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月刊The Lawyers 2012年4月号(第150回)

1. HTC Corp. 対 IPCom GmbH & Co., KG 事件

No. 2011-1004 (January 30, 2012)

HTC(HTC Corp.)は、IPCom(IPCom GmbH & Co., KG)が所有する特許権の1つについて非侵害の確認を求めて訴状をコロンビア州地方裁判所に提出した。IPComは反訴を起こし、米国特許番号第6,879,830号(830特許)を含む2つの特許で権利侵害を申し立てた。

830特許はセルラ電話網におけるハンドオーバを対象とする。「ハンドオーバ」は、セルラ電話機を使用する人がセル間を車で移動する場合のように、1つの基地局(タワー)につながっているセルラ電話機が別の基地局に切り替わる処理のことである。

HTCは830特許が無効であることの確認を求める略式判決を求める申立てを提出し、地方裁判所は、830特許の特定のクレームが装置及び方法(ステップ)の2つの発明を不適切にクレームしているので、クレーム(発明)が不明確であることを根拠として、HTCの申立てを認めた。

この事件ではすべてのクレームを扱ったわけではないが、この決定は即時控訴の基準を満たしていた。控訴審においてCAFCは、地方裁判所がクレームの解釈を誤ったと判断し、適切に解釈した場合にクレームは有効であると述べて原判決を破棄した。

830特許の争点のクレームは6個の機能を記載していた。クレームの有効性はクレームのプリアンブルに共に記載されている移動局(すなわち、セルラ電話機)とネットワークのどちらが6個の機能を実行するかに依存するとCAFCは述べたが、地方裁判所は6個の機能を実行するのは移動局であると判断した。

クレームを審理し、機能を実行するのは移動局ではなくネットワークであると判定したCAFCは、クレーム文言及び明細書に基づいてクレーム解釈を行い、地方裁判所が審査経過における主張に重きを置きすぎたと指摘した。

CAFCは、クレーム及び明細書を重視する上で、審査経過は出願人とPTO間の交渉を示すものであり、その交渉の最終結果ではないと説明した。

次に、CAFCは、装置及び方法の両方をクレームするハイブリッドクレームを禁止する判例に照らして、適切に解釈されたクレームが不明確であるかを審理した。

CAFCは、クレームが、ユーザーに方法のステップを実施可能にさせるシステムやユーザーによる当該方法のステップの実施を記載していないと判断した。それとは逆に、クレームは、移動局が動作するネットワーク環境の基礎を成す機能を記載しているとCAFCは判断したのである。

従って、CAFCは、クレームが許容されないハイブリッドクレームではないと判断し、さらに「特定のネットワーク環境で使用されるべき移動局であるクレームされた装置を製造・使用・販売の申出・販売する」場合に侵害となる、と判示した。

特許が無効であるとする別の根拠として、HTCは、ミーンズ・プラス・ファンクション・クレームを規定する米国特許法第112条第6段落の要件を充足するための対応する構成を特許クレームが開示していないと主張した。

特に、HTCは、明細書のセルラ電話機を参酌しても、クレームのハンドオーバ機能を実行するための十分に複雑なハードウェアを有するプロセッサ及びトランシーバが使用されていることは十分に伝わらないと主張した。

CAFCは、クレームの機能に対応する適切な構成を明細書が説明しているかどうかの基準は、当業者の視点によると説明した。

HTC側の専門家は、プロセッサ及びトランシーバが、発明当時の移動体電話機に典型的に見受けられるコンポーネントであったことを認めた。

ここで、CAFCは、明細書はプロセッサ及びトランシーバを文言上は開示していないが、専門家の証言録取に依拠したことは明確な誤りではないと判断した。従って、CAFCは、当業者であれば移動体装置がプロセッサ及びトランシーバを含んでいたはずであろうことを理解しただろうという点で地方裁判所に同意した。

続いて、CAFCは、プロセッサ及びトランシーバ単体の開示がこれらのクレームに構成を提供するために十分であったという地方裁判所の認定は、法律を誤って適用していると指摘した。

CAFCは、プロセッサ及びトランシーバの開示は、結局のところ汎用コンピュータにしかならないと理由を述べた。

確立された判例法に基づき、CAFCは、明細書も、プロセッサ及びトランシーバによって実行されるアルゴリズムを当業者に開示しなければならないと述べた。

IPComが指摘するアルゴリズムの妥当性についてHTCが異議を全く申し立てなかったので、明細書がこのようなアルゴリズムを開示したかどうかの分析を、地方裁判所が全く行わなかったとCAFCは判断した。

CAFCは、控訴審において初めて出てきた争点は事実認定を要するので判決することができなかった。よって、差し戻し審において、地方裁判所は、以前に取り上げることができたであろう争点に、より多くのリソースを費やさなければならない。

よって、CAFCは、HTCがこの主張に関する自身の権利を放棄したと認定した。以上により、CAFCは、米国特許法第112条第6段落の要件を満たしていないという略式判決の申立を地方裁判所が認めなかったことを取り消すことを拒否した。

この事件の判決により、発明を正確に記載する特許クレームの起案の重要性が浮き彫りになった。クレーム解釈において、CAFCがクレームの文言及び文法ルールの使用に重点を置いたことで、特に手続きが他の言語への翻訳を伴う場合には、慎重に特許クレームを起案するよう注意喚起している。

この判決はまた、控訴審において争点が維持されるためには、争点が地方裁判所によって審理済みであることが重要であることを示した。

この判決のポイント

この判決により、発明を正確に記載する特許クレームの起案の重要性が浮き彫りになった。クレーム解釈において、CAFCがクレーム文言及び文法ルールの使用に重点を置いたことで、特に手続きが他の言語への翻訳を伴う場合には慎重に特許クレームを起案する必要がある。

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