian(以下、合わせて「ファイヤフライ」)に対する仮差止命令申立を却下した地方裁判所の決定を破棄した。

この事件の芝収穫機は、地面から芝のピースをナイフで切り取り、コンベヤベルトでそれを運搬し、パレット上に積み上げる車両である。

トレブロは芝収穫機を販売しており、争点の特許をオンタリオ (Ontario Ltd.)から譲り受けた。同時にトレブロは、オンタリオの関連会社であるBrouwer Turf Inc.に対し特許のライセンス契約を許諾した。ファイヤフライも芝収穫機を販売しているが、芝収穫機を販売する以前は、交換部品の販売が主要ビジネスであり、その80%がトレブロの機械用部品であった。

2013年3月14日、トレブロは638特許の特許権侵害を理由にファイヤフライを提訴した。トレブロは638特許に関する仮差止の申立てをした。638特許は2013年6月28日に継続出願され、2013年12月25日に特許付与された。特許は2005年2月4日付で提出された仮出願に日付をさかのぼる一連の複数の出願を優先権主張していた。トレブロはさらに、発明者の宣誓書および当時の特許弁護士のメモにより、2004年11月の発明日の優先日を主張した。

特許のクレーム1は「芝のキャリヤに向かって垂直方向に移動可能な水平コンベヤ」を備えた芝収穫機をクレームしていた。638特許の図1はクレーム1に記載された特徴を備えた芝収穫機の一例を示す概略図である。この図中、水平コンベヤは垂直に動くベッドフレーム上に設置されている。

両者は、638特許明細書が垂直に動く水平コンベヤに関する1つの実施例を明確に記載しているにすぎないことに同意した。さらに、クレーム1と9に従属するクレーム10は、水平コンベヤの垂直動作を行うために、ベッドフレームが上昇および下降する状況を明記していることにも同意した。

地方裁判所は2013年4月11日に仮差し止めのヒアリングを行なった。トレブロの社長は、2006年以降に市場へ参入した2つの芝収穫機は、垂直に動く水平コンベヤの特徴を示していたと証言した。社長はさらに、小型芝収穫機を市場展開しているのは、トレブロとファイヤフライを含む3社だけであると証言した。

社長は、トレブロが現在販売している芝収穫機に638特許を実施していないことを認めたが、トレブロのSC2010スラブ芝収穫機は、ファイヤフライの侵害被疑品である芝収穫機(ProSlab150)と直接競合すると証言した。

トレブロの社長はさらに、もしファイヤフライがProSlab150の販売を継続するならば、トレブロは市場シェアを奪われるだろうと述べ、ファイヤフライの最初の販売はトレブロの顧客に対する販売であったと証言した。さらに社長は、遺失利益は約5万ドルに及び、農家は芝収穫機を長年買い替えることはなく、差止が認められなければトレブロは一時解雇を実施しなければならないであろうと述べた。

ファイヤフライの経営者は、ProSlab150は638特許のクレーム1を侵害していないと証言した。彼は、ProSlab150は水平コンベヤの垂直動作を行わず、水平コンベヤベルトは単純に形状を変えるだけであると述べた。しかしながら、1ピースの芝を持ち上げて芝のキャリヤに載せることに関し、「上昇する要素」があると供述した。

ファイヤフライの経営者はさらに、ファイヤフライがProSlab150の販売を始めるまでは、ファイヤフライの主たるビジネスは交換部品の販売であり、その約80%がトレブロの機械向け部品であったと供述した。差止のヒアリングの時点までにファイヤフライは既に1つの製品を業者に販売していることに加え、既に6台の芝収穫機を業者に事前販売していた。ファイヤフライの経営者はさらに、差止命令が出されればファイヤフライは倒産するだろうと供述した。

地方裁判所はトレブロの仮差止の申立てを却下した。第一に、裁判所は、芝生マット(sod slab)を持ち上げるためにベルトが形状を変えたに過ぎないので、「水平コンベヤが垂直方向に移動可能である」との要件を充足する実質的な見込みはないと認定した。

第二に、特許の有効性および「水平コンベヤが芝のキャリヤ方向へ上昇するという特徴に新規性または非自明性があるか否か」に関して、地方裁判所は実質的問題があると判断した。第三に、地方裁判所は回復不能な損害がないと判断した。裁判所はトレブロの損害の証拠は推測であり、純粋に金銭的な救済で「主張している顧客の喪失および市場シェアの仮想的喪失」に対する十分な補償が可能であろうと述べた。

控訴審においてCAFCは、仮差止の申立てを却下した地裁判決を破棄し、審理を差し戻した。第一にCAFCは、トレブロが、ファイヤフライが638特許を侵害した可能性の立証をしなかったという地方裁判所の判断は誤りだと判断した。

CAFCは、地方裁判所が特許のクレーム1および10を誤って解釈したとの意見を述べ、また、ProSlab150の水平コンベヤベルトは、芝キャリヤに向かって垂直に移動する水平コンベヤの一部であるために、形状を変えるにすぎないと述べた。

第二にCAFCは、地方裁判所が638特許の有効性に関する実質的問題の判断を誤ったと認定した。CAFCは、638特許の仮出願の時期が、垂直方向に移動可能な水平コンベヤを用いた2つの芝収穫機の市場参入より前であることを地方裁判所が考慮しなかったことは誤りであるとの意見を述べた。

第三に、CAFCは、トレブロが回復不能な損害の可能性を立証しなかったという地方裁判所の判断は誤りであると認定し、小規模市場に関するトレブロの社長の証言が推測ではなく、ファイヤフライの個々の販売によりトレブロは販売機会を喪失することになると述べた。

CAFCはさらに、トレブロが著しく市場シェアと顧客を失う可能性があり、金銭的賠償では不十分であると付け加えた。CAFCは、トレブロとファイヤフライが市場において製品販売で直接競合していることから、トレブロが現在その特許を実施していないことで回復不能な損害の可能性を失うことにはならない、と判断した。

地方裁判所への差戻審の指針として、CAFCは、芝収穫機市場で定評のあるトレブロが、侵害被疑品を販売しようとしている新規参入者であるファイヤフライにビジネスを奪われようとしていると述べた。CAFCは、各当事者は販売差止の有無により、ビジネス上の著しい損害を被ることを証言しており、トレブロの638特許の仮出願はProSlab150に先行していると述べた。

さらにCAFCは、ファイヤフライが市場においてライセンス契約のない競合者にすぎないという証拠は、もしトレブロが侵害品を市場から排除するために特許権を行使できないならば、この特許の価値は著しく低くなることを示唆するものであると指摘した。

この判決のポイント

この判決は、特許権者がその特許を実施していなくても、競合製品が販売された場合には差止請求が可能であることを確認した。この判断を下す上で、裁判所は市場規模や競合製品に関する特許が出願された時期などの要因に注目した。

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