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月刊The Lawyers 2012年7月号(第153回)

2. Bayer Schering Pharma AG 対
Lupin Ltd. 事件

Nos. 2011-1143, -1228 (April 16, 2012)

この控訴審では、全員一致の判決ではないが、CAFCの合議体は、バイエル(Bayer)が提起した2件の特許権侵害訴訟の棄却を支持した。訴訟の相手方は、Watson Pharmaceuticals, Inc. および Watson Laboratories, Inc. (まとめて以下、ワトソン)と、サンド(Sandoz, Inc.)と、Lupin Ltd.および Lupin Pharmaceuticals, Inc.(まとめて以下、ルパン)であった。これらの相手方は、バイエルの医薬品であるヤスミン(Yasmin)のジェネリック薬を製造している。

CAFCは、地方裁判所の判決を支持するに際して、極めて狭い争点を扱った。ワトソン、サンドおよびルパンはいずれも、ヤスミンのジェネリック薬を経口避妊薬としての使用に限ってANDA(新薬簡略承認申請)を申請した。

争点は、(1)避妊作用、(2)抗アンドロゲン作用および(3)抗ミネラルコルチコイド作用を同時にもたらすヤスミンの用法に関する請求項の特許権を侵害したとすることについて、ワトソン、サンドおよびルパンに対して行使可能な特許権を有しているか否かということであった。

CAFCはバイエルの主張を退け、請求項に係る方法に関して医薬品が安全であり有効である(即ち、3つの同時の作用)とFDAが判断したとジェネリック薬の製造業者が提案するラベルが示している場合に限り、ワトソン、サンドおよびルパンが本件特許権を侵害したことになると判断した。

CAFCは、被告のジェネリック薬が、3つある用途のすべてについて承認を同時に求めているか否かということを判断し、係争対象特許権によって保護される複数の用途について各ANDAが承認を求めている場合に限って被告の行為が侵害ないし侵害教唆に該当することになるということを認めた。

しかしながら、CAFCは、被告のANDAはヤスミンに関するバイエルのNDA(新薬承認申請)と実質的に同一であり、各々が経口避妊薬としての医薬品の使用についてのみFDAの承認を求めていると判断した。それゆえ、CAFCは、被告が3つの同時の用途に対する承認を求めてはいないと結論付けた。

CAFCは次に、バイエルが自己のNDAにおいて複数の用途に具体的に言及していないことはさておき、いずれにしてもFDAが係争対象特許発明においてクレームされた3つの同時の効能の組み合わせを達成するようなヤスミンの用法を承認したか否かを検討した。

バイエルは、ヤスミンに関するFDAの承認が「経口避妊薬の使用を選択した女性が妊娠することを防止するため」と述べていることは認めたものの、それでもFDAは3つある同時の作用のすべてを達成するようなヤスミンの用法を承認したと主張した。

バイエルは、この主張の根拠として、ヤスミンのラベルが被告のジェネリック薬のラベルと同一であることを挙げ、ヤスミンが抗ミネラルコルチコイド作用および抗アンドロゲン作用を説明していると述べた。バイエルはさらに、クレームされた効能の組み合わせを招くようなヤスミンの用法をFDAが承認したとする自己の主張を裏付ける文書および宣誓供述書を提出した。

CAFCは、バイエルの主張に同意せず、これを退け、その理由としてラベルが、潜在的な抗ミネラルコルチコイド作用および抗アンドロゲン作用について、これらの作用を引き起こす目的で患者に投与してもヤスミンが安全で有効であるということを医師に推薦ないし提案するような態様では言及していないと述べた。

また、バイエルが提出した裏付け証拠も、CAFCに異なる結論を導かせることができなかった。つまり、CAFCは、追加の裏付け証拠が、係争対象特許発明がクレームする3つの同時の作用をヤスミンがもたらすことができることをFDAが認識していたということを単に示すだけであり、これら3つの作用を必要とする患者にこれら3つの作用を引き起こす目的でヤスミンが安全で有効であるとFDAが考えていたと示すわけではないと判断した。

それゆえ、CAFCは、バイエルが主張する用法についてはFDAがヤスミンを承認していないということ、そして、それゆえ係争対象特許権の侵害に関して被告に責任を負わせることができないということに関して、地方裁判所に同意した。

少数意見として、ニューマン(Newman)判事は、特許権侵害の判断は事実の問題であると考え、当事者の弁論から得られる推論ないし推測に依拠して判断を行うべきではないと述べた。それゆえ、ニューマン判事は、訴訟の過程で特許権侵害の問題を解決する機会をバイエルに与えるべきであると主張した。

バイエルの判決は、使用方法の請求項にかかる特許権を侵害するANDA申請については、FDAが特許された用法を承認していなければならず、また、医薬品のラベルがそのような用法に対するFDAの承認を示していなければならないということを明らかにした。

この判決は、NDAを申請する企業は、特許された医薬品の個別の用法を保護したいと望む場合、NDAにおいて特定される用法と、対応する使用方法の特許においてクレームされた用法の範囲とを考慮しなければならないということを明らかにした。

この判決のポイント

この事件では、ANDA申請が使用方法にかかる特許権を侵害すると認められるためには、FDAが特許された用法を承認していなければならず、また、医薬品のラベルにもそのような用法に対するFDAの承認の記載を求めた。すなわち、薬自体だけではなく、ラベルの記載も侵害の認定に関わる。

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