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月刊The Lawyers 2013年10月号(第167回)

2. Federal Trade Commission 対 Actavis, Inc. et al. 事件

No. 12-416 (June 17, 2013)

- ブランド製薬会社とジェネリック医薬品会社間の逆支払による和解は独占禁止法違反でないとした事件 -

連邦取引委員会(FTC)対アクタビス(Actavis)事件において、最高裁は、製薬会社が「リバースペイメント(Reverse Payment:逆支払い)」または「Pay to delay(遅延のための支払い)」と呼ばれる特許侵害の和解をすることによって、非競争的な訴訟手続を行ったというFTCの主張を退けた第11巡回区控訴裁判所(CAFC)の判決を破棄した。

最高裁はこのような逆支払による和解は独占禁止法に違反している可能性があると判示している。

この訴訟は、ブランド製薬会社とジェネリック製薬会社との間で「逆支払」または「Pay to delay」として知られる訴訟手続に関する。1984年医薬品の価格競争と特許期間回復法(ハッチ・ワックスマン法)に基づき、ブランド医薬品のジェネリック版の製造を希望する製薬会社は、そのジェネリック版が、ブランド医薬品の製薬会社が持つ有効な特許を侵害していないことを証明しなければならない。21USC§355(j)(2)(A)(vii)(IV)(パラグラフIV証明)に基づき、ジェネリック医薬品の製薬会社は関連するブランド医薬品の特許の無効、あるいはその特許を侵害することなくジェネリック医薬品の使用および販売していることを立証しなければならないのである。

被告のソルベイ(Solvay Pharmaceuticals)は、食品医薬品局(FDA)が認可したブランド名AndroGelの薬に特許を取得した。被告のアクタビス(Actavis, Inc.)とパドック (Paddock Laboratories)(共にジェネリック医薬品の製薬会社である)は、パラグラフIV証明の提出に続き、AndroGelのジェネリック医薬品の製造をFDAに申請し、両社の医薬品はソルベイの特許を侵害していないことを証明した。

それに続いて、ソルベイはアクタビスとパドックを特許侵害で提訴した。訴訟を解決するために、アクタビスは、ジェネリック版を一定期間市場に出さないことを条件に和解契約を結んだ。パドックとパー(Par Pharmaceuticals)もソルベイと同様の契約を結んだ。

これらの契約に基づき、ソルベイ(特許権者)は、既にその特許による排他的権利を持っているにもかかわらず、侵害被疑者であるアクタビス、パドックおよびパーが市場参入しないことに対し対価を支払った。

連邦取引委員会(FTC)は、侵害被疑者らが違法に特許に対する無効申立てを取り下げることに同意し、低価格のジェネリック医薬品の発売を控え、その代わりにソルベイの独占的利益の一部を享受することに決めたと主張し提訴した。

CAFCは、除外された競争は特許によって与えられた権利を逸脱するものではないので、FTCが違法と主張する契約は独占禁止法違反ではないとして、FTCの主張を棄却した地方裁判所の判決を支持し、独占禁止法違反を避けるために訴訟を継続することを裁判当事者に課することはできないと述べた。

最高裁は、CAFCの判決を取り消し、逆支払による和解は独占禁止法違反の調査を免除するものではないと判示した。しかしながら最高裁は、逆支払による和解は推定上違法ではないが、裁判所はこのような和解の評価において「合理の原則」の分析をすべきであると明示した。

最高裁は、特許の不適切な権利行使は独占禁止法に違反する可能性があり、過去の判例は、特許関連の和解合意は独占禁止法違反である可能性を明らかにしていると述べた。

最高裁は、非競争の制限期間の長さあるいは量を考慮する上で、CAFCが特許期間の長さ、または権利者の潜在的な獲得利益だけを考慮したのは誤りであると認定した。代わりに最高裁は、競争制限効果、競争上の利益、および市場支配力、といった伝統的な独占禁止要因は、競争の制限が合理的であるか否かを判断する上で、特許明細書の文脈の中においても考慮しなければならないと述べた。

次に最高裁は、係争の和解を好ましいとする一般的な方策が、この事件の結果に影響すべきではないという結論に至る上で、以下の5つの検討事項を考慮した。

第一に、もし特許が無効または非侵害であるとの認定をされれば、ジェネリック医薬品は流通が可能となり、医薬品価格は下落したであろうと述べた。逆支払による和解が高い医薬品価格を維持し、それによる利益がブランド医薬品会社とジェネリック医薬品会社の両者によって分配されることになる。こうして、ブランド企業の特許が無効になる可能性があった場合でも、逆支払による和解により競争を排除することが可能となる。

第二に、逆支払が訴訟に進展しないことによって浮いた費用に基づいている、あるいはジェネリック医薬品会社が実行を約束した他のサービスへの補償を反映したものであると、最高裁は判断した。しかしながら、独占禁止行為をしたとされる被告は、合理の原則の分析に基づく独占禁止行為の調査をクリアできることを示さなければならない。

第三に、特許権者は競争可能なレベル以上の高額な価格設定をすることにより、非競争的損害を引き起こす力を持っていると、最高裁は述べた。逆支払は非競争的損害の可能性を長引かせると思われる。

第四に、最高裁は、逆支払の規模は特許の弱さの判断材料となることから、独占禁止行為は特許の有効性の判断なしに立証可能であると述べた。

第五に最高裁は、逆支払を独占禁止法違反の調査の対象とすることは、係争当事者に和解させないようにするものではない、と説明した。要するに、最高裁は、これらの考慮は和解を望む一般的な推定に勝ると述べた。

最後に最高裁は、逆支払の契約は推定上違法ではないと判断し、裁判所はそのような契約を審理する上で「合理の原則(rule of reason)」ではなく、「略式の合理の原則(quick look approach)」を採用すべきであると述べた。逆支払による和解の複雑さから、最高裁は、FTCは合理の原則に基づいて事件を証明する必要があると結論付けた。

反対意見としてロバーツ主席判事は、スケーリア判事、トーマス判事と共に、特許権者による特許の範囲内のあらゆる行為は特許侵害訴訟の和解を含めて許容されるべきであると主張した。主席判事は、特許がもたらす権利を超える独占権が和解手続きによってソルベイに与えてられているか否かを判断することが適切な分析であると述べたのである。

さらに、競合者が特許の無効を主張しなかったことが独占禁止法違反を構成しうるという判断を、最高裁はいまだかつてしたことがないと述べた。反対意見によると、多数派判決は、特許による保護を弱体化し、特許訴訟の解決に金銭的和解をしようとする製薬会社の動機を削ぐものであるように見受けられる。

この判決は、逆支払による和解の合法性に関して、違法ではないとの推定がされたものの、いささか不確実であることを明らかにしている。逆支払の和解手続きを進める前に当事者は、その和解が潜在的に独占禁止法に抵触しないかどうかを分析する努力をすべきであると思われる。

この判決のポイント

この事件において最高裁は、ブランド製薬会社とジェネリック医薬品会社との間の逆支払による和解手続きは独占禁止法違反にはならないとの多数派判決を下した。このような逆支払の和解手続きの独占禁止法違反の判断には、「合理の原則」に基づく分析が必要との見解を示した。

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