1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2013年
  4. 2. Lazare Kaplan International, Inc. 対 Photoscribe Technologies, Inc. 事件

月刊The Lawyers 2013年7月号(第165回)

2. Lazare Kaplan International, Inc. 対 Photoscribe Technologies, Inc. 事件

No. 2012-1247 (April 19, 2013)

- 非侵害・特許有効の判決に対し、特許権者が非侵害判決のみを控訴した場合に
侵害被疑者がなすべき主張を明らかにした事件 -

この判決は、ニューヨーク州南部地区地方裁判所においてラザール・キャプラン(Lazare Kaplan International)がフォトスクライブ(Photoscribe Technologies)に対して提起した特許権侵害訴訟における2回目の控訴審の中で行われたものである。

侵害主張の対象となった特許権は、ジェムストーンに小さな刻印を刻むためにレーザーを使用する方法およびシステムをクレームしている。

最初に地方裁判所で行われた訴訟において、文言侵害を否定する略式判決を求めるフォトスクライブの申し立てを裁判所が認めた後で、陪審員は、侵害が主張されたクレームについて均等論の下でもフォトスクライブは非侵害であると判断した。

地方裁判所は、侵害が主張されたクレームは無効ではないが、非侵害という終局判決を出した。ラザール・キャプランは非侵害の判決に関して控訴したが、ここで重要なこととして、そのクレームが無効ではないという判決に関して控訴しなかった。

最初の控訴審で、CAFCは、主要な発明特定事項に関する解釈を拡大した。その結果、CAFCは、文言侵害を否定した略式判決を取り消し、均等論の下で侵害を否定した陪審員評決も取り消した。

差戻し審で、フォトスクライブは、クレーム解釈が拡大されたことを理由に、侵害および有効性の両方について再度審理されるべきであると主張した。地方裁判所はこれに同意した。地方裁判所は、有効性に関する陪審員評決が誤ったクレーム解釈に基づいていたので、有効性について再度審理されるべきであると判断した。

フォトスクライブは、特許無効の略式判決を求める申し立てを行い、地方裁判所による先の特許有効の判決について規則60(b)に基づく救済を求める申し立てを行った。地方裁判所は、いずれの申し立ても認めた。ラザール・キャプランは控訴した。

CAFCの分析は、控訴審において相手方の権利を縮小したり自己の権利を拡大したりすることを求める場合、その当事者は交差上訴しなければならないという規則に言及することから開始した。ラザール・キャプランは、フォトスクライブが交差上訴せずに先の判決におけるラザール・キャプランの権利を縮小しようとしているため、この規則によって有効性に関する判決を蒸し返すことが禁じられるべきであると主張した。

CAFCはこれに同意し、フォトスクライブが差戻し審において特許無効を主張することを地方裁判所が許可したことは誤っていると結論付けた。CAFCは、特許無効の概念と侵害の概念とが相互に関連しているという地方裁判所の論理は、無意味であると考えた。

CAFCは、いかなる侵害被疑品も無効なクレームの特許権を侵害するおそれはないため、地方裁判所が特許無効を判断したことはラザール・キャプランの権利を縮小するものであると説明した。地方裁判所の先の判決の下では、ラザール・キャプランはフォトスクライブの侵害被疑品以外の製品に対しては自由に特許権を行使できたはずである。

CAFCは、地方裁判所が認めた救済は交差上訴の規則を不適切に迂回するものであるため、規則60(b)はこの救済をもたらすことができないと判断した。CAFCは、交差上訴の規則および規則60(b)は安定を促進すること(promoting repose)に関する共通の理論的根拠が存在すると説明した。

CAFCによれば、交差上訴の規則を犠牲にして規則60(b)の救済を認めることは、この共通の理論的根拠を害することになるというのである。

CAFCは、フォトスクライブが不利な判決について控訴することを妨げる何かがあったとは主張していないことに注目した。むしろ、フォトスクライブは、特許有効に関する不利な判決について意図的に交差上訴しないことを決定した。

CAFCは、控訴審においてCAFCがクレーム解釈を拡大した場合は侵害主張の対象となったクレームが無効になるかもしれないということをフォトスクライブは主張できたはずであるから、条件付きの交差上訴において提示すべき論点をフォトスクライブが知ることができたはずであるということを説明した。

なお、ティモシー・デュク判事は反対意見を述べている。侵害が主張されたクレームに対しては有効性を判断する目的と侵害を判断する目的とで同じ解釈が与えられてはいない。そのため、多数意見は誤っていると主張した。

デュク判事は、最高裁判所の判例の下では、控訴審の判示事項(appellate mandate)は一般的には地方裁判所が規則60(b)の下で判決からの救済を認める権限を制限しないと述べ、条件付きの交差上訴を行わなかったことが規則60(b)の救済を妨げるという多数意見を支持する拠りどころは存在しないと主張した。

デュク判事によれば、控訴審においてフォトスクライブは地方裁判所の判決によって確立された権利を変更しようとしたのではなく維持しようとしたのであるから、フォトスクライブには条件付きの交差上訴を行う義務は無かったというのである。

ラザール・キャプラン事件は、特許権を攻撃する者が条件付きの交差上訴を行うべき状況についての助言を与えるものである。地方裁判所が非侵害および特許有効の判決を行い、特許権者が非侵害判決について控訴した場合、特許権を攻撃する者は、特許無効を主張する権利を保持するために特許有効の判決についても条件付き交差上訴を行わなければならない。

この判決は、そのような条件付き交差上訴を行わない場合、特許権を攻撃する者が差戻し審において特許無効の主張を行う権利を放棄したことになるということを示している。

この判決のポイント

この判決では、侵害被疑者が条件付きの交差上訴を行うべき状況が判示された。具体的には、地方裁判所が非侵害および特許有効の判決を行い、特許権者が非侵害判決についてだけ控訴した場合に、侵害被疑者は特許有効の判決についても条件付き交差上訴を行わなければならない。そのような条件付き交差上訴を行わない場合、侵害被疑者が差戻し審において特許無効の主張を行う権利を放棄したことになる。

  1. トップページ
  2. 米国連邦裁判所(CAFC)判決
  3. 2013年
  4. 2. Lazare Kaplan International, Inc. 対 Photoscribe Technologies, Inc. 事件

ページ上部へ