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月刊The Lawyers 2014年3月号(第172回)

2. Institut Pasteur & Universite Pierre et Marie Curie 対 Focarino 事件

No. 2012-1485 (December 30, 2013)

- 非自明性の立証のための二次的考慮事項の重要性と、
二次的考慮事項の候補を論じた判決 -

パスツール研究所(Institut Pasteur)事件において、CAFCは、USPTOの審判部(PTAB)の再審査手続きにおける、パスツール研究所の3つの特許のクレームの自明性を認めた拒絶の決定を、一部破棄し、一部覆し、事件を差し戻した。

争いは元々、プレシジョン・バイオサイエンス(Precision BioScience)が、パスツール研究所の3つの特許それぞれに対して当事者系再審査を請求したことから始まった。再審査において、USPTOは、自明性に基づいていくつかのクレームを拒絶した。控訴を受けたUSPTOの審判部は、クレームの発明は、2つの先行技術文献の発明の延長線上に過ぎず、自明であると判断して拒絶を維持した。

係争特許は、真核生物染色体への遺伝子の部位特異的導入のための方法及びツールに関する。争点は、先行技術文献が開示する遺伝子の標的化された変更方法を、原核細胞における非染色体DNAの代わりにイーストや哺乳動物細胞等の真核細胞における染色体DNAに対して使用する動機、及び成功への合理的な期待を当業者が持てたかどうかであった。

CAFCは、動機及び成功する合理的な期待は認められないとして、審判部の自明性の判断を覆した。CAFCは、審判部は事実判断を誤っているとし、特許発明のライセンシング及び業界における人気度を含む、非自明性をサポートする有力な客観的証拠が存在すると判断した。

また、CAFCは、審判部の、成功に関する期待についての評価が誤っていたと判断し、成功に関する合理的な期待をサポートする証拠が、先行文献から選択された動機をサポートしていないと判断した。

真核細胞に対して、特許による遺伝子の標的化された変更方法を利用する動機に関して、審判部は、生きた動物細胞の染色体における遺伝子のコピーにこのような変更を導入できれば望ましいとの記載があった文献に注目した。

審判部は、成功への合理的な期待の判断において、問題となっているクレームは、明白に細胞の生存可能性を維持することを必要としていないことに留意し、先行文献に教示されていた毒性を無視した。

CAFCは、この教示は、当業者にとって、生きた動物細胞での発明による遺伝子の標的化された変更方法に合理的な期待を持てたかが強く影響するため、審判部は特性の教示を誤って無視したと判断した。

さらに、CAFCは、非自明性をサポートする客観的証拠(例えば、ライセンシング、業界における高評価、特許発明の模倣)の重要性を強調し、そして自明性に関する判断において、このような証拠を考慮すべきことを示した。

CAFCは、この非自明性の客観的証拠は、記録の中でも最も価値のあるものの可能性があり、後知恵のバイアスを防ぐために有力である可能性を示した。

パスツール研究所は、特許技術の独占的実施権者が、第三者に1ダース以上のサブライセンス契約を結び、第三者に発明の実施権を与えたことを証明する証拠を提示した。パスツール研究所はさらに、このようなサブライセンス契約を詳細に記載するプレスリリースを提示し、そのサブライセンシーは、BASF Plant Science、Bayer CropScience、Biogen Idec、Monsanto、及びPioneer Hi-Bred Internationalを含んだ。

審判部は、パスツール研究所が、ライセンスは特許のクレーム以外に記載されている事項、または関連する特許のクレームの発明ではなく、問題の特許のクレームに記載されている事項に対して実施許可を求めてライセンスが与えられたことを明確に立証しなかったため、この証拠を無視した。

CAFCは、パスツール研究所のライセンシング活動に関する審判部の厳しいアプローチに賛成できず、審判部が挙げた理論的な可能性では、非自明性を示すライセンシング証拠の有力性が壊れないと判断した。

CAFCはさらに、審判部が、特許発明の自明性に評価において、業界における高評価の証拠を誤ったと判断し、審判部の、先行文献において相同的組み換えのステップが開示されているという判断が間違っていたと主張した。CAFCは、業界における高評価の証拠は、発明の非自明性を示す客観的証拠のもう一種類として認めた。

なお、CAFCは、パスツール研究所が提示した模倣の証拠も、その証拠には拠らなかったが、考慮した。パスツール研究所は、他の科学者が同じ遺伝子の標的化された変更方法を応用したことを示すために、パスツール研究所がクレームの方法を科学誌で発表した後に発表された論文の抜粋を20件以上提示したのである。

CAFCによると、審判部は、パスツール研究所が、引用した論文が以前のパスツール研究所の発明の発表に由来すること、またはその引用論文の作者がパスツール研究所のソースにアクセスできたことを示さなかったことに基づき、模倣に関する証拠の解析を時期尚早に止めた。

CAFCは、この証拠の不十分な解析に関し、審判部を非難し、説得力のあるパスツール研究所が公開した方法の模倣の証拠は、さらに非自明性の結論をサポートすると主張した。

パスツール研究所判決は、自明性に関する、確立されたルールを強調する。この判決は、自明性を主張する者は、先行技術が特許発明を実施する動機及び成功する合理的な期待を与えることを立証する必要があることを示している。

この判決のポイント

この判決は、自明性を主張する者は、先行技術により特許発明を実施する動機と成功への合理的な期待を立証する必要性を説示している。CAFCは、自明性の全体的な評価において「二次的考慮事項」を重視していることを強調した。また、ライセンスの実績、業界における高評価、第三者による発明の模倣などを自明性の解析の要素に取り上げた。

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