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月刊The Lawyers 2014年6月号(第175回)

1. Brain Life LLC 対 Elekta, Inc. 事件

No. 13-1239 (March 24, 2014)

- 一度非侵害判決が出ている製品に対する再度の侵害主張を、
既判力に基づき否定した事件 -

ブレイン・ライフ(Brain Life)は、米国特許第5,398,684号(684特許)の排他的実施権者である。684特許は、手術に用いられる映像の生成に関する装置クレーム及び方法クレームを含む。ブレイン・ライフは、MIDCO(Medical Instrumentatio-n Diagnostics Corporation)の684特許ライセンシーからの684特許に基づくサブライセンスを取得している。

1997年12月に、MIDCOはエレクタ(Elekta, Inc.)に対して特許の侵害訴訟を提起し、エレクタの製品が684特許を侵害する旨を主張した。当初、MIDCOは684特許の装置クレーム及び方法クレームの両方を主張した。

しかし、訴訟の過程でMIDCOは装置クレームに注力し、方法クレーム関する主張をおろそかにした。エレクタは、公判に先だって方法クレームに関する訴えの却下を地方裁判所に請求し、MIDCOはこれに反対しなかったので、地裁は方法クレームに関する訴えを却下した。裁判の結果、陪審員はエレクタの684特許の侵害を認めた。控訴審において、CAFCは地裁によるクレーム解釈の誤りを認定し、正しい解釈に基づくとエレクタの製品は非侵害であると判断した。

そこで、非侵害の判決を下すように事件を地裁に差し戻した。差し戻しの際、MIDCOは装置クレームより幅広い方法クレームを主張しようとしたが、地裁は事件を再開せず、非侵害の確定判決を下した。

そして、2010年7月に、ブレイン・ライフがカリフォルニア州南部で、エレクタの製品に対して684特許の方法クレームに関する侵害を主張し、訴えを提起した。ブレイン・ライフは、MIDCO事件の争点となった製品の後続バージョン及びエレクタの新製品(ERGO++)に対して侵害を主張した。しかし地裁は、MIDCOがMIDCO事件において684特許の方法クレームを主張する機会があったにもかかわらず、主張しないことを選択したのでクレームに関する既判力(claim preclusion)によってブレイン・ライフの訴えは認められないと判断した。ブレイン・ライフはCAFCへ控訴した。

CAFCはまず、ブレイン・ライフの訴えがクレームに関する既判力による拘束を受けるかについて判断した。以前の訴訟が(1)後の訴訟と同様の訴訟原因を有し、(2)確定判決が下され、(3)後の訴訟と同じ当事者の間で争われた場合、クレームに関する既判力により後の訴訟は認められない。

CAFCは、MIDCO訴訟中に争われたクレーム、及び争い得たクレームに対して既判力が適用され得ることに留意した。よって、方法クレームがMIDCO訴訟において却下されたにも関わらず、CAFCはブレイン・ライフの方法クレームの主張に関しては既判力が適用されると判断した。

CAFCはさらに、侵害行為はそれぞれ別の不法行為であると示した。従って、既判力はMIDCO訴訟における確定判決以前の侵害には適用される一方で、その後の侵害主張に関しては適用されない。よって、MIDCO訴訟の確定判決後のエレクタ製品による侵害に対するブレイン・ライフの侵害主張は、既判力により拘束されることはない。

また、CAFCは争点排除(issue preclusion)について検討した。争点排除により、既に法廷で争われた法律上の争点及び事実上の争点に関する後の訴訟は阻止される。CAFCは、前訴訟において方法のクレームは却下され、実際に争われなかったことを認識し、争点排除によってブレイン・ライフの訴訟が阻止されることはないと結論付けた。

CAFCはケスラー(Kessler)論についても検討した。ケスラー論は、特許侵害の主張に適用される除外論であり、Kessler対Eldred, 206 U.S. 285 (1907)の最高裁判決に基づくものである。

ケスラー事件において、インディアナ州地裁は、ケスラーの被疑製品であった電気ライターはエルドレッド(Eldred)の特許を侵害しないと判断した。エルドレッドは、ケスラーの顧客の一人に対してニューヨーク州西部で起訴した。ケスラーは、その訴訟に参加し、既に非侵害とされたライターに対してエルドレッドが侵害を主張する訴訟を起こすのを禁ずる目的で、インディアナ州において別の訴訟を始めた。最終的に最高裁判所は、インディアナ州の訴訟における確定判決はその後のケスラー製ライターの侵害を主張する訴訟を阻止すると判断した。

ブレイン・ライフの訴訟に関して、CAFCはMIDCOは684特許の装置クレーム及び方法クレームの両方をエレクタに対して主張したことに注目した。方法クレームは却下されたものの、MIDCOにはその方法クレームを追求する選択肢があった。よって、MIDCO訴訟において、一度裁判所が被疑侵害製品に対して非侵害を認めればMIDCO訴訟で主張されたクレームに関して、エレクタ製品がその後に侵害を主張されることはなくなる。さらに、ケスラー論は、基本的に同様な製品にも及ぶ。

よって、CAFCは、MIDCO訴訟の争点となった製品の後継機であるエレクタ製品にもケスラー論が及ぶと判断した。しかし、ブレイン・ライフはMIDCO訴訟で争点とはならなかった新製品(ERGO++)に関しても侵害を主張した。この製品に対しては侵害主張がケスラー論により妨げられることはない。CAFCは、エレクタの新製品に対してブレイン・ライフの訴訟を進めるように事件を地裁に差し戻した。

ブレイン・ライフ事件は、ケスラー論の適用法を示す。特許権者がある製品に関して侵害訴訟で一度負ければ、その製品は、主張に係るクレームの全てについて非侵害状態を保つことができる。よって、一度侵害を主張したクレームについては特許権者はそのクレームについて一通り争うことを検討すべきである。非侵害の判決は、主張された特許クレーム(却下された主張クレームも含む)に基づく、その製品に対する将来の主張を阻むものとなる。

この判決のポイント

この判決でCAFCは、ある製品について以前に非侵害が判断された場合、ケスラー論及び既判力によってその製品に対する同じクレームに基づいて後の裁判で侵害の主張を新たに行うことを禁止した。しかし、以前の訴訟の影響力は新しい製品に対して及ばず、侵害を新たに主張できる。

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