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月刊The Lawyers 2013年12月号(第169回)

1. nCUBE Corporation 対 SeaChange International, Inc. 事件

No. 2013-1066 (October 10, 2013)

- 判決で侵害が認定された後の設計変更品の再度の侵害を論じた判決 -

2009年に、アリス(ARRI-S Group, Inc.)は、シーチェンジ(SeaChange International, Inc.)が終局的差止命令を無視したと申し立てた。アリスは、ネットワークを介してマルチメディア情報を送信できるメディアサーバに関するUS特許第5,805,804号(804特許)を保有する。

アリス及びシーチェンジは共にビデオ・オン・デマンド製品及びサービスを提供していたが、2002年にシーチェンジの804特許侵害を認める判決が出た。この判決に対する控訴審後、地方裁判所は、804特許を侵害する製品の販売を禁ずる終局的差止命令をシーチェンジに対して下した。

804特許のあるクレームは、「アップストリーム物理アドレスを用いて接続サービステーブルを更新する」要件を持つ。シーチェンジの製品「ITV」は、「クライアントID」及び「セッションID」という識別子を含む、一連の識別子を利用する。「クライアントID」及び「セッションID」の識別子両方は、6バイトのMACアドレスと他の情報を含む。侵害論に関する公判において、アリスの専門家は、ITVの「クライアントID」がクレームの「アップストリーム物理アドレス」の要件を満たし、ITVの「接続テーブル」がクレームの「接続サービステーブル」要件を満たす旨を証言した。

アリスもアリスの専門家も、セッションIDが「アップストリーム物理アドレス」であり得ることを一切言及しなかった。

侵害が認定された後、シーチェンジは、接続テーブルがクライアントIDを受けつけないようにITV製品を変更した。設計変更後の製品では、クライアントIDの処理は接続テーブルではなく、別の場所で行われた。但し、接続テーブルは依然としてセッションIDを受けつけていた。

CAFCはまず、差止の請求人は、(1)新たに訴えられた製品が、侵害が認定された製品と実質的に相違しない(もっともらしい相違を超える相違がない)こと、及び(2)当該製品が特許権を侵害することを証明する必要があると述べた。TiVo Inc. Vs. EchoStar Corp., 646 F 3d 869,882-83(Fed. Cir. 2001)(en banc)の基準によると、旧要素と新要素が著しく異なる場合、新たな侵害被疑品に対して、実質的な相違を有すると認められ、命令違反に相当しないと判断される(それに反して、単に「もっともらしい」違いがあるだけでは、確実に命令違反が認定されないとは言えない。この場合、「もっともらしい」は、「明らかでありながら、法律的には不十分」を意味する)。

CAFCは、もっともらしい違いを超える相違点の有無を判断する際に、特許権者がクレームの要件を満たすと主張し証明した侵害品の要素に着目した。CAFCはさらに、以前に侵害を認定された要素が変更または取り除かれた場合、その変更が実質的な変更である限り、新たに訴えた製品は、もっともらしい違いを超える相違点を有すると認められると述べた。

アリスは、クライアントIDとセッションIDとの違いは、実質的な違いではないため、もっともらしい相違を超えないと、強く主張した。しかし、地方裁判所は、「アップストリーム物理アドレス」の要件を満たすことが証明されているのはクライアントIDだけであると認定した。

地方裁判所はさらに、変更されたITV製品のクライアントIDは、旧製品におけるクライアントIDと同じ役割を果たすが、それは両側の当事者が非侵害であると認める方法(別の場所で行われるため)により実施されると述べた。

よって、地方裁判所は、アリスは明白かつ確信を抱くに足る証拠を提示して、二つのシステムそれぞれにおけるクライアントIDの間にもっともらしい相違点しか存在していない(実質的な相違点が存在しない)ことを示していないと認定した。

地方裁判所はさらに、セッションIDがこの要件を満たすことは裁判において示されなかったため、アリスはセッションIDに基づく主張はできないと述べた。

控訴審において、CAFCはアリスの主張を却下し、地方裁判所の判決を支持し、クライアントIDの機能性に関する違いは、地方裁判所が述べた理由により変更されたITV製品における実質的な違いであると認定した。

いくつかの主張の中、アリスは新製品と旧製品との接続テーブルの比較が欠けていたため、地方裁判所の分析に欠点があると強く主張した。具体的に、アリスは新製品(セッションIDを介する)及び旧製品(セッションID及びクライアントIDを介する)の両方における接続テーブルは6バイトMACアドレスを受けると主張した。アリスは接続テーブルに関するこの相違点は実質的な違いであると主張したのである。

CAFCは、アリスが裁判において、侵害を表すためにMACアドレスを示さなかったため、この主張を却下し、アリスはクライアントIDのみを主張し、そしてセッションID及びクライアントIDは異なる機能の実行のために使用されると述べた。

アリスはさらに、裁判に侵害を示す全ての可能性を主張しなかったこと、そしてセッションIDも「アップストリーム物理アドレス」の要件を満たすと示す義務はなかったことを主張した。

CAFCは、全ての可能な侵害方法を示す必要はなかったというアリスの主張に同意した。しかし、CAFCは、もっともらしい違いの基準は、クレームの要件ではなく、特許権者がどのように侵害を示したかに注目しているため、この主張を有力な主張としては見なさなかった。

この事件は、差止命令に関する侮辱罪を免れるために、どの程度の迂回設計が必要かについて、ガイダンスを提供する。例え侵害者が侮辱罪の判決を免れても、設計変更された製品に対する別の侵害訴訟を避けたわけではない。

この判決は、侮辱罪の認定は、侵害訴訟において提示された証拠の範囲を超える可能性が低いことを示す。場合により、侵害被疑品がクレーム要件を満たす要素を一つ以上含むことがあれば、特許権者は、一つ以上のその要素がクレーム要件を満たすことを主張することが望ましいといえる可能性がある。

この判決のポイント

この事件において、特許権者は、侵害品とそれに対する設計変更後の製品との間にもっともらしい違いを超える相違点がないことを証明できなかったため、CAFCは設計変更後の製品の販売行為に対する終局的差止命令違反の申立を却下した地方裁判所の判決を支持した。

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