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月刊The Lawyers 2012年7月号(第153回)

1. EMC Corporation 事件

Misc. Dkt. No. 100 (May 4, 2012)

特許権を所有するだけで特許発明を実施しないオアシス(Oasis Research, LLC)は、2010年8月30日(リーヒ・スミス米国発明法(AIA)が施行される1年以上前)に、テキサス州西部地方裁判所に18社を被告とする特許権侵害訴訟を提起した。

この訴えで、オアシスは米国特許第5,771,354号/第5,901,228号/第6,411,943号/第7,080,051号の特許権侵害を主張した。

これらの特許権はすべて、「家庭用コンピュータ・ユーザーに対して、外部にデータおよびプログラムを格納する用途のオンラインサービスシステムに、ネット経由で遠隔接続することを許諾する方法」をクレームしていた。

オアシスは、すべての被告が家庭用・業務用コンピュータ・ユーザーに対して、オンラインバックアップ・格納サービスを提供していると主張した。

18社のうち8社は、審理を分離し、ユタ州、マサチューセッツ州、アリゾナ州、カリフォルニア州の各地方裁判所へ裁判を移送するよう申立てた。

テキサス州西部地方裁判所は、被告らの提訴されたサービスは「著しく異なるものではない」ことを理由に、審理の併合は連邦民事訴訟規則20条に基づき適切であると判断して、被告らの申立を却下した。

被告らは、事件の審理を分離して、裁判地の移送を地方裁判所に強制することを求めて、CAFCに対し職務執行令状の発行を申し立てた。

CAFCはまず、侵害の審理を分離して裁判を移送する申立に関して職務執行令状の発行が可能か否かを審理した。審理併合の要件は、侵害の争点に関わるため、実質的に特許法に関係する。CAFCはこのため、地方裁判所法ではなく連邦裁判所法を適用して分析した。

CAFCは審理の冒頭において、職務執行令状は「明らかな裁量権の濫用もしくは司法権の剥奪を是正する」特別な場合に発行できると述べた。令状発行を要求する当事者は、(i)望ましい救済を得る手段が他に無いこと、および、(ii)職務執行令状発行の権利が「明らかで議論の余地がないこと」を立証しなければならない。

CAFCは、職務執行令状は状況に応じて発行可能であると判示し、まず、事件が便利な裁判地で審理された場合に勝つ可能性があることを、裁判の分離・移送の申立の審理を望む当事者は終局判決の控訴審において立証することができないことから、裁判の分離・移送の申立の審理を望む当事者には救済を得る他の手段がないと認定した。

第2の要因に関してCAFCは、地方裁判所が判決を下す上で誤った法的結論に基づいていた場合、「明らかで議論の余地がない」という要件を満たすと判示した。さらに、もし併合が不適切であるならば、申立人は、侵害・故意・賠償金の争点において、当事者ごとの抗弁をする有意義な機会を持つことなく、裁判で不利益を被ることから、職務執行令状はこの状況において適切な救済手段であると認定した。

審理の分離の争点に関して、CAFCはまず、規則第20条の以下の2つの要件を満たしている場合のみ、被告の審理の併合は妥当であると述べた。すなわち、(i)当事者に対する主張が「同一の取引・事件、または一連の取引・事件に関するか、それに起因」しており、かつ、(ii)「すべての被告に共通する法律または事実問題が存在する」場合である。

CAFCは、侵害被疑サービスに「著しい違いが無い」として取引・事件の要件を満たしているとした地方裁判所の判断を拒絶した。むしろ、被告らの個々の訴因に「論理的な関連性」がある場合のみ、この条項を満たしている、と判断した。

被告らの侵害被疑行為が法的効力のある事実を共有している場合に、論理的な関連性がある。特に、異なる製品またはプロセスが含まれている場合、併合は不適切である、とCAFCは述べた。

さらにCAFCは、侵害被疑製品またはプロセスが、それぞれの侵害訴因を生ずる被告らの間で共有の重複する事実があるという意味で同じ場合のみ、個々の被告の審理の併合は妥当である、と説明した。

こうして、CAFCは職務執行令状発行の申立てを一部認め、この基準に基づき分離の申立てに対して改めて審理するよう、事件を地方裁判所へ差し戻した。CAFCは、地方裁判所が差し戻し審において考慮すべき新たなファクターを示した。(i)侵害被疑行為が同時期に行われたか、(ii)被告間の関係の有無、(iii)同一の供給元からの部品使用の有無、(iv)被告間のライセンスまたは技術契約の有無、(v)製品またはプロセスの開発および製造の重複の有無、(vi)事件が遺失利益の主張に関するものであるか、である。

この事件は規則第20条に基づく審理併合の可能性を著しく限定したが、CAFCは、裁判地が妥当であり共通の法律または事実問題がある場合の、規則第42条に基づく証拠開示手続および裁判を統合できる大きな裁量権を地方裁判所に残した。

この判決により、AIA施行以前に提起された複数の被告に対する特許訴訟において、被告は審理併合に対して異議を申し立てる強力な後ろ盾を得たと言えよう。この判決により、厳格な併合の制限を避けようとして、AIA施行前に訴訟提起したにも関わらず、その原告らの主張は、分離の対象となるであろう。

この判決のポイント

この事件においてCAFCは、リーヒ・スミス米国発明法(AIA)の施行以前に提起された複数の被告に対する特許訴訟事件における、連邦民事訴訟規則第20条に基づく審理併合の適切な基準を示した。その基準は、被告らに対する原告の主張が、同一もしくは一連の取引・事件に関するもので、かつ、すべての被告に共通する法律または事実問題が存在する場合のみ併合を可能とするものであり、併合の要件を著しく限定した。

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