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月刊The Lawyers 2014年2月号(第171回)

2. Galderma Labs 対 Tolmar, Inc. 事件

No. 2013-1034 (December 11, 2013)

- 数値範囲が先行技術を含む数値範囲限定特許の有効性の判断基準を論じた判決 -

ガルデルマ(Galderma Labs)事件において、CAFCは係争対象のクレームが当業者にとって自明ではなく有効であると認定した地方裁判所の判決を破棄した。

この係争のきっかけは、トルマー(Tolmar)が、ガルデルマの特許権に関するアクネ治療用の局所用薬剤のジェネリック版を販売する準備としてFDA医薬品簡略承認申請したことにある。

ガルデルマはハッチ・ワックスマン法に基づいて特許権の侵害で告訴した。非陪審審理の結果、地方裁判所はトルマーに不利な判決を下した。トルマーは、自明性のみにつき控訴した。

係争対象となったクレームは、アクネ治療用の局所用医薬製剤(ゲル状またはクリーム状)を対象にするクレームである。製剤はアダパレンという有効成分を0・3重量%及び少なくとも1つの不活性賦形剤を含む。

トルマーの自明性の主張は3つの先行文献に基づいていた。Shroot720特許、Shroot440特許、及びガルデルマのDifferin® 0・1%ゲル製品の「データシート」であった。Shroot特許は、アクネの治療において、具体的にアダパレンを有効成分として0・001%から1%の濃度範囲で開示している。

データシートは、ガルデルマの以前の0・1%ゲル製品の説明文書であって、アクネの治療用にアダパレンを0・1%の濃度で開示している。トルマーはさらに、ヒトへの適合性を示すために動物モデルに使用する、アダパレン0・3%を含むローションを記載した先行文献及びそれに類似する文献も提示した。

CAFCは、トルマーによる無効の主張は理解しやすく、もっともであると認めた。Shroot特許は、係争特許のクレームに記載されている0・3%という厳密なアダパレン濃度及び具体的な他の不活性成分を除く、係争特許のクレームに含まれている他の全ての要素を開示していた。具体的な他の不活性成分に関してはデータシートの先行技術が教示していた。

控訴審における唯一の争点は、アクネ治療用にアダパレン0・3%の組成物を使用することが自明であったか否かであった。トルマーは、クレームの内容が、周知の組成物を、周知の用途に、先行文献に開示された範囲内の濃度で使用することに過ぎないことを理由に、特許発明は自明であったと主張した。

地方裁判所は、アダパレンの濃度を0・1%以上に上げると副作用の発生率が共に上がる傾向を証拠が示しており、特許発明が予測できない結果に基づき、商業的成功を収めたことを理由に、特許発明は自明ではなかったと認定した。

一方で控訴審においてCAFCは、特許発明が先行文献に開示された範囲内に入る数値を主張する場合、特許権者は、@先行文献が特許発明に対する阻害要因を教示していること(『teach away』していること)、A結果は先行技術に対して新規であり、予測できなかった結果であること、または、B非自明性を示す適切な「二次的な考慮」について、立証する責任を負うと示した。

CAFCは、先行文献が特許発明の阻害要因を教示していると判断した地方裁判所の認定を覆した。まずCAFCは、アダパレンの濃度を0・3%に上げることが、0・3%アダパレンを含む製品の開発を断念させるような重篤な副作用を起こす原因であるとは、先行文献のいずれにも明記されていないと認定した。

次にアダパレンの最適濃度を0・1%と明記している先行文献が本件の特許発明を想到することを阻害していると判断した地方裁判所の認定を、CAFCは覆し、文献が特許発明を非難するか、疑うか、またはその他に発明の開発を思いとどまらせるような記載をしていないかぎり、特許発明を阻害するとは言えないと判断し、特定の組成が最適であるという記載は、他の組成を非難するまたは疑うことにはならないと認定した。

CAFCはさらに、0・1%アダパレンおよび0・3%アダパレンの同程度の耐容性は先行技術から予期できなかったという地方裁判所の認定を破棄し、非自明性の証拠となる予期せぬ結果は、「程度」の違いではなく「質的なあるいは種類」の違いでなければならないと説明した。

CAFCは、アダパレンの濃度を0・1%から0・3%に変更することは、その結果は当時の当業者になし得たものであるため、「程度」の違いであると判断したのである。

最後に、CAFCは、特許製品の商業的成功が非自明性を裏付けると認定した地方裁判所の判決を破棄した。CAFCは、特許期間を満了したShroot特許は、2010年まで、すなわち、ガルデルマが対象クレームの0・3%アダパレン組成を発明したはるか後まで、0・3%アダパレンの製品の市場参入を阻止していたと認定した。

従って、ガルデルマ以外の企業は2010年以前に0・3%の組成物を市場へ出すことに成功することはなかった。よって、0・3%アダパレン製品の商業的成功は非自明性の立証証拠としては最低レベルの価値しかないと、CAFCは結論付けた。

ガルデルマ判決は、先行技術がクレームにおける具体的な有効成分の濃度を含む広い範囲を教示する際の、医薬品または化学製品に関する特許無効の抗弁の指針を示している。

先行技術が特許発明の想到を阻害していることを示す証拠、先行技術に対して予期せぬ結果が得られたことを示す証拠、または商業的成功のような「二次的な考慮」の主張に役立つ証拠を特許権者が提出できない限り、このような事件では特許無効を主張する者が勝利する可能性がある。

この判決のポイント

特許発明が数値範囲をクレームしている場合に、先行技術文献がその範囲に含まれる一部の数値を開示していることがある。この場合に、特許発明が有効であるためには、@阻害要因、A予測不可能な結果、または、B二次的な考慮を特許権者は立証しなければならない。予測不可能な結果については、「程度」の違いではなく「質的な」違いでなければならない。

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