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月刊The Lawyers 2012年4月号(第150回)

2. Thorner 対
Sony Computer Entmt. Am. LLC et al. 事件

No. 2011-1114 (February 1, 2012)

Craig Thorner及びVirtual Reality Feedback Corp.(以下、まとめてバーチャル)は、米国特許第6,422,941号(941特許)の特許権侵害を主張して、ニュージャージー州地方裁判所においてSony Computer Entertainment America LLC及び他の複数のソニー社(以下、まとめてソニー)に対して訴訟を提起した。

地方裁判所は特許クレームの文言を解釈した後、ソニーの非侵害の略式判決を下し、バーチャルはこれに対し控訴した。控訴審においてCAFCは、地方裁判所がクレーム文言の解釈を誤ったと認め、地方裁判所の判決を破棄し、差し戻した。

941特許は、コンピュータビデオゲームの触覚フィードバックシステムに関するもので、そのクレームは、ゲーム機器を動作させるより大きなゲームシステムの一部である触覚フィードバックコントローラを要件とする。

そのゲーム機器は、例えば振動などの触覚フィードバックをユーザーに提供するためのアクチュエータを含む。バーチャルは、ソニーの特定の携帯型ゲームコントローラが941特許のクレームを侵害していると主張した。

独立請求項1は、「フレキシブルパッド」、「前記パッドに取り付けられた複数のアクチュエータ」及びアクチュエータを駆動させる制御回路を要件とする。CAFCは、「フレキシブルパッド」及び「前記パッドに取り付けられた」との二つのクレーム限定に着目した。

クレーム解釈で、地方裁判所は「フレキシブル」が「容易に、著しく曲げることができる」と解釈した。そして、地方裁判所は、鉄骨は曲げることができるが、フレキシブルではないと述べ、フレキシブルをただ「曲げることができる」と解釈することを拒否した。

地方裁判所はまた、明細書では一貫して「取り付けられた」がアクチュエータを物体の外面に取り付けることを示すように、そして物体の内側にあるアクチュエータに言及するときには「組み込まれた」が用いられていたことを理由に、「取り付けられた」との文言は物体の外側に取り付けられることを意味すると認定した。ソニーはこのクレーム解釈をもとに非侵害が認められ、バーチャルが控訴した。

CAFCは地方裁判所のクレーム解釈を審理した。控訴審において、バーチャルは、地方裁判所が「取り付けられた」を過度に狭義に解釈したと主張し、「取り付けられた」は、外側または内側の表面に取り付けられていることを包含するように解釈されるべきであると主張した。

ソニーは、明細書において「取り付けられた」と「組み込まれた」との二つの異なる種類の取り付けが特定されており、明細書における「取り付けられた」との文言のあらゆる事例が外面への取り付けを示しているとの主張を繰り返した。

CAFCはまず、「取り付けられた」のシンプルな意味は、外側及び内側への取り付けを包含すると述べた。そしてCAFCは、特許権者が明細書中で明確な除外を行っていないので、文言の範囲を限定しないと判断した。

CAFCは、明細書中のアクチュエータは「外面に取り付けられている」との記述を強調し、もし「取り付けられた」が外面に取り付けられることのみを意味するならば、引用されたフレーズにおいて追加的文言は不必要であっただろうと理由付けた。

CAFCは選択肢として二つの文言を引用することは、クレームの文言を再定義するには不十分であり、範囲の明確な除外にはならないと述べた。CAFCは「組み込まれた」は単純により狭義な文言であり、「取り付けられた」は内側または外側のいずれかへの取り付けを包含すると認定した。

CAFCはまた、「フレキシブルパッド」とのクレームの文言にも着目した。バーチャルは「フレキシブル」は「曲げることができる」ことを意味すると主張した。

一方、ソニーは、明細書では容易に曲げられうる素材である、気泡を含むフレキシブルな構成が記載されており、故に堅い素材はフレキシブルであるとみなされないと主張した。CAFCはバーチャルを支持し、地方裁判所が「フレキシブル」の文言の意味を不適切に限定したと判断した。

CAFCは柔軟性の度合及び訴えられた製品が「フレキシブル」であったか否かを判断する作業は、侵害分析において取り扱われるものであり、クレーム解釈の一部ではないと説明した。

地方裁判所によるクレーム解釈の誤りに基づいて、CAFCは判決を取消し、事件を差し戻した。CAFCは、適切なクレーム解釈に基づく非侵害との略式判決の可能性を保留した。

この判決は、クレーム解釈を審理することができる、何にも拘束を受けないCAFCの絶対的な権限を示した。地方裁判所及びCAFCは、特許権者がクレームの文言にその文言の通常の意味より狭い意味を与えたか否かを判断するために注意深く特許クレーム及び明細書の文言を解釈した。

バーチャル判決は、特許権者が自身の辞書編集者の役目を果たすか、もしくはクレームの文言の最大限の範囲を明らかに否定しない限り、CAFCはクレームの文言にそれらの通常の意味を与えることを示唆する。

この判決のポイント

この事件では、クレームの文言の解釈を審理するCAFCの絶対的な権限が示された。明細書中において、特許出願人が文言の範囲について言及しない限り、CAFCはクレームの文言にそれらの通常の意味を与えることが明らかとなった。

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