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月刊The Lawyers 2013年1月号(第159回)

1. Hor 対 Chu 事件

No. 2011-1540 (November 14, 2012)

- 特許後に発明者の訂正できる米国で、
その訂正を求める権利の発生時点を判断した判決 -

この事件においてCAFCは、除外された発明者が争点の特許の付与された事実を知るまで、もしくは知り得た筈である時点までは、米国特許法第256条に基づく発明者の訂正は成立しないと判示した。

争点の特許は1987年および1989年に出願され、それぞれ2006年、2010年に特許が付与された。チュー(Chu)はこれら2つの特許の単独の発明者であった。ホー(Hor)とメン(Meng)はチューの同僚で、これらの特許の共同発明者であると主張していた。

2008年12月、ホーは先に付与された特許に対し、第256条に基づく発明者の訂正を求めてチューを提訴した。メンは2010年初頭に訴訟に加わった。

チューは、ホーとメンが、最終的に争点の特許についての発明者として二人が記載されていなかったことを、1987年までに知っていたか、または当然に知り得た筈であることを理由に、ホーとメンの第256条の権利は懈怠により認められないとする略式判決の申し立てをした。

地方裁判所は、ホーとメンの主張に懈怠の推定を認め、また誰もその推定に対し十分に反論しなかったと結論付け、チューの主張を認めた(懈怠は、不当な遅延が相手方に不利益をもたらす場合に行う衡平法上の抗弁である)。

地方裁判所はホーとメンの汚れた手による抗弁を却下し、発明者であるとの主張は衡平法上の禁反言により認められないと判断した(汚れた手による抗弁は、原告が不正行為をした場合に行う衡平法上の抗弁である)。

控訴審においてCAFCは、ホーとメンの主張が懈怠および衡平法上の禁反言の両方から認められないと認定した地方裁判所の判決を破棄した。しかしながら、ホーとメンの汚れた手の抗弁についての地方裁判所の裁定は支持した。

懈怠の抗弁に打ち勝つために、被告は(1)原告による提訴の遅延が不当で弁解不能であること、および(2)遅延を起因とする物質的損害を被告が被ったことを立証しなければならない。256条に基づく発明者の訂正を要求する権利が生じてから6年間もの遅延は、反論可能な懈怠の推定を生ずる。

地方裁判所は、ホーとメンの権利は、特許付与より前、遅くとも1990年までには生じていたと認定した。この認定を却下する上でCAFCは、発明者から除外された真の発明者がその発明に特許が付与されたことを知った時点、または当然に知り得た筈の時点までは、米国特許法第256条に基づく発明者の訂正の権利は成立しないと判断した。CAFCのこの判決は、制定法上の文言と判例法に基づいていた。

地方裁判所の懈怠の認定は、ホーとメンの主張が第256条に限定されず、むしろ特許法第116条に基づく発明者の訂正に関わり、また第135条のインターフェアレンスの手続きを引き起こすという結論を前提にしていた。

CAFCは、これらの手続きは第256条に基づく特許付与後の発明者の訂正手続きの代わりとなるものではないと判断して、地裁の認定を否認し、特に第116条の規定に基づく発明者の訂正には、全ての当事者の同意が必要であり、本件の発明者に関する係争とは異なるので、第116条を代用することを検討対象から外した。

さらに、第135条のインターフェアレンス手続は特許付与後に行われることがあるが、第256条の主張に対する懈怠は特許が付与される前には成立しない。

CAFCはさらに、特許手続きの本質からして特許の成立以前には、発明者の認定が難しいと認めた。特に、クレームは審査手続きの間に通常、狭く限定したり削除したりするものであり、除外された発明者は特許が付与されるまではクレームを知り得ない。

地方裁判所の、被告であるチューの主張を認めた衡平法上の禁反言の認定について、CAFCは、通常、積極的抗弁は自発的に提起されるべきではないと判示した。さらにCAFCは、地方裁判所が敗訴側に必要なこの争点の通知をしていなかったことを見出した。したがって、CAFCは衡平法上の禁反言に関する地方裁判所の判決を破棄した。

最後に、CAFCはホーとメンの汚れた手の抗弁を地方裁判所が却下したことを支持した。状況に基づき、汚れた手の抗弁は、(1)被告が不正行為をしたこと、および(2)被告の不正行為が原告の提訴の遅延原因であったことを原告が立証することを要件としていた。

ホーとメンはチューの弁護士の行為をチューに転嫁しようと試みた。CAFCは、汚れた手の抗弁の目的で、被告の弁護士の行為を被告に転嫁することにより立証する権限は原告にはないと判断した。さらに、原告は、彼らの発明者としての権利を速やかに主張しなかったことに関して、弁護士の不正行為の主張に依拠した証拠を何も示さなかったと判断した。

この判決は、発明者から除外されたために発明者の訂正を望む者(発明者)に与えられる十分な機会について明らかにした。特許実務者は、これらの潜在的リスクを顧客に説明し、審査手続きにおけるクレーム範囲の変更による発明者の変更の可能性について常に注意を払うべきである。

この判決のポイント

この事件は、米国特許法第256条の発明者の訂正を求める権利の起算点を取り扱った。256条は特許付与後に発明者を訂正する手続なので、米国特許法第256条に基づく発明者の訂正の権利は、発明者から除外された者(発明者)がその特許が付与された事実を知った時点、または当然に知り得た筈の時点で、訂正を求める権利が生まれ、それ以前には生じない。

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