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月刊The Lawyers 2012年9月号(第155回)

1. Bard Peripheral Vascular, Inc. 対
W.L. Gore & Associates 事件

No. 2010-1510 (June 14, 2012)

バード(Bard)事件において、CAFCは、故意侵害の判断に必要な「客観的無謀性(objective recklessness)」に関する閾値テストは、陪審員ではなく裁判官が判断すべき法律問題であり、控訴審において一から検討すべきもの(de novo review)と判断した。

米国特許法第284条の下では、故意侵害が認定されると、懲罰的損害賠償(enhanced damages)を得ることができる。In re Seagate Technology, LLC (シーゲイト事件)の判例では、裁判所は、故意侵害を立証するための2分岐テスト(two-pronged test)を生み出した。

これによれば、(1)侵害被疑者が、自己の行為が有効な特許権の侵害を構成する可能性が客観的に高いにも関わらず、そのような行為を行ったという明白で説得力のある証拠と、(2)侵害被疑者がこの客観的に明確な侵害リスクを知っていたか、または知っているべきであったということと、が必要とされる。しかしながら、シーゲイト事件の判決では、この基準の適用に関わる幾つかの問題が処理されなかった。

バード事件のCAFC判決は、1974年に最初に出願された米国特許第6,436,135号に関する長期に亘る争いにおける最新の判決である。米国特許第6,436,135号は、人工血管(prosthetic vascular grafts)をカバーするものである。2012年2月10日、CAFCは、原告であるバードの主張を認め、特許権侵害の判決を支持した。

この判決に続き、被告であるゴア(Gore)は、大法廷における再審理を求める請願を行い、下級裁判所による故意性の分析が不正確であることに基づき判決を覆すようにCAFCに求めた。

CAFCの大法廷は、請願を認め、特許権の侵害行為における故意性の問題に適用可能な再審理の基準(standard of review)を明確化するか否かを判断することだけを目的として、先の判決を下したのと同じ3名の判事による合議体に対して事件を差し戻した。

合議体は、故意性に関する根本的な問題は事実問題として扱われてきたものの、そのようなアプローチが常に適切なわけではないと判断した。先行する諸判決によれば、侵害被疑者が侵害の訴えに対する合理的な防御に依拠する場合にはシーゲイト事件の「客観的無謀性」の閾値は充足されない。

防御が合理的であるか否かは、侵害の申し立てに対する可能な防御に関する客観的判断を必然的に伴う。この分析は、事実に関する事情に必ずしも依存しない法律問題(例えば、クレーム解釈の問題)を含む場合があるので、CAFCは、この問題を完結させるのに必要な合理性に関する法律判断を行う立場によりふさわしいのは地方裁判所であると判示した。

CAFCは、既存の米国最高裁の判例に頼ったが、この判例によれば、純粋な法律判断と事実に関する議論との間に横たわる問題を判断するのは、陪審員ではなく裁判官であるべきだとされている。この判示に基づき、CAFCは、シーゲイト事件の客観的な分岐はその全体として法律問題とみなすべきであると結論付けた。

CAFCはまた、自己の意見の裏付けとなるものを米国法の他の領域にも見出した。例えば、米国特許法第285条によれば、「客観的に理由の無い」請求を行った者に対して懲罰的損害賠償及び弁護士費用の請求を許可できるのは、陪審団ではなく裁判所であるとした。

過去の諸判例では、米国最高裁は、客観的に理由が無いことを立証可能な原因の欠如と同等視しており、立証可能な原因の欠如は、根底にある事実に争いが無い場合は法律問題として判断可能である。

加えて、CAFCは以前に、「客観的に理由が無いこと」を示すための基準は故意侵害のために「客観的無謀性」を示すための基準と同一であると判断したことがある。これらの先行する判決から、CAFCは、侵害行為に対する法律的防御への依拠が合理的であるか否かに関する判断も、法律問題として適切に判断可能であると判示した。

従って、CAFCは、懲罰的損害賠償及び弁護士費用も含めて故意性の問題を再審理するように指示した上で、訴訟を地方裁判所に差し戻した。

この重要な判決が強調することは、故意侵害の訴えを伴う特許権侵害訴訟における裁判官の役割が拡大したということである。第1に、裁判官に対して故意性の問題を申し立てることは、訴訟が陪審員の下へ移る前に故意性の訴えをふるいにかける効果を有するであろう。第2に、故意侵害の問題に関する判断が控訴審において一から検討されることにより、陪審団による故意性の判断に対してより緻密な再審理を行うことが可能になる。

この判決のポイント

この事件では、故意侵害の判断に必要な「客観的無謀性」に関する閾値テストが、陪審員ではなく裁判官が判断すべき法律問題であり、控訴審において一から検討すべきもの(de novo review)と判断された。

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